第7話 オタク、ギャルを鍛える
初めて一緒にダンジョンに行ったあの日以来、俺は毎日のように卯月さんとダンジョンに潜っていた。
初日の指導で義理は果たしたと言えなくもないけど、途中で放り出すというのもなんとなく収まり悪い気がした……というのが主な理由はあるけれど。
いつの間にか、卯月さんの成長に楽しみを覚えている自分がいるのも確かだった。
彼女のダンジョン探索は、完全に自己流。
動画なんかを参考に自分で試行錯誤してきたものらしく、ハッキリ言えば粗さが目立つ。
けどそれは逆に言えば、伸びしろがあるってことでもあった。
実際、卯月さんのポテンシャルは高いと思う。
たぶん、地頭が良いんだろう。
説明したことはすぐに理解してくれるし、理論を実践に移すのも早い。
何より、ダンジョン探索に対するモチベーションが高いって点が素晴らしい。
なんなら、そこさえあれば技量面なんて後からどうとでもなると言えた。
卯月さんの実力も日に日に伸びていってるし、指導は順調と言えよう。
♥ ♥ ♥
訓練は、順調順調~。
……とか、思ってるのかな? オタくんはさ。
うん、いや、まぁ、ウチとしても、自分の力が確かに伸びてるのは感じる。
それは間違いなくオタくんのおかげだし、そういう意味では『順調』って言葉を用いても良いかなって気持ちもなくはない。
たださぁ……。
「よし、暴れ鹿馬を一匹撃破は完了したな。じゃあ、もうすぐ群れがやってくるから次はそいつらをまとめてやってみよう」
「ぜぇ……はぁ……む、群れって、何匹くらい……?」
「二十二匹かな」
「馬鹿なの!? さっき一匹倒すのに体力使い果たしたんだけど!?」
「馬鹿じゃなくて、鹿馬な」
「そういうこと言ってんじゃなくてさ!」
「ほら、来るぞー。十、九、八……」
「せ、せめて休憩とか……!」
「ダンジョンのモンスターは待ってくれないから……三、二、一……はい来た!」
「この場合はオタくんのさじ加減じゃない!? おぎゃー!? ホントに来たー!?」
「繰り返すけど、弱点は鹿と馬の境目になぜか一枚だけ存在する鱗な。さっきと同じようにすればいけるから」
「無理無理無理無理! もしかして数って概念をご存知ないの!? 一匹相手と二十一匹相手で同じこと出来るわけないじゃん!?」
「や、回避し続けながら適切な弱点攻撃を二十一回繰り返すだけだし」
「それが無理って言ってんだけど!?」
馬の下半身に鹿の上半身が載ったちょっと気持ち悪い生物から逃げ回りながら、ウチは精一杯に叫んでいた。
何も今日だけが特別ってわけじゃなく、毎日がこんな感じなんよね。
確かに。
確かに、オタくんが教えてくれるモンスターの弱点とか動きのパターンについての講釈パートはすっごい勉強になることばっかだよ?
ただ、いざ実践編になるとさぁ……例えば今回なんかは、突進してくる鹿馬の角をひょいって避けながら頭を飛び越えてザクッとやって「はいこの通り」ってさ。
お手本? を見せてくれるのはいいけど、そっからすぐに「じゃあやってみよう」ってぶん投げるのは普通に無茶振りがすぎるって……これ、訓練っていうかシゴキじゃない?
って、ウチは初日からずっと思ってるかんね?
「ぜぇ……はぁ……ひへ……ふへ……」
って、内心で不満垂れてる場合じゃない……今は、猛烈な勢いでウチを追って来てる鹿馬をどうにかしないと……。
つっても、ウチに出来ることなんて多くはない。
ていうか、この場においては一個しなかった。
というわけで……!
「頼むから良いの出てよー!」
『ガチャ』発動!
さっきはSR『自動カウンター』が出たからどうにかなったけど、今度もどうにか……!
「結果は……ん゛んっ、R……!」
いや、Rもピンキリ!
場合によってはSRより有用な場合だってあるし、そういうのが出ればワンチャン……!
「効果は……『回復アイテムが一番好きな料理の味になる』ぅ!?」
ダメだこれドハズレだ!?
いや、場面によっては結構嬉しかったりもするんだけども……!
回復アイテムって、にっがいの多いから……!
でも、間違いなく今じゃない!
「って、うわ……」
『ガチャ』の結果を確認してる間に、鹿馬がもうすぐそこまで……!?
この勢いでぶつかられたら流石に、死……まだ、何か出来ることは……。
「ある程度は仕方ないこととはいえ、ガチャ結果を確認する時の隙はもう少し減らすようにした方がいいかな」
成す術なく押し寄せてくる絶望を眺めていたウチの視界に、頼もしい背中が現れた。
「理想は完全に別の行動と並行して確認することなんだけど、それってスキルの仕様上難しかったりする?」
家で会話している時と全く変わらない調子で言いながら、彼は次々と突っ込んでくるモンスターを往なしていく。
私には少し風が届いてくるくらいで、さっきまで飲み込まれそうになってた絶望はもうどこにも感じられなかった。
「ただ、この状況になっても目を瞑らず前を向き続けられるのは得難い素質だと思う」
その言葉が染み渡ってくみたいに、ウチの胸はさっきまでとは全く別のドキドキに満たされていく。
「今日のところはこれで十分かな、お疲れ」
そして、こんな風に胸が高鳴る度に……ウチの中の、冷静な自分が言うんだ。
「じゃあ明日は少し減らして、二十一匹から始めようか」
確かにウチがピンチになったら助けてくれるオタくんだけど、そもそもそのピンチもオタくんが用意したもんなわけで。
これはつまり、そう……言うならば。
マッチポンプストックホルム症候群じゃねぇか!
なんて自分にツッコミを入れることで、正気を保つことしばしばなウチなのだった。




