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令和百物語  作者: みるみる
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第五十二夜 実験室


2028年七月某日、政府直轄の実験施設の実験室に20人の若者が集められた。  


そしてその実験室の隣の部屋に僕達はいた。実験室とこの部屋は、特別なガラスの壁で仕切られていた。このガラス壁のおかげで、彼らから僕達は見えないが、僕達から彼らの様子は全て見る事が出来た。



「この若者達は、ネットでたくさんの人に対し、誹謗中傷の言葉を書き込んできたり、政府の批判をしてきた思想犯達だ。今回の実験にあたり、集まってもらった。」

 

「‥まさか、例の実験をやるんですか?彼らに何かあれば大騒ぎになりますよ。」


「大丈夫だ。この実験に参加してもらうにあたり、人間関係が希薄な若者ばかりを選んだんだ。万が一、何かあっても捜索願いすら出ない者ばかりだ。」


「‥分かりました。では、彼らをオペ室へ連れて行きます。」


僕は、彼らの頭に電極を埋め込む為の外科医としてここに呼ばれていた。実験室にいる彼らを健康番組の為の簡単な実験だと偽り、オペ室へ連れて行き、全員の頭に電極を埋め込んだ。


「博士、オペは終わりました。」


「ご苦労様。」


博士が手にしているのはリモコンだ。博士はこれから彼ら被験者に微弱な電流を送って、脳の活動をコントロールする実験を行おうとしていた。   


これから先は、僕の仕事の領域ではない。僕は博士よりも何歩か下がって、この実験を見学した。


博士は、まず黄色の感情のコントロールボタンを押してみた。ボタンの色が何の感情を表すボタンかはまだ不明だ。


博士のアシスタントが、記録を取っていた。


ガラス越しに見る彼らは、無表情でどことなくロボットのように見えた。


「黄色、変化なし。」


博士はつぎに赤色のボタンを押した。


すると、彼らは突然笑い出した。博士がボタンから手を離すまでずっと笑い続けていた。長時間笑ううちに、涙を流し失神する者も出た。


「赤色、笑い続ける。‥博士、これは拷問にも良いですね。」


次は青色のボタンが押された。


彼らは、涙を流して床に座り込んでしまった。悲しみ?というより絶望感を表していた。


「青色、悲しみ、絶望。」


最後は黒色のボタンが押された。  


先程まで泣いて打ちひしがれていた彼らは、今度は急に立ち上がり、互いに罵り合い、叩いたり、蹴ったりしあった。男女関係なく傷付けあった。


これは‥さすがに止めなければ、と思った。


「博士、これは実験を中止しなくては!このままでは死人が出てしまいます。」


「いや、駄目だ。彼らがどこまでやり合うのか見届けるまでが実験だ。


‥これはお遊びではないんだよ。しっかりとしたデータをとらなければ、やる意味がない。


これから先、犯罪者の更生や、痴呆やパーキンソン病の症状の改善に役立てる為の大切な実験だ。途中でやめる訳には行かないんだ。」 



僕達は、ガラス越しに被験者達の傷付けあう姿をずっと見続けた。被験者達は、互いに顔や体が内出血をおこして腫れ上がっても、永遠に殴り合った。


女の髪は、殆どが引き抜かれて血塗れの地肌があらわになっていた。


男同士で頭突きをし合う二人組もいた。


何時間も続いたこの地獄絵図は、最終的には被験者全員の死亡という形で幕を閉じた。


「黒色、怒り、暴力。暴力は死ぬまで続けられる。」


この実験の記録は政府直轄の別の科学研究施設へと送られる。


科学研究施設には、他にも脳に電流を送り、被験者の行動をリモコンで支配する別の実験の記録もすでに送られていた。


僕は外科医として、この実験に参加しているが、一度も被験者の治療にあたったことはない。被験者達はこの実験室に入ったが最後、二度と外には出られないのだ。




現在、日本でも世界の例にもれず、10代20代の若者の行方不明者が増加している。仕事や人間関係の行き詰まりや家庭環境の悪化が原因である事が多い。SNSが失踪しやすい環境を作る要因にもなっていた。


こうした若者の行方不明者の大半は犯罪に巻き込まれて亡くなっている。


若者達には、自分達が常に異常性愛者やテロリスト集団、国際的な人身売買組織等に狙われているのだという事を自覚して欲しいと思う。


僕は医師として、人として、この人間関係が希薄になりつつある昨今の日本の状況に警鐘を鳴らしたいと思う。


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