003:『やまと 校長室に出頭する』
やまと まほろばの転生戦艦
003『やまと 校長室に出頭する』
日露戦争において東郷が連合艦隊司令長官に選ばれたのは——運のいいやつ——だったからだと言われている。明治天皇は補任にあたり「なぜ東郷なのか?」とご下問されたが、問われた山本権兵衛海軍大臣は「東郷は運のいい男ですので」と答えた。じっさいは、大本命とされていた日高壮之丞が猪突猛進の猛将タイプで、いざという時には中央の指示に従わない惧れがあったあったからだと言われている。その点、東郷は大方針に忠実で、幕僚の意見をよく聞き、命令の範囲で全力を尽くすことで有名だった。
その二つの属性が、この呼び出しにも反映されているとやまとは思った。
校舎はどの部分も半壊状態、場所によっては全壊しているのだが、校長室の有る中央部分は奇跡的に被害をまぬかれているのである。校庭のポールごと消し飛んでしまった校旗(軍艦旗)も窓から竿を出して掲げられている。
——さて、潔く責任を取るか——
この校舎の惨状——半分は至近距離と言っていい2000mで我が三式弾を炸裂させためだ——と、やまとは覚悟を決めた。
「そのことではない」
校長室に入ると、頭を下げたやまとに向けられた第一声は予想していたものではなかった。
「南上空に対空砲を指向せよと命じたのはわたしだ。やまとと武蔵は、それに従って攻撃したまで。よく、敵の奇襲を防いだ」
「校長はやまとの働きを喜んでおられます」
連合艦隊最後の旗艦を務め、校長副官を務める大淀が誤解を解く。
「やまと武蔵姉妹の働きで、撃沈判定の者は一人もいない。氷川丸からの報告でも重傷者は中破どまり。よくやってくれた」
「は、では……」
何ごとであろうかと顔を見かわす大和型姉妹。
「おまえたちも分かっておるだろうが、今般攻撃を加えてきたのはビキニ艦隊だ」
「はい」
ビキニ艦隊。
それは、昭和21年、クロスワード作戦と銘打たれ、ビキニ環礁で行われた核実験。アメリカの不要艦船と日独の鹵獲艦を環礁内に浮かべ、それを標的に行われた。大半の艦船が沈没、大破、残った艦船も放射線のためにスクラップにもできず海没処分になった、その艦船たちを指す。
「ビキニ艦隊は、艦船としてスクラップになることも無く、また往生することもできず、その骸をビキニに沈め、いつのまにか怨霊の艦隊となり、この幽世のまほろば学園を脅かすに至った。これを放置していては、まほろば学園の浮沈にかかわるだけでなく、他の幽世世界にも壊滅的被害を及ぼす。そこで、武蔵」
「はい」
「貴官を学園警備艦隊の旗艦に命ずる」
「は、はい!」
「そして、やまと」
「はい」
「貴官をビキニ調査艦隊の旗艦に命ずる」
「はい」
「ビキニ艦隊には、わが海軍の長門と酒匂が含まれている。できることなら、この二艦を救ってやりたい。戦後八十余年、旧海軍艦艇の過半は、このまほろばに転生してきたが、この二艦を含め数隻の所在が掴めず、理事長も心を痛めておられる。敵情偵察と二艦の捜索、困難であるが、この任務を全うしてもらいたい」
「承知いたしました」
「学園警備艦隊については、校内の整頓が付き次第に行う。調査艦隊については、ただいまより編成を行い、編成終了次第出発してもらう」
リンリンリン リンリンリン
校長室の電話が鳴って、大淀が出た。
「校長室……そうか、こちらに向かっているのだな……校長、通報艦信濃丸が、該当艦をこちらに向かわせたそうです」
「うむ」
トントン
校長が頷くのと、ドアがノックされるのが同時だった。
『第一学年○○ ○○両名、通報船信濃丸よりの出頭命令を受けて参りました』
二人の名前を聞いて、武蔵は驚いた。
やまとも驚いたものの、同時に深く納得し、東郷校長の狙いの深さに感じ入るのであった。
☆彡 主な登場人物
・やまと 転生戦艦、まほろば学園の女生徒
・素戔嗚命 まほろば学園理事長
・東郷平八郎 まほろば学園校長
・仲間の戦艦たち 武蔵 陸奥 伊勢 日向 金剛 比叡 榛名 霧島 扶桑 山城
・他の艦艇 信濃丸 秋月 氷川丸 間宮 大淀
☆彡 重要語句
・ビキニ艦隊 ビキニ核実験で使われた艦船の艦隊 まほろば学園の敵
・学園警備艦隊 ビキニ来襲以来結成されたまほろば学園の艦隊 旗艦・武蔵
・ビキニ調査艦隊 ビキニ艦隊の調査のために派遣された艦隊 旗艦・やまと




