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令和百物語  作者: みるみる
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第八十六夜 ご遺体


俺は今、見知らぬご遺体と二人だけで病室にいる。


病院から父が亡くなったと連絡があり、急いで駆けつけてみると、間違って別のご遺体のもとへと連れて行かれてしまったのだ。


部屋から出ようとしたものの、この部屋の鍵がかかってしまい、どうやら閉じ込められてしまったようなのだ。


「鍵?鍵なんか病室にあったか?」


‥俺は、とにかく誰かに助けてもらおうと、病室の扉を内側からドンドンと叩いた。


「すみません、誰か!閉じ込められて困ってるんです!おーい、誰か!」


ドンドン、ドンドン、


‥看護師も医師も皆んなこの部屋の前を通るのに、誰一人として俺に気付かない。


ドン!


「くそっ!」


ガタッ


「‥‥?」


俺が扉を思いっきり叩いた時、その反動でか知らないが、後ろに寝ていたご遺体が台からずれて落ちかけていた。


「うわぁっ!‥‥っておい、落ちちゃうぞ!って死んでるんだっけ。‥‥お前なんで台からずれてんだよ〜。超怖いじゃん‥‥。」


台からずるずると頭から落ちかけているご遺体を、俺は自分の体で受け止めてやった。


「‥何かひんやりしてるし、重いし怖えよ‥。っていうか、お前体硬いって!少し背中曲げろって!‥‥って言ってもお前死んでるだっけ。」


俺がそう言った時、ご遺体が少し背中を曲げてくれたような気がした。‥‥まさか、な。


‥‥それにしても、妙な事になった。ご遺体と二人っきりで病室に閉じ込められただけでなく、俺は今見知らぬご遺体を後ろから抱き抱えているような状態になっていた。


「これじゃあ、まるで俺がお前にいたずらしたみたいじゃないか!」


そう言った瞬間、気のせいかご遺体が少し済まなそうな顔をした。


「‥いや、別に責めてないから。」


俺はご遺体を床に寝かせてやった。‥重いし、なんとなく遺体とはいえ、他人を抱く事に抵抗があったからだ。



不思議な事に、俺はずっとこいつといるうちに、なんとなく怖さよりも親しみがわいてきた。


気付けば、俺はこいつに話しかけていた。


「‥お前って、俺と同じぐらいの歳か?少し歳下か。」


俺はこいつの表情?が分かるようになってきた。同じ歳か?ときいたら、無表情だったが、歳下か?ときいたら、微かに表情が緩んだのだった。


「‥‥まあ、いいや。‥俺、今日親父が死んだんだよ。今日この病院から連絡があるまで、親父が病気だったなんて知らなかったんだよなぁ。


父一人子一人で育って、親父には散々苦労かけたのにさぁ、何がきっかけか大喧嘩したんだよ。‥それでお互いに意地張って何年も会わずにきたんだよ。それが今更になって悔やまれる訳よ。‥‥親父が死ぬ前に一言、育ててくれたお礼が言いたかったなぁ‥‥。」


「‥‥‥。」


「あっ、ごめんな。お前も死んでたんだよな。お前の気も知らないで‥愚痴ってごめんな。‥お前も大変なのになぁ。」


「‥‥。」


ガチャッ


その時、急に病室の扉が開いた。


「‥あの、中川さんのご遺族の方ですか?」


中川さん‥‥ああ、こいつの事か。


「‥いえ、違います。山下の遺族です。何だか間違ってここに連れて来られたみたいで‥鍵がかかってしまって閉じ込められてたんです。」


「鍵?この扉は鍵は付いてませんよ。」


「えっ‥。」


俺は中川さんというご遺体の方を振り返ってみた。


中川さんはきちんと台の上で横になっていた。顔には白い布もかけられていた。


「‥‥。」


俺は部屋から出られたので、急いで父の所へ向かった。


「すみません、山下の息子です。」


「あっ息子さんですか。‥お父さんは午後5時45分にお亡くなりになりました。」


「‥‥‥。」


俺は父の手を握り、涙を流した。


その時、すでに亡くなったはずの父の目が、一瞬微かに開いたような気がした。


「親父、今までありがとうな。」


俺が親父にそう言うと、親父の目はまた静かに閉じられた。


俺はどうやら、親父に言いたかった別れの言葉を伝える事ができたようだ。‥良かった。


亡くなったはずの父が動く訳ないから、俺の錯覚なのかもしれないが‥‥。


ご遺体には亡くなった後もまだしばらく意識が残っているのではないか?と思ってしまった。


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