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令和百物語  作者: みるみる
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第九夜 空き地の車



僕の近所には空き地がある。そして、その空き地には、黒いワゴン車がずっととまっていた。赤く錆びていて、車の中の段ボールや袋もボロボロになっていた。


この黒いワゴン車は、近所の子供達の間では〝幽霊が出る車″として有名だった。


「なぁ健太、夏休みの自由研究決まった?おれさぁ、幽霊が出る車を一ヶ月研究するんだ。絶対真似するなよ!」


「まじかよ。バカじゃねーの?そんな危ねー事していいのかよ、やばいじゃん。」


そしてこの馬鹿、じゃなくて武郎は以前から異常なほど幽霊が出る車の事を気にしていた。実は、この幽霊が出る車の噂を広めたのも、武郎だった。


「だって、オレ本当に見たんだもん。本当に白い影を車の所で見たもん。でも誰も信じねーし、悔しいじゃん。だから、幽霊の写真撮ったり、色々証拠掴んで、本当に幽霊が出る車だって証明したいじゃん!」


「まじかよ‥‥やばいよ。もし本当に幽霊が出たり、変な奴が出てきたら危ないって!」 

  

「いや、オレはやる。携帯電話を持ってるし、何かあれば電話するし。もう、決めたから!」


武郎は、僕がなんと言っても、やると言って聞かなかった。





それから夏休みが始まり、毎日武郎からメールが届くようになった。


「今日は朝から夕方まで変化なし。夜七時、塾の帰りに見に行くと、車の荷物が増えた気がした。誰かがあの車で荷物の出し入れをしている証拠だ。写真二枚あり。」


夕方の車の写真と七時の車の写真を見ると、確かに段ボールが増えていた。


また次の日、武郎からのメールがきた。


「変なおじさんがいた。車の中から、犬の餌を取り出して何処かへ歩いて行った。車の持ち主だ!こっそりついて行って、おじさんの住み家を見つけた!」


まじかよ‥。僕はすぐに返信した。


「もうやめろ!そのおじさんに見つかったらやばいって!」


それでも次の日になると、また武郎からメールがきた。


「おじさんに、見つかった。やばい、逃げてきたら家まで追いかけて来た。‥家がバレた。」


「おい、武郎!もうやめろって!親にもちゃんと言えよ!」


また次の日、武郎からメールが来た。


「家の前にカラスの死体が置いてあった。あのおじさんがやったんだと思う。あと、オレの自転車がパンクさせられてた。あのおじさん、やばい奴だ。今日は、この事を親に正直に話してみる。」


「分かった。」


僕は武郎のメールを見て安心した。


そして次の日、武郎からメールがきた。


「おじさん、やばい。家の玄関から出てきたオレに向かって、何か生ゴミみたいなのを投げてきた。親の車にも変な液体がかけられてた。親が警察へ行って、被害届けを出してくるって言ってた。」


「おじさん捕まった?」


次の日、武郎からのメールがきた。


「おじさん家やばい。犬の糞だらけで、超臭い。ゴミ屋敷だった。オレの父さんが文句を言いに行ったら、斧で襲いかかってきた。母親が携帯で通報して、捕まった。」


「おじさん家に行ったのか?!お前ん家ばかだな。殺されてたかもしれないんだぞ!」


「オレの父さん血の気が多いから、おじさんの事をムカつくから一発殴りたかったんだって。」


「おまえの父さん、バカだな!捕まってもすぐに釈放されて仕返しされるかもしれないんだぞ!」


「ばかだな。オレの父さんヤンキーやってたし、まじ強いから心配ないって。」


「武郎‥‥まじで気を付けろな。」






あれから、おじさんが警察から帰ってくる事はなかった。


あの幽霊が出る車の騒動は、刑事事件に発展していた。



あの車の下に、おじさんの母親が埋められていたのだ。母親は何年も前に亡くなっていたようで、掘り起こした際にはもう白骨化していたのだ。


おじさんは、亡くなった母親を空き地へ埋めて、母親の国民年金を何年も不正受給していたようだ。


警察によると、おじさんは、母親が死んでから市へは死亡届を出したという。年金機構へも届けを出すことを知らなかったのだと話し、容疑を否認しているという。





おじさんの住む家には、大量の野良犬や野良猫がいた。床の上には、動物の糞尿と死骸もあふれていたらしい。


餌が足りなかったのか、動物同士の共食いもあったようだ。


動物達は痩せ細り、目の周りは爛れていて、体の毛もベトベトに絡まっており、一度も洗ってもらった様子はなく、病気になっても放置されていたらしい。


屋敷は、ゴミと動物の糞尿、死骸に溢れたゴミ屋敷だったのだ。


ずっと、おじさんは引きこもりがちで、近所の人との交流はなかったそうだ。きっと寂しくて拾った野良猫を飼っていたのだろう。


そのうち動物は増え続けていって、動物の糞尿の異臭やゴミの事で、近所の人達から文句を言われるようになり、おじさんはまわりから更に孤立していったのだろう。


おじさんは、ますます動物達に固執し、不正受給していた母親の年金も、動物の餌代や自分の生活費に当てていたと思われた。


あの幽霊が出る車は、実況見分等が行われた後に処分された。


車の中からも、沢山の動物の遺体が発見されたそうだ。





幽霊が出る車の騒動の後、武郎は大人しくなっていた。もっと、皆んなに自分が事件に関わった事を自慢すると思ったのに、意外だった。あのおじさんの事がよほど怖かったのか?


そんな武郎が、しばらくしてから僕に後日談を語ってくれた。


「健太、あのおじさんが警察に捕まった後も、オレどうしてもあの幽霊が出る車が気になって、何度か夜にそっと見に行ったんだ。


そうしたら、やっぱり白い影がぼんやり浮かんでいたんだ。よく見たら、おばあさんの顔だった。あんな虚で生気のない顔、初めて見た。本当に怖かったんだ。家に帰ってもずっと、あのおばあさんの顔が頭から離れなかった。


オレ、もう二度とあの空き地には近づかないよ。」



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