第七十一夜 夜の帰り道
「うわ、本当に真っ暗だな。」
学校の補習のせいで、帰りがすっかり遅くなってしまった。案の定駐輪場には、俺の自転車しか残っていなかった。
俺は早く帰りたくて、近道を通って帰る事にした。
いつも通る街中の道は、明るいし人通りも多くて安全な為女子達はそこを通って帰ってるが‥‥遠回りだし、信号も多いので俺は嫌いだったのだ。
「まぁ、俺は男だし変質者に襲われる事はないからな。」
そう独り言を言って、俺は街中の安全な道ではなく、人通りの少ない山道の中を自転車で走って行った。
山道は灯りもなく、本当にまっ暗で前も後ろも分からない程だった。そんな暗闇の中で、唯一自転車のライトだけが前方を照らしてくれていた。
「こんなに暗くなる前に帰らせて貰えば良かった。」
この暗闇の中、通り過ぎる車もなくずっと一人で自転車を走らせている内に、流石の俺も段々と心細くなってきた。
それに、いつまでも続く上り坂に、俺は息絶え絶えだった。
「そんなにきつい上がり坂だったかな?」
この道は時々通っていたし、ある程度の上がり坂のきつさも覚悟していたが、今日はやけにペダルが重かった。
「‥くっ、もう駄目だ‥‥。」
俺はペダルを漕ぐのを諦めて足を下ろそうとした。
‥だが、不思議な事に足がやけに重くてペダルから下ろせなかった。
不思議に思い、ふと足元を見ると辺りの暗闇よりも更に暗い色の影が、俺の足を掴んでいた。
「うわぁー!」
俺の両足を掴んで離さない黒い影は、今度は勝手に俺の足ごと自転車のペダルを漕ぎ始めた。
『ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ』
『ギィーコ、ギィーコ‥‥。』
黒い影は、山道の上り坂を俺の自転車のペダルを勝手に漕いで、どんどん上っていった。
だが、下り坂の手前に来るとピタッと止まってしまった。そして‥‥
『‥‥お前も死んじゃえ。』
そう小声で呟くと、黒い影は今度は俺の背中に飛び乗ってきた。背中には何十キロもの重みを感じた。一体何人背中にのっているんだ?恐怖の中で、そんな事を考えてしまった。
下り坂を自転車はどんどん加速していった。やがてカーブにさしかかったところで、坂を上がって走ってくるバイクのライトが見えた。
やばい!ぶつかる!!
俺はブレーキを踏んで、背中を後ろに反らそうとしたが、黒い影がそれを許さなかった。
自転車は、そのままガードレールにぶつかり、俺の体は山道の脇の斜面へと投げ飛ばされた。薄れゆく意識の中で、ふと上を見上げると‥‥
ガードレールのところでバイクのライトに照らされて、何人もの黒っぽい子供の姿が見えた。
俺はそのまま気を失ってしまった。
そして、気付いた時は病院のベッドに寝かされていた。
向かいから走って来たはずのバイクの主は見つからなかった。特にバイクとぶつかった訳ではなかったので被害届も出す事なく、事故は俺の単独事故とみなされた。
それにしても、俺は良く生きていたものだ。あの黒っぽい子供達の幽霊は、明らかに俺を殺そうとしていた。
あの山道ではこれまでに、幼い子供達や女性が襲われて殺される事件が度々起きていたという。
俺を殺そうとしていた黒い影も、その犠牲者達なのだろう。
俺はもう二度と山道は通らないようにした。




