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令和百物語  作者: みるみる
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第五十一夜 ひきずられ体質


河内雪奈は、テレビや雑誌、全国のイベントで大活躍している有名な占い師です。


彼女には、小学校へ入学した頃から他人の癖を拾ってきてしまうというのか、ひきずられてしまう癖がありました。


スーパーへ行っても、学校へ行っても、変わった癖のある人を見るとすぐに拾ってきてしまうのです。特にひどい時は三つぐらいの癖をひきずって生活をしていました。


学校でも、その三つの癖のせいで、授業どころではありませんでした。


終始、首をがくんがくんと動かして、肩はビクッと痙攣させながらも、口は謎の奇声を発していないといけないので、彼女は毎日もうヘトヘトでした。


学校でも家でも、家族や先生達をだいぶ困らせていました。道を歩けば、知らない人に変な顔をされていました。


それは小学校の高学年になるまで続きました。


それ以降は「我慢」をする訓練で、何とか人の癖にひきずられないようにはなりましたが、やはり完全に治った訳ではありませんでした。


ある時は、学校の跳び箱の授業で、先生の特別レッスンを受けている生徒を見ていたら、今まで簡単に出来てた跳び箱が急に出来なくなりました。


またある時は、これは良い事の例ですが、ボールを巧みに体の至るところで転がす芸がテレビで披露されているのを見て、自分にも出来る気がして、やってみたら本当にすぐに出来てしまいました。


良い事と言えば他にもありました。全くやった事の無いテニスで、ひたすらテレビ中継でテニスの試合を見続けた結果、ど素人ながらも学校の授業で強いチームに入ってしまうほど勝ち上がった事もありました。


ですが、良い事はそれぐらいしか思い浮かばなかったようです。


ほとんどは生活に支障をきたす程、ひどく色々なものにひきずられていました。対象は、他人の癖だけに収まらず、テレビや本といったものにまで広がっていました。


本と言えば、彼女は中学時代に太宰治の人間失格や三島由紀夫の金閣寺を読んでしまって、一ヶ月以上家に引きこもった事もありました。


この時は本当に、生きているのがつらくなり、自分やまわりの物が儚く消える妄想ばかりしていたそうです。


ひきこもったのが、たまたま夏休みだったので、学校の部活内で部員や部活の先生以外にはばれずに済みましたが、部員内では彼女が部活を休んで受験勉強をしていたのだと誤解されて、長い期間無視をされました。


それから高校へ進学すると、過呼吸の症状が出るようになりました。一日中呼吸が苦しくて、学校も休みがちになりました。それでも何とか出席日数ギリギリで卒業し、大学へと進学しました。大学進学以降は不思議と、あまりひきずられる事はなくなってきたそうです。


ところが、社会に出た途端にまた色々なものにひきずられるようになりました。 


例えば、ニュースで人が刺されて亡くなると、体に刃物が刺さるとどんなに痛いのか想像してしまうのです。それはもうずっと気になってしまうのです。


そこで、少しだけ体をナイフで傷付けて痛みを自分で感じると、ようやく納得が出来て気持ちが楽になるのだそうです。


ただ、こういったニュースも毎回ひきずられる訳ではありません。本当に時々無性に、被害者の方が受けた「痛み」が気になった時のみひきずられていました。


一番最近では、首を絞められて亡くなった人のニュースが流れているのを見た時、彼女は抑えがたい衝動に駆られて、トイレで自分の首を絞めていました。


首が締まるとはどんな感じなのか、息は苦しいのか、色々想像していました。


首を絞められると‥最初はうまく出来ずに咳き込みましたが、そのうち息苦しさよりも感覚が麻痺してきて、目の前が赤い透明フィルター越しで見るような世界に見えました。


やめどころが分からなかったのですが、もう自分の気が済んだので、首を絞めていた手を緩めると、一気に体の重さの感覚が戻り、彼女はトイレに座ったまま、その重さで倒れてしまいました。その時は本当に怖くて心臓がドキドキいっていたそうです。


あれでずっと首を絞め続けていたら、本当に死んでいたのかもしれないと実感して、怖くなったのです。


それからは、どんなニュースやドラマ、雑誌をみても、ひきずられそうになる度に‥‥


「私はその痛みや苦しみを知っています。経験しなくても覚えています。大丈夫です。」


と唱えて何とか踏みとどまっているそうです。この方法は、彼女には本当によく効くそうです。


ただ、この彼女の悩みや、大人になった後の彼女のひきずられ体験は、まだ誰にも知られずにいます。いまだに家族すら知りません。


占い師という仕事がら、お客様のお悩みを毎日何件も聞く事があります。どんなお客様の悩みにもすぐに共感できるという点では、これらの経験も無駄ではなかったと思えるようになりました。


それでもお客様の悩みに、あまり深入りしすぎてひきずられないようには気をつけているようです。



「無くて七癖有って四十八癖」とは言いますが、人には多少なりとも癖があるとはいえ、癖がありすぎたり、彼女のように変な癖があるのも厄介なものです‥‥。



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