第七十二夜 転校生
夏休み明けの新学期、私のクラスに転校生が来ました。転校生は細身の美少年で、栗色の髪の毛や少しグレーがかった瞳が印象的でした。
彼は窓際の一番後ろの席に座りました。
「ほら、皆さん前を向いて。授業を始めますよ。」
先生がそう言うまで、皆んなは後ろを向いていつまでも彼に見惚れていました。
彼は皆んなの視線など気にもとめず、涼しげな顔をして教科書を広げています。
人を寄せつけないような、そんなクールな態度の彼に、クラスの女子達は心を奪われかけていました。
一限目の授業が終わるや否や、彼の机を女子達がとり囲みました。
「カナタ君は、ハーフなの?」
「カナタ君は、どこから来たの?」
「カナタ君は‥。」
バンッ。
彼は教科書を机に叩きつけると、立ち上がり席を立って教室を出て行ってしまいました。
女子達がとり囲んで質問責めにしたのが嫌だったのでしょうか。
彼に好意的だった女子達は、一気に険悪になりました。
「‥何あれ、感じ悪くない?」
「転校生だから、色々話かけてあげてるのにね~。」
「ちょっとカッコイイからって調子に乗ってんじゃないの?」
放課が終わり、授業が始まる頃に彼は何食わぬ顔で戻ってきました。
彼はそれからも、女子達どころか男子達からも距離をとり、クラスの中で一人マイペースに過ごしていました。
そんなマイペースな彼がクラスに来てから、三ヶ月が経とうとした頃、席替えがありました。
私は転校生のカナタ君の隣の席になりました。
特に話しかけたりはしませんでしたが、さりげなく彼の事をちょくちょく観察していました。
彼はいつも授業は真面目に受けていましたし、男子生徒と少しは会話もするようになりました。
あと気付いた事は、彼が頻繁に時計を見る事です。
しかもその時計は、ちょっと変わった時計でした。時計の針がないデジタルの時計でしたが、表示されている数字の桁がやたらと多いのです。
隣の席から数字を読んでみると‥ 77億5678万5892とありましまた。
私がじーっと見ていると、カナタ君に気付かれてしまいました。私はカナタ君に一瞬睨まれましたが‥‥
「これさぁ、世界人口時計なんだ。このまま行くと、近いうちに人口は85億を超えて、100億を超えてしまうんだ。だからね‥‥。」
カナタ君は、小声でそう言って、時計の横のボタンを押し、何かのタイマーをセットしました。
「時々このタイマーを、こうしてセットしておくんだ。」
「そうするとどうなるの?」
「この表示された日時までに、人口を減らす事ができるんだ。」
「減るって‥死んじゃうの?」
「死ぬんだよ、当然だろ。こうしてる間にも、世界中でどんどん赤ちゃんが生まれて人口が増えているというのに、お年寄りが全く死なないんだから‥‥。」
「‥‥タイマーが今日の日付けで人数がマイナス200万人になってるけど‥合ってる?」
「‥ああ、今日中にこれだけは減らさないとね。だって世界の出生数は約39万人で、死亡数は約15万5千人なんだよ。‥という事は、一日に20万人も人口が増えてるんだ。大変だ。」
カナタ君は、そう言って私にその時計をくれました。
「‥この時計はね、自分で勝手に外す事ができないんだ。この時計が持ち主を選ぶんだ。今この時計が僕から外れて、君の所へ行きたがっている。」
「‥私、それいらない。」
カナタ君はニヤリと笑って私の腕を取り、勝手に時計をつけてしまいました。
「ああ、やっと解放されたぁ~。」
そう言って、カナタ君は最高の笑顔を私に見せてくれたのでした。
その晩、世界各地で大地震が起こり、180万が亡くなりました。世界中が大パニックになりました。
私の腕にある時計の文字盤には、 77億5237万4529と数字が表示されています。
時計の世界人口の目標値は、33億人に設定されています。しかもこの設定は、変更できないようになっていました。何でもこの人数が地球にとってベストな人間の数なのだそうです。
時計をはめてから一週間が経ちました。
私の頭の中は、人口を減らす事だけでいっぱいになっていました。
まるで株価をこまめにチェックする大人達のようにです。
「‥今週中にまだあと500万人も減らさなきゃ‥‥。」
毎日時計を見てはため息をついてる私とは反対に、カナタ君は明るくなり、いつしかクラスの人気者になっていました。




