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令和百物語  作者: みるみる
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第十夜 雛人形



「我が家の雛人形は、押し入れにしまわれる事はありません。箱に入れてリビングの棚の下に置いてあります。


お母さんが、雛人形を押し入れにしまうと、うちの雛人形達は一晩中文句を言ってくるので、仕方がありません。」


パチパチパチ。


「はい、岡本紗奈さん。ありがとうございました。素敵なお話でしたね。皆さんが寝てる時にも、このようにおもちゃや人形たちがお話してるかもしれませんね。」


今日は、国語の授業で一分間スピーチをしています。1分間話せば良いだけなので、作り話や詩を披露しても良い事になっています。


でも、私は前の席の紗奈ちゃんの話がとても気になって、授業中ですがこっそりと話しかけました。


「紗奈ちゃんの雛人形、本当に喋るの?」


「本当だよ。気になるなら、うちに泊まりにくる?お母さんに言って、リビングに布団敷いて貰うし、良かったらおいでよ。」


紗奈ちゃんは、そうやって誘ってくれますが、私のまわりの女子は、私のことを何か言いたげに睨んできました。


授業後、トイレに行く途中に、二、三人の女子に階段の踊り場へ連れて行かれました。


「ねぇ、悠亜ちゃん。まさか紗奈の言う事信じてるの?あいつ嘘つきじゃん!この前も、学校の体育館の舞台に男の子の霊が座ってるって言って、皆んなを怖がらせて先生に怒られてたじゃん。


あいつ、霊が見えるって言って、皆んなに注目されたいだけなんだよ。だから、紗奈の家に行かない方が良いよ。他の女子に嫌われるからね。」


そう言って、女子のグループは去って行きました。


それでも私は結局、彼女達の忠告を無視して紗奈ちゃんの家に泊まりに行きました。


だって、気になってしょうがなかったのです。


紗奈ちゃんの家に着きました。とても大きくて真っ白なお家です。お化けが出そうには見えません。新しいし、庭の芝生も綺麗で素敵でした。


ピンポーン。


「はーい。あっ悠亜ちゃんよね、うちの子がまた変な事言ってたでしょ。ごめんね。何も怖いものは出ないから、安心してね。」


「はい。宜しくお願いします。」


チャイムを押して出てきた紗奈ちゃんのお母さんは、とても綺麗でした。耳には綺麗なピアスをしていて、うちの母とは大違いでした。


紗奈ちゃんの家へあがると、紗奈ちゃんが自分の部屋へ連れてってくれました。


紗奈ちゃんの部屋で、ジュースとケーキを食べました。お洒落な家の三時のおやつは、やっぱりケーキなんだなぁと思いました。


それに、紗奈ちゃんと二人だけで遊ぶのは、初めてでしたが、アニメの話や好きな動画の話で盛り上がり、とても楽しく過ごせました。


そして、夕食のカレーライスを頂き、お風呂も借りて、いよいよ寝る時間になりました。


「本当にリビングで寝るの?」


「うん。でね、リビングの押し入れに雛人形を入れてみるの。」


そう言って、紗奈ちゃんは雛人形の入った大きい箱を引き摺りながら、押し入れへ突っ込みました。


「ねぇ、押し入れが嫌だって雛人形が文句を言うから、リビングに出したんでしょ?大丈夫なの?」


「何が?だって、押し入れに入れないと、雛人形の話し声が聞けないよ。」


「あっ、そうか‥‥。」


こうして、雛人形は押し入れに入れられて、二人でリビングの脇の押し入れ近くに布団を敷いて寝る事にしました。




カリカリカリ、カリカリカリ、



「紗奈ちゃん。何か音がする。」


スースー。


「紗奈ちゃん、起きて!」


聞きなれない音が部屋に響いて、私は怖くなり紗奈ちゃんの体を揺さぶりながら呼びました。でも、紗奈ちゃんは全く起きませんでした。

 


カリカリカリ、カリカリカリ、

 


「〇〇〇〇だね、そうだ。そうだよね。〇〇‥。」


カリカリカリ、カリカリカリ、



カリカリと、まるで爪で何かを引っ掻くような音と、甲高い話し声が聞こえてきました。



「〇〇〇〇、ねー、〇〇。」



話し声は、とても早口ではっきりとした声でした。


けれど、何を話してるかは全く分かりませんでした。


少し体を動かして、声の出所を探ってみると、声は消えて音もしなくなりました。


諦めて布団に入り、先程と同じ体勢になって眠ろうとすると、また何かを引っ掻く音と話し声がしました。


それによく聞くと、話し声は紗奈ちゃんのお母さんの声に似ていました。


高くてハキハキした話し声。


何か揉めているのか、文句を言ってるのかそんな感じに聞こえました。


紗奈ちゃんの作文で、雛人形が押し入れに入れられると文句を言うってあったけど、まさにそんな雰囲気の話し方でした。


怒って文句を言ってるのか?


そう思い、雛人形達の話し声に集中するうちに、私はいつの間にか眠ってしまいました。



「悠亜ちゃん、悠亜ちゃん。起きた?ね、どうだった?雛人形の声聞いたでしょ。」


もう朝でした。紗奈ちゃんの家族はまだ起きてきてません。時計を見ると、まだ朝の五時前でした。


「紗奈ちゃんのいう通りだった。爪で何かを引っ掻く音と、すごく早口の話し声が聞こえたよ。」


「ねぇ、どんな声だった?結構高い声だったでしょ?うちのお母さんの声みたいだったでしょ。」


「!」


「あの雛人形ね、お母さんが嫁入りの時に持ってきた人形なんだって。


お母さんが大人になった時に、先代の古い雛人形は、首も取れて、虫に喰われてたから田舎の川に流して供養したんだけどね。


あの雛人形は、大事に私の代まで受け継がれたの。


雛人形には、持ち主の魂が宿るんだっておばあちゃんが言ってたから、あの雛人形にはきっとお母さんの魂が宿ってるんだよ。お母さん本人は知らないけどね。


だから、私はこれからもあの雛人形を大切にして、リビングに置いておくの。寂しくないようにね。


カリカリって爪で引っ掻いてたのは、人形用の防虫剤が臭いのと、首回りが苦しいのかも知れないし、箱の中の空気が悪くて苦しかったんだと思う。」


そう言って、紗奈ちゃんは雛人形の箱を開けて、人形用の防虫剤を一つ取り出して捨てると、女雛の首の巻紙を緩め、箱をそっと閉めました。


紗奈ちゃんが言うには、雛人形に、ひな祭りに関係なく、毎日話しかけたり、時々箱を開けては風を通してあげてるようです。


「ごめんね。昨日は押し入れに入れてしまって。もうしないから。あと、苦しくないようにしたからね。また後でゆっくり話そうね。」


そうやって、雛人形に話しかける紗奈ちゃんを見て、私は思いました。


雛人形に優しく話しかけて、たっぷりと愛情をかけてる紗奈ちゃんこそが、雛人形に魂を宿らせたのではないかと。 



人があんまり可愛がり過ぎると、人形は魂を宿すのだそうです。



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