第9話 オタク、ギャルに説教される
ハニワの意匠があしらわれた、毒耐性付きの指輪。
卯月さんはそれを見ながら、たっぷり数秒は固まった後に。
「……ウチに?」
俺の方へと目を向け、自分の顔を指差して首を傾けた。
「俺は大抵のモンスターの行動パターンは把握してるから毒を貰う可能性が低いし、スパチャから出せる武具の中には毒を中和出来るものだってある。でも、卯月さんは違うだろ? もちろん俺が傍にいれば出来る限りフォローはするつもりでいるけど、いつも出来るとは限らない。今のところ即死するレベルの毒は確認されてないけど存在しないと断定することは出来ないし……現状把握されている中でも行動不能に陥るものはあって、一発貰うだけで窮地に陥りかねない。防げる手段があるなら、それに越したことはないだろ」
「……そ、そうなんだ」
ふい、と卯月さんは俺から視線を逸らして再びテーブルの上へと向けて。
「それじゃ、その、これは……ありがと」
宝石でも扱うかのようにそっと、ハニワ指輪を手に取った。
「オタくんが、指輪をウチに……」
それから、左手の中指へと通す。
ダンジョン産の装備は、サイズが自動で調整される。
もちろん今回も、卯月さんの指にジャストフィットした。
「えへへ……」
卯月さんは、それを眺めながら頬を緩めている。
どうやら喜んでくれているようで、何よりだ。
「ほら、遠慮せず他のも全部。一つだけだと所詮は30%で、だいぶ心許ないからさ」
俺も気を良くして、残ったハニワ指輪もジャラッと差し出す。
「あ、はい……」
すると、卯月さんはなぜか途端に微妙な表情になったように見えた。
一つ……二つ……と、ハニワ指輪を手の上へと載せていって。
「……いやこれ、どうやって十一個も装備すんの?」
なるほど、装備方法について憂慮してたわけだな?
「もちろん、それも考えてるさ」
答えながら紐を取り出す俺は、したり顔になっていることだろう。
「どこかの指に二つ付けるって手もあるけど、流石に邪魔だろうし。だから、こうして……」
言いながらリングに紐を通し、十個分繰り返した後で紐の先を括る。
「これで、首にかけられるだろ」
「うん、まぁ、うん……」
俺のお手製ネックレスとでも言うべき装備を見る卯月さんの表情は、やっぱり大層微妙なものだ。
「なんかこれ、新たな呪いの装備と化してない……?」
「人の手で呪いの装備を作り出せたら、今年のノーベルダンジョン賞は間違いなしだ。ほらこの通り、何ともないだろ?」
「あっ……」
未だ不審げな顔を見せるその首にネックレスもどきを掛けると、卯月さんは小さくを目を見開いた。
「ま、まぁ確かに、こういうのも悪くはないかな……デザインはともかくとして……」
それから、髪を指でいじりながらゴニョゴニョとそんな風に呟く。
あぁ、そうだろうそうだろう。
一定以上の状態異常抵抗装備を入手出来た時って、達成感があるよな。
ハニワが連なったデザインも俺はイカしてると思うけど、まぁその辺りの美醜感覚は人によって違うし仕方ない。
「……それはそうと!」
俺も満足感と共に頷いていると、再び鋭くなった卯月さんの視線がこちらに向けられる。
「次からは、事前にウチに相談すること! 放っとくと、オタくんはすーぐにいらないものまで買っちゃうんだから!」
そして、ズビシと俺の人差し指を突きつけてきた。
「いらないものを買った覚えなんてないが」
「おぉん?」
反論すると、卯月さんの目が更に細まる。
「じゃあこないだ買ってた、あのやたらクソゴツい鎧は何だっけ?」
「あらゆる物理ダメージを5割カット出来る優れものだ」
「重量は?」
「120キロ」
「付けられるか! 大体オタくん、回避タイプでしょ!? 自分の強みを完全に消しちゃうじゃん! あと物置に放り込んでる、変な模様がいっぱい入ったナイフも! なんか3本同じのあるけど!」
「河童タイプのモンスターに特攻があるやつのことか?」
「どこにいんのよ、その河童タイプってやつ!」
「遠野ダンジョンの13階層で目撃されたって情報が過去に2件ほどある」
「もはや都市伝説レベルのレア度! オタくん、もう13階層とか行くことなんてなくない!? てか、なんで2件しか目撃情報がないモンスターの特攻武器が3本もあんの!?」
「そのナイフ自体は、別のモンスターからドロップするんだ。特攻武器が対象モンスターそのものからドロップすることの方がレアだからな」
「この世に3本存在する理由じゃなくて! 3本も買った理由を聞いてんの!」
「3本セットでちょっと安くなってたから……」
「明らかな在庫処分じゃん! ほんで極めつけは、冷蔵庫に入ってる怪しい食パン!」
「あぁ、見てない間に1日6センチずつ伸びていくあの」
「特徴がもう心霊現象として出てくるやつじゃん! ていうかダンジョン関係ある!? いつ使うのそれ!? そもそも食べれんの!?」
「今朝食べたろ?」
「………………えっ、あのパンってこのパンだったの!? なんか普通に切って置いてあったから使っちゃったんだけど!?」
「日常的に食べないと、どんどん増えてくし」
「確かに、毎日6センチって結構な増え幅だもんね!?」
と、このように。
俺が『いらないもの』を買わないように、『監督』しているというのが卯月さんの主張だ。
無論、俺にも反論はある。
物理ダメージ5割カットは破格の性能だし、全弾避けるのが不可能な場合は完全に回避を捨てて足を止めた状態で受ける方が有利な場面だってあるだろう。
目撃数が少ないことは存在しないことと同義ではないし、たまたま2件の目撃事例が13階層だっただけで他のフロアに出現する可能性は十分にあって、レアモンスターが通常のモンスターより手強いのは定番と言っていい。
ダンジョン内での食糧問題は時に生命維持活動に直結するし、即座に帰還不可能な状況じゃ自動で増殖する食料はこの上なく頼りになるに違いない。
というように、有用性は確かに存在すると主張したい。
……ただ、確かに。
『いつか使うかもしれない』程度のものが多いのも事実ではあった。
「マジ、オタくんは結構稼いでるのにほとんどこんなのにばっかお金使っててさー。ウチが来る前のエンゲル係数計算したら、なんと2パー! 2パーだよ? そんなの、一般的にはメンマ代とかそんなレベルじゃん」
「一般的に、メンマ代っていうのは計上される科目なのか……?」
まぁ収入のほとんどをアイテム類に費やしていたのは事実で、実益も兼ねた趣味といった部分があったのも否定は出来ない。
卯月さんがいてくれることで支出は是正され、数年ぶりに人間らしい食生活を取り戻せているのも紛れもない事実だ。
代わりに俺は卯月さんにダンジョンで指導するし、今回みたいに適切な装備があればそれを見繕ったりもする。
うむ、Win-Winの関係ってやつを築けているのではなかろうか。
♥ ♥ ♥
ウチがオタくんの家に入り浸ってるのは、最初はダンジョンで色々と教えてくれるお礼のため。
そこにオタくんの食生活が死んでるってことを知っての心配と、出費がやたら偏ってることい対してのお節介も加わっていった
そこに、全く嘘はない。
嘘はない……けども。
ダンジョンで格好良いオタくんの姿を見る度にドキドキしちゃって……そんな彼と家で二人きりって状況にも、ドキドキして……うん、まぁ、さっきみたいに、アレな側面を見ることも多々あるわけだけど。
それも、知らなかったカレの一面って感じでドキドキするし……最近は、この人にはウチがいてあげないとって感情まで芽生えてきちゃってさ……。
これって……いわゆる、同棲カップルが抱く感情ってやつなんじゃないっ……!?
オタくんも……いや、オタくんの方がきっとドキドキしてんだろうな~。
なんせ、オタくんだってオトコノコなわけだし?
……してるよね? ドキドキ。
なんか、いっつもスーンって感じの顔してるけど……ただ、表情に出ないだけだよね?
まさか、ドキドキなんて全くしてなくて……ウチのことを、例えばそう……Win-Winの関係を築いてる、ビジネスパートナー的な?
そんな風に思ってるとか………………あはは、そんなわけないないっ!
……ない……よね……?




