第五十三夜 ロボット犬
2035年、世界中で新型ウイルスが蔓延して犬や猫といった動物達が次々と感染し、亡くなっていった。
そのうち動物から人へと感染するのでは?と恐れた人間達は、野良犬や野良猫達を殺処分して、人間が新たに犬猫を飼うことも禁止した。
そうして生み出されたのが、ロボット犬だった。
ロボット犬は、ご主人様に決して最初から忠実ではない。感情や行動もワンパターンだった。
だが、彼らは無線であらゆる感情や経験をお互いに共有し、犬と言うよりは、人として内面を進化させていった。
何度もデータのアップデートをするうちに、やがてロボットは人の健康管理まで出来るようになった。
すると人々は、ロボット犬が組んだ運動スケジュールに基づき、散歩や筋肉トレーニングを行った。食事のメニューもロボット犬が考えた。
いつしか、人間は少しずつ思考を退化させていった。なぜなら自分で考えなくとも、ロボット犬が起床時間から、就寝時間まで管理してくれるからだ。
やがて職場にも連れて行けるようになり、ロボット犬は職場でも秘書犬として大活躍した。
大事な商談の際も、ロボット犬同士で話し合い、人間達はその側で世間話をするのだった。
そうこうするうちに、ロボット犬はやがて人間達の必要性を感じなくなり、大事な商談や取引の際もわざと人間には知らせずに、自分達で行うようになった。
「なぁ、俺達最近仕事してないよな。」
「ああ、でも仕事は全てロボット犬に任せてあるから大丈夫だ。」
「あはは、俺達社長みたいだな。じゃあ、大事な仕事はロボット犬に任せて、人間達は楽しく会食やゴルフでもしてようじゃないか。」
「あはは、そりゃいい。それにロボット犬はいくら働かせても給料いらないしな。」
「だよな。本当にいい時代になったよ。」
俺達は、こうして仕事はロボット犬に任せておき、自分達は遊んで暮らすようになった。
そんな日々がしばらく続いた頃、俺は外出先で職場の同僚と偶然会った。
「よぉ、久しぶり。‥あれ、お前元気ないな。それに顔色も悪いぞ。」
「‥俺な、家を追い出されたんだ。仕事も失って再就職先を探したけど、なかなかないんだ。だから再就職はもう諦めようと思ってな。」
「‥だってお前のロボット犬はよく働いてるじゃないか。」
「‥そのロボット犬に追い出されたんだよ。俺はあいつを自分で飼ってるつもりだったけど、あいつは自分が俺を飼ってやってるつもりになっていたんだ。
なのに、俺は酔っ払ってあいつに暴力を振るったらしいんだ。酔っててよく覚えてないけど‥‥。そしたら、危険人物って認識されてしまって、家に入れて貰えなくなったんだ。
仕事も今では全てあいつがやってるし、俺の出る幕がないんだ。それどころか、会社側は俺を不要人間と認識して解雇してきたんだ。」
「‥えっ、そんな馬鹿な。」
「本当の話だ。お前も気を付けろよ。自分がロボット犬を飼ってると思ったら、大間違いだぞ。俺達があいつらに飼われてると思った方がいい。‥お前も捨てられないようにな。」
「‥お前はこれからどうするんだ。」
「‥俺はもう就職は諦めたよ。どの会社の面接に行っても、あいつらが面接官をやってるんだ。俺の経歴や素行もデータで既に知ってる奴らだ。これだけ面接に行って駄目なら、もう就職先はないよ。
こんな俺みたいな捨てられた人間を面倒見てくれる施設があるんだ。これからそこに行く。
今や、ロボット犬だけで日本経済や、医療、介護、教育全て事足りるからな。そのうち人間は徐々に都会から姿を消すだろうよ。
俺がこれから行く施設では、ロボット犬が人間の教育から医療、介護を全て面倒見てくれるんだ。ありがたい話だよ。‥じゃあな。元気でな。」
俺の職場の同僚は、そう言うと駅の方角へ去って行った。
俺はロボット犬に見放された人間の行き先を本当は知っていた。俺のまわりでロボット犬に捨てられたやつを何人も見てきたからだ。
そして、その施設へ入った奴らの中に、今でも時々連絡をとってるやつがいた。
そいつが言ってた言葉が今でも頭から離れない。
〝施設では死ぬまで面倒を見てもらえるんだ。ありがたいことだよ。だが、全てが管理されている。一日のスケジュールから食事内容、作業時間、作業内容、全てだ。
俺達はロボットじゃない。人間だ。なのに、ロボットのような生活を強いられる。それに娯楽がない。
しかも、一度施設に入ると二度とは出られないんだ。
‥‥まったく、姥捨山ならぬ人間捨山だよ。″




