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令和百物語  作者: みるみる
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第三十八夜 合唱コンクール


僕達3年D組の合唱コンクールの曲は、「翼をください」に決まった。色々あったが、僕達はこの曲を歌いきり、中学三年間の集大成としたいと思った。




中学3年の春、僕達のクラスには空席が3つもあった。3年に上がるタイミングで学校へ来なくなった中野君と井幡君と、笹野君の席だ。


僕達の学校は、市内でも有名なヤンキー校だった為、僕らは一番上の学年の怖い先輩達が卒業するまでの一年間を何とか耐えぬいた。


けれども、二年の二学期が始まった頃から、卒業したはずの怖い先輩達が学校のまわりを彷徨くようになってしまった。


そして、運悪く中野君達は怖い先輩達の餌食となってしまった。学校帰りに先輩達に囲まれて、お金をとられたり、万引きをするように言われたり、挙句には家までついて来て、親がいない時に家へ居座るようになってしまったという。


彼らの親は、LINE履歴や証拠を集めて学校へ訴えた。だが、学校とてなすすべはなかった。色々話し合った結果、結局彼らの親は警察に被害届も出さず、教育委員会への報告もしなかったらしい。


でもその事をきっかけに、僕達のクラスの大見先生を中心に、学校は動き始めた。


日中の学校まわりパトロールとして、おじいちゃん達が立ち上がった。おじいちゃん達は、毎日数人単位で学校まわりを歩いては不良達に次々と声をかけていった。


次に、お父さん達の夜のパトロール隊が街に繰り出した。繁華街の中まで入って、夜遅くまで徘徊してる若者達に声をかけ続けた。


そして、学校の先生達と中野君達の親が集まって、彼らを虐めた怖い先輩の家まで行ったそうだ。先輩達の親はしっかりと謝罪し、今後このような事がないようにすると約束してくれたそうだ。中野君達の親と先生達は、今後このような事があれば、すぐに警察に被害届を出しますよ、との警告を忘れなかった。


それからしばらく経った頃に、中野君達は三人共一緒に久しぶりの登校を果たした。




そして僕達3年D組は、クラス全員揃って合唱コンクールを迎える事ができたのだ。指揮者は中野君だ。中野君の合図でピアノが伴奏を始める。


僕らは心を込めて「翼をください」を歌った。歌う内に色々な思いが込み上げてきた。三年間辛い事、悲しい事、頑張った事たくさんあった。


そして、この大空に~と歌い出した途端、僕達の背後から大勢の声が響いてきた。何十人も歌っているような重なり合う声が響いた。僕は思わず隣のやつを見てしまった。隣の奴も同じく驚いた顔で後ろをチラッと見た。


皆んなの声の響きに包まれて、僕も響き合う声と一体化した。


歌い終わると、僕達全員同じ体験をしていた事が分かった。


観客席からの拍手を受けながら、皆んなキョロキョロしていたのだった。


僕達のクラスは学年二位だったが、皆んなからは凄く感動した、との感想をたくさんもらった。


僕は家に帰り、早速この事を母に話した。母が言うには、祖母が読経中も同じ経験をした事があるらしい。


祖母が一人で真剣にお経を読んでいると、後ろに何人ものお坊さんがいて、自分と一緒にお経をあげているかのような感覚に陥った事があったそうだ。


祖母の体験と同じ体験をしたのかは分からないが、あの合唱コンクールで僕達は真剣に歌い、皆んなを感動させた。あの時の僕達は確かに声だけでなく、心も一体となっていたのだと思う。


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