第三十九夜 さっちゃん
私の担当する4年2組には、マイペースで授業中も歩き回ってしまうほどの問題児のさっちゃんがいました。
さっちゃんはとても悪戯っ子でした。
皆んなが描いた自分の顔の絵が、教室の壁に飾られると、その絵の内の何枚かにさっちゃんが落書きをしてしまった事がありました。
「恵美ちゃんと、瑠花ちゃんと、奈央ちゃん嫌〜い。だから、りんご病になっちゃえ!」
そう言ってその子達の絵に、赤いほっぺと称して赤クレヨンのぐるぐるを塗りたくってしまいました。
勿論落書きされた女の子達は泣いてしまって大変でした。
そして二日後の事でした。あの三人の女の子は三人同時にりんご病になり、本当に学校を休んでしまいました。
クラスの皆んなは、さっちゃんのせいだとは全く思っていないようでしたが、私はこの事をきっかけに、さっちゃんの言動を何かと気にするようにしました。
私が見ているところでさっちゃんは、口を開けばいつも友達の悪口ばかり言っていました。
ある時さっちゃんは、隣の席の男の子と激しい口論となり、その男の子にとんでもない事を言ってしまいました。
「勇太君なんか大嫌い!階段から落ちちゃえ!」
私はすぐに二人のもとへ走り寄り、さっちゃんに言葉を訂正するように頼みました。
「階段から落ちちゃえ!は酷いから、取り消してあげようね。」
私がそう言うと、さっちゃんが言いました。
「勇太君のかわりに先生が階段から落ちちゃえ!アハハハ!」
私はとても寒気を覚えました。
なんて恐ろしい事を言う子なんだろう‥‥。
私はこの前の事があって以来、さっちゃんの言動にはある種の呪いのような力が込められているのではないかとにらんでいました。
なので私も、本当に階段から落ちて怪我をするかもしれないと思い、家へ帰るなりすぐに知り合いのお坊さんに電話をかけました。
お坊さんは、この話を聞いた後にこう言いました。
「かけられた呪いを消すことは出来ません。ですが、私に考えがあります。ここは黙って私に任せて下さい。何があっても、あなたは気にする必要はありませんよ。」
それから三日後、さっちゃんが松葉杖をついて登校してきました。
そして、私を見るなり飛びかかってきそうな勢いで怒ってきました。
「くそ!お前のせいで、階段から落ちて怪我したんだぞ!呪詛返ししやがったな!教師のくせに生徒に呪詛返ししてんじゃねーよ!バーカ!」
呪詛返し‥‥あのお坊さんは呪詛返しをして、呪いをかけた本人へ返したようです。
だとしたら、さっちゃんには可哀想だけど、その怪我も自業自得なんじゃないの?と教えてあげたくなりました。
でも、本当にそんな事を口に出して言ってしまったら、教育委員会やテレビやネットのニュースでも大騒ぎになるから、とても言えません。
教師とはとても言動に気を使う職業なのです。




