2/147 天原 振放見者 大王乃 御壽者長久 天足有
2/147
題詞:近江大津宮 御宇天皇代 [天命開別天皇 謚曰 天智天皇] / 天皇聖躬不豫之時 太后奉御歌一首
原文:天原 振放見者 大王乃 御壽者長久 天足有
訓読:天の原 振り放け見れば 大君の みことは永く 天満たしたり
仮名:あまのはら ふりさけみれば おほきみの みことはながく あめみたしたり
貴方の御言葉は永久に天下を満たすでしょう。
~~~~~~
2/148
題詞:一書曰 近江天皇 聖躰 不豫 御病急時 <太>后 奉獻 御歌一首
原文:青旗乃 木旗能上乎 賀欲布跡羽 目尓者雖視 直尓不相香裳
訓読:青旗の 小旗の上を 通ふとは 目には見れども 直に会はぬかも
仮名:あをはたの こはたのうへを かよふとは めにはみれども ただにあはぬかも
木幡:京都府宇治市。こはた
私よりも周りにいる子供たちの方が気になるみたいね…。あの人と心を交わせる日はもう来ないかもしれませんね。
~~~~~~
2/149
題詞:天皇崩後 之時 倭太后御作歌一首
原文:人者縦 念息登母 玉蘰 影尓所見乍 不所忘鴨
訓読:人は縦し 生くると思はも 玉かづら 影に見えつつ 忘らえぬかも
仮名:ひとはよし いくるともはも たまかづら かげにみえつつ わすらえぬかも
人は仕方なしに生きていくと思うけれども、玉かずらに貴方の面影を見て忘れられないでしょう。
~~~~~~
2/150
題詞:天皇崩時 婦人作 歌一首 [姓氏未詳]
原文:空蝉師 神尓不勝者 離居而 朝嘆君 放居而 吾戀君 玉有者 手尓巻持而 衣有者 脱時毛無 吾戀 君曽伎賊乃夜 夢所見鶴
訓読:現世見し 神に勝てねば 離きをりて 明日嘆く君 放けをりて 吾が恋ふる君 玉にあらば 手に捲き持ちて 絹にあらば 脱ぐ時もなき 吾が恋ふる 君来にし夜の 夢見えつるぞ
仮名:うつせみし かみにかてねば さきをりて あすなげくきみ さけをりて あがこふるきみ たまならば てにまきもちて きぬならば ぬぐときもなき あがこふる きみきにしよの ゆめみえつるぞ
現世見し神:天武天皇=大海人皇子。
賊:にしもの、にし。
恋愛で大海人皇子に負けた事で彼から距離を置き、その後もずっと嘆いていたら見放された貴方。そんな貴方が宝石だったら手に捲いて持っていたい、服だったらずっと着ていたい。貴方と初めて一夜を共にしたあの日を今も夢に見ます。
~~~~~~
2/151
題詞:天皇 大殯之時 歌二首
原文:如是有乃 豫知勢婆 大御船 泊之登萬里人 標結麻思乎 [額田王]
校異:豫 [金][類][古] 懐 / 人 [古][紀] 尓
漢文:婆勢 豫知 乃有 如是 矣 麻思 結 標 人 之泊 登萬里 大御船
訓読:斯くあると 叶ねて知りせば 大み船 泊まり泊てしに 標結はましを
仮名:かくなると かなひしりせば おほみふね とまりはてしに しめゆはましを
豫知=予知
標:紐や草などの印となる物。結婚を暗示。
こんな事になると兼ねがね知っていたなら、貴方と結婚してもよかったのかなあ。
~~~~~~
2/152
原文:八隅知之 吾期大王乃 大御船 待可将戀 四賀乃辛埼 [舎人吉年]
訓読:八隅知し 吾ご大王の 大み船 恋ひ待ちなむか 滋賀の唐崎
仮名:やすみしし あごおほきみの おほみふね こひまちなむか しがのからさき
貴女の船は唐崎で待っているでしょう?
~~~~~~
2/153
題詞:<太>后 御歌一首
原文:鯨魚取 淡海乃海乎 奥放而 榜来船 邊附而 榜来船 奥津加伊 痛勿波祢曽 邊津加伊 痛莫波祢曽 若草乃 嬬之 念鳥立
訓読:鯨獲る 淡海の海の 沖放けて 漕ぎ来る船の 沖つ櫂 痛く跳ぬるな 辺に着けて 漕ぎ来る船の 辺つ櫂も 痛く跳ぬるな 若草の 妻想ひつる 鳥発たらしぬ
仮名:くぢらとる あはみのうみの おきさけて こぎくるふねの おきつかい いたくはぬるな へにつけて こぎくるふねの へつかいも いたくはぬるな わかくさの つまおもひつる とりたたらしぬ
船よ、波を立てるでない。若草のような妻を想ってくれる鳥(天智天皇)が飛び立つから。
~~~~~~
2/154
題詞:石川夫人歌一首
原文:神樂浪乃 大山守者 為誰<可> 山尓標結 君毛不有國
校異:<>→可 [金][類][古]
訓読:楽浪の 大山守りは 誰が為に 山に標結ふ 君も在らぬ国[公も在らなくに]
仮名:ささなみの おほやまもりは たがために やまにしめゆふ きみもあらぬくに
楽浪:滋賀県の地名。
さざめく:賑やかに騒ぐ。さんざめく。
~~~~~~
2/155
題詞:従 山科御陵 退散 之時 額田王 作歌一首
原文:八隅知之 和期大王之 恐也 御陵奉仕流 山科乃 鏡山尓 夜者毛 夜之盡 晝者母 日之盡 哭耳<呼> 泣乍在而哉 百礒城乃 大宮人者 去別南
校異:乎→呼 [金][類][紀]
訓読:八隅知し 我ご大王の 畏しや みささぎ祀る 山科の 鏡の山に 夜にはも 夜のことごとく 昼にはも 日のことごとく 哭上げつつ 泣くのみにあらす 百敷きの 大宮人は 別かれゆきなむ
仮名:やすみしし わごおほきみの かしこしや みささぎまつる やましなの かがみのやまに よるにはもう よのことごとく ひるにはもう ひのことごとく ねあげつつ なくのみならす ももしきの おほみやびとは わかれゆきなむ
こっきゅう(哭泣):泣き叫ぶ。
おらぶ:叫ぶ。
滋賀の唐崎、淡海の海、楽浪の大山守は全て天武天皇を暗示?
淡海の海から来る船は額田王を暗示?




