王の凱旋(※脳内)、そして……
「タカシ様……っ! 私が愚かでした! どうか、どうかこの身をあなたの奴隷として生涯捧げることをお許しください!」
王都の巨大な謁見の間。
きらびやかな玉座にふんぞり返る俺の足元で、あの高飛車だった金髪の女騎士が涙ながらにすがりついている。
「ええ、本当に……。レオンなんてただの偽物でした。タカシ様のその圧倒的な魔力と、包み込むような優しさに比べれば、あんな男は路傍の石ころですわ」
シスターも俺の腕に豊満な胸を押し付けながら、甘い吐息を漏らしている。
そう、あいつらの冷たい態度は『真の勇者を見極めるための試練』だったのだ。俺が本気を少し出しただけで、魔王軍の幹部は一瞬で消し飛び、俺の実力を悟った女たちは我先にと俺の愛人枠を争い始めた。
ちなみに、あのイケメン気取りのレオンは俺の足舐め係として雇ってやっている。
「ふひっ……まぁ、お前らも最初は見る目なかったけど、改心したなら許してやるよ。俺ってば器デカいし? ほら、もっと俺の凄さを讃えろよ」
「はいっ、タカシ様……! ああ、愛しています……!」
女騎士の美しい顔が俺の顔に近づいてくる。
柔らかい唇が、俺の唇に重なる――!
「んちゅ……んっ、んん? ……んんん?」
……おかしい。
美少女の唇にしては、やけにザラザラしているし、生温かい。
それに、なんだこの匂い。花のようないい香りじゃない。生ゴミと、アンモニアと、泥が混ざったような……。
「……痛ぇッ!?」
鼻先に走った鋭い痛みで、俺はバチッと目を覚ました。
「グルァッ! ガルルル……!」
「ひぎぃっ!?」
目の前には、薄汚れた野犬の顔。そいつが俺の鼻に噛み付いていたのだ。
そして顔には、生温かい黄色い液体が滴り落ちている。
玉座なんてない。シスターの柔らかい胸もない。あるのは冷たい泥と、腐った野菜の山だけだ。
「あ、あ、あああ……」
野犬を蹴り飛ばし、顔をゴシゴシと拭う。手にべっとりと付いた異臭を放つ泥を見て、さっきまでの至福の時間がすべて『スライムにふっ飛ばされて気絶中に見ていた幻覚』だったという残酷な現実が、ゆっくりと脳を侵食していく。
遠くから、歓声が聞こえた。
王都のメインストリートの方だ。群衆の熱狂の中心には、白馬に乗って凱旋するレオンと、それに寄り添って幸せそうに微笑む女騎士とシスターの姿があった。
誰が見ても、完璧な勇者パーティーだった。
「ち、ちがう……あれは俺の……俺がそこにいるはずなんだ……ッ!」
現実は、彼らは俺の存在など1ミリも覚えていない。
だが、タカシの歪んだ脳みそは、その事実を受け入れられない。
「寝取られた……っ! あのクソイケメン、俺のヒロインたちを寝取りやがったああああ!! 幼馴染の時と同じだ! なんで俺ばっかりこんな目に! 許さねぇ、絶対に許さねぇぞレオン……!!」
誰にも愛されたことのない男が、勝手に愛された幻覚を見て、勝手に寝取られたと発狂する。
ハエが飛び交うゴミ捨て場の中心で、キモオタの血を吐くような怨念の叫びが虚しく響き渡った。




