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Code:129 異変の真相②

 天気予報のように、災魔(ハザード)の出現を予知する。

 そんな能力は、ギルドの記録にも、いかなる文献にも存在しない。

 アルスフリートとしての膨大な知識を総動員しても、心当たりすらなかった。


「本当に、予知できたんですか?」


 声に疑念を隠すつもりはない。

 偶然を必然に見せかける——詐欺の常套手段(じょうとうしゅだん)だ。

 辺境の村人を丸め込む程度なら、手慣れた者には造作もない。

 

 ニコラスは疑われていることを承知で、重々しく頷いた。

 手帳の間から、一枚の紙を抜き出す。


 そこには、日付、時刻、出現地点、災魔(ハザード)の種類。

 全てが几帳面(きちょうめん)な筆跡で記されていた。


「信じられないかもしれませんが、百パーセントの的中率でした。一件の例外もなく」


 アルトはDOC(ドック)のデータベースを開き、イリオル村周辺の災魔(ハザード)出現記録を照会した。

 

 手元の紙に並ぶ数字と、端末に表示された公式記録。

 公式記録は一般公開されていない情報のはずなのだが、両者は寸分の狂いもなく合致している。


「これは……」


 アルトの指が端末の上で止まった。

 もしこの記録が本物なら、とてつもない能力だ。

 

 ——いや、能力という言葉で片づけていいものか。

 脳裏に、もうひとつの可能性が浮かぶ。


「予知というよりは——まるで、災魔(ハザード)そのものを操っているかのようですね」


 静かに放った一言が、応接室の空気を塗り替えた。

 図星を突かれた——というより、自分でも恐れていた仮説を他人の口から聞かされた者の反応だった。

 手にしたメモが、かさりと乾いた音を立てる。


「私も……同じことを考えました。でも、それを裏づける証拠が何もない。それに村長は、すっかり彼を信じ込んでしまっていて——」


 悔しそうに唇を噛む。

 自分の無力を咀嚼(そしゃく)するような、苦渋(くじゅう)の沈黙だった。

 やがてニコラスはコップを持ち上げ、一口だけ含んでから話を続けた。


「イリオル村はこれまで、導力灯のおかげで災魔(ハザード)の被害を最小限に抑えられていました」


 アルトは頷く。導力灯は範囲内の魔導粒子(マギオン)総量——つまり人口が少ないほど効果が高い。

 ルーネスハーベンのような大都市の外縁に設置しても気休めにしかならないが、イリオル村ほどの小さな集落であれば、災魔(ハザード)避けとして十分に機能する。


「しかし——」


 ニコラスの声が沈む。


「導力灯は、あくまで災魔(ハザード)の探知能力を妨害する装置に過ぎません」

「確かに、物理的な障壁ではないですからね。あてもなく迷い込んだ災魔(ハザード)が導力灯の効果範囲に入ってしまえば、探知妨害も意味をなさず、村は無防備になる」

「仰る通りです。年に数回は、結界内に迷い込んだ災魔(ハザード)に村人や家畜が襲われていました。建物を壊されることも」

「どこの村でも起こりうることですね」


 アルトの淡々とした返答に、ニコラスは力なく口の端を持ち上げた。


「けれども、アドラールが来てからの三年間——そういった被害が、一切なくなったんです」


 年に数回の被害が、たった一人の来訪を境に完全に消える。

 そんな都合のいい話があるものだろうか。


「どんな手法を使っているのか問い(ただ)した時、私は耳を疑いました。なんと彼は、先手を打ってギルドへ『災魔(ハザード)を目撃した』と通報していたんです」

「つまり、通報した時点では、村の近くに災魔(ハザード)がいる保証はないわけだ」


 アルトが先を読んで答え、さらに続けた。


「虚偽通報……まあ、まったくないことではありません。しかし、根拠のない通報で術式師(コーディアン)を駆り出されては治安に関わる。ペナルティも当然あります。一度や二度なら誤認として処理されますが、意図的に繰り返せば派遣の優先度は大幅に下がる。そうなれば周囲の住民にまで被害が及びますから、場合によっては魔導犯罪者(マヴィアラン)として認定されるでしょう」

「ええ。ですが、奇妙なことがあったんです」


 テーブルに置かれたニコラスの指先が、無意識に紙の端を折り曲げていた。


「アドラールが通報するたびに、必ず村の近隣、結界の外ではありますが、偶然入り込みうる距離に——災魔(ハザード)が現れていたんです」


 アルトの表情が険しくなった。


「派遣された術式師(コーディアン)の方々が調査中にその個体を発見し、討伐する。結果として『通報は正しかった』と処理される」

「まるで、災魔(ハザード)がいつどこに現れるか、最初から知っていたかのようですね」

「私もそう思います。あまりにも都合が良すぎる」


 ニコラスは拳を強く握りしめ、語気を強めて言った。


「でも村人たちは、アドラールの予知能力だと信じて疑わないんです」

 

 アルトは腕を組み、天井を見上げた。

 偶然と作為のあいだで揺れる仮説を整理する。

 そして、視線をニコラスの方へ戻した。


「では——なぜ今回は災魔(ハザード)の侵入を許したのですか?」

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