第6話 オタク、手本を見せる
オタくんの無茶振り──たぶん本人的には軽い課題的に思ってるやつ──を受けて、命の危機を感じていたところ。
「……あぁ、なるほど」
ウチの様子を見て首を傾けていたオタくんが、ふと納得の表情で手を叩く。
おっ? オタくんも、ようやく自分が言ってることのおかしさに気付いてくれた?
「確かに、卯月さんが今持ってる武器じゃちょっと不安か」
や、そんな話はしてない。
一ミリも。
確かにウチの持ってる武器は普通に店売りの、それもそんなに高くはないやつ──何しろウチはスキルの仕様上、稼いだお金の大半を『ガチャ』に持っていかれるから──だけど、今の場合はそれよりだいぶ手前の問題なんだよねぇ……。
「実際、ゴールドベアを相手にするなら武器にも相応の耐久力は必要なんだよな。並の武器だと、十五発入れる途中で武器の方が壊れるからさ。それじゃ今回は、俺のを使ってみようか」
うん……オタくんの『スパチャ』産武器には、素直に興味がある。
あるけども、それって大概さぁ……。
「ただこの剣は……あ、槍になった。これは、ランダムな時間経過によって形状が変化するからその点は注意かな。言っても、剣、槍、斧、棍棒の四種類だけだから」
ほら出た、異様にピーキーなやつ!
ていうか読めないタイミングで形状が変わるとか、それもうほぼ武器として成り立ってなくない!?
「やー……ウチ、剣専門なんでー……」
そもそも、複数の武器を扱える探索者なんてほとんどいないんだけど……どんな武器でも大体使いこなせるオタくんが異常なんだよね……。
「なんだ、そうだったのか」
ウチの申告に、オタくんは納得したみたいに片眉を上げた。
「じゃあ、こっちでいこうか」
オタくんが一つ頷くのと同時、その手に一振りの細い剣……レイピア、っていうんだっっけ? が出現する。
「うえ……それ、あれじゃん。なんだっけ……相手の防御力を下げる代わりに、命中率がめっちゃ下がるやつだっけ?」
「へぇ、よく知ってるな」
「んぁ、たまたまね! 参考になるかと思って、オタくんの動画を幾つか観たからさ!」
あっぶな……使いたくない気持ちが先行しすぎて、思わず素で反応しちゃったよ……とりあえず、さっさと話を進めちゃおう。
「てか、命中率低下って具体的にどうなんの? ウチ、そっち系のデバフとか食らったことなくてさー。視力がめっちゃ悪くなるとか?」
「そういうタイプのもあるけど、こいつの場合は……まぁ、実際に見てもらった方が早いか。何の変哲もない壁に、普通の剣で切りつけた場合はこう」
と、オタくんは別の剣をダンジョンの壁に突き立てた。
そこそこ力は入ってたみたいで、壁に少し刺さったところで刃はピタリと止まる。
「一方、この千鳥細剣でやろうとすると……」
その剣を、壁から抜いて。
さっきと全く同じに見える動きで、オタくんは最初に持ってたレイピア……千鳥細剣? を、またダンジョンの壁に突き立て……ようとした瞬間、千鳥細剣がブルブルブルッと激しく震えだした。
とてもじゃないけど、狙いが定まる感じじゃないと思う。
「……ムリくない?」
なので、ウチは素直な感想を伝えた。
「命中率低下って、そういうのなんだ……そりゃまぁ、ざっくり当てるだけならギリでいけるかもだけど……確か、何回もおんなじとこに当てる必要があるんだよね……?」
「普通はそう思うよな」
対するオタくんは、クスリと笑う。
あー、流石に何かしらの対策はあるってことね?
「けど……この、通りっ」
ガン! と、オタくんは千鳥細剣を壁に突き立てた。
震えるのも構わず、無造作に……って感じだったけど。
刺さった箇所は確かに、さっき普通の剣を突き立てた場所と寸分違わず同じっぽい。
「タイミングを見計らって、狙いたい場所と重なる瞬間に突き立てれば問題ない」
「……ちな、それって猶予フレームどんくらい?」
「2フレくらいかな」
「……ムリくない?」
ウチの反応は、さっきと全く同じものとなった。
「いや、実はこの剣の震えには規則性があるんだ。慣れればそんなに難しくはない」
「んあー、なるほど……?」
完全ランダムじゃなくて、震え方に規則性があるならいける……のか?
……いや、ていうかさ。
「そもそも、それなら普通の剣でやった方が良くない?」
なんで、わざわざ縛りプレイをせねばならんのか。
「卯月さんも言ってたろ? この千鳥細剣には、相手の防御を下げる効果があるんだよ」
「あー……」
千鳥細剣が刺さった壁を見てみると、確かに普通の剣の時より深々と刺さっている……ような、気がする。
えと……普通だと、ゴールドベアを倒すのに十五発必要なんだっけ?
それが、一発……とまではいかないまでも、三発くらいになるなら一考の余地はある……かも……?
「それじゃ、まずは俺が実際にやってみよう」
オタくんがウチから視線を外すと、ちょうどその目を向けた先の曲がり角からもう一匹ゴールドベアがやってきた。
……どうでもいいけど、オタくんのこのモンスターの存在を察知する力は何なの?
これに関しては、『スパチャ』とか関係ないと思うんだけど……。
《グォォォォォォォォォォォ!》
「ふっ!」
咆哮を上げるゴールドベアへと、オタくんは一直線に走ってく。
《ガァッ!》
強烈な前足の振り下ろしを余裕な感じで避けて、その脇腹に千鳥細剣を突き立てた。
《ガッ!?》
ガンッて金属にぶち当てたみたいな音がしたと同時に刀身が跳ね上がって……ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ! とおんなじ光景が一瞬で何度も繰り返される。
《ガ……グ……》
身体を震わせながら、ゴールドベアの身体がゆっくり崩れ落ちて……地面に倒れる前に、光の粒子になって消えていった。
この階層のモンスターをほぼ一瞬で倒すその技量は、素直に凄い。
凄いんだけども……。
「えっ……今、普通に一五回くらい攻撃してなかった……?」
防御ダウン効果とは何だったのか……。
「いやいや、ちゃんと必要攻撃回数は減ってたさ」
「マ……?」
「この千鳥細剣は、相手の防御を一〇%下げることが出来る。つまり、一四発当てるだけで倒せたんだ」
「割に合わなくない!?」
「命懸けのアタックが一回減るんだから、破格のリターンじゃないか?」
「ん゛んぅ……! そうかもだけどぉ……!」
なんでそこの感覚だけまともなの……!?
他は全部イカレてるのに……!
なんか、ウチがおかしいみたいになっちゃうじゃん……!
「そう、つまり」
と、オタくんはカメラ目線で自慢げにナイフを掲げる。
「これが、スパチャの力です」
……うん、まぁ。
確かにね?
スパチャ産の武器じゃないと出来ないことではあるかもしれないけど?
ウチは、すぅと大きく息を吸って。
「明らかキミの力だよ!」
と、本心を全力で叫んだ。
……ちなみに。
ウチが考えるに、これがオタくんの配信がイマイチ伸びていない理由でもあると思う。
なんつーか、玄人向けすぎるって感じ?
ほら、アレよ。
上手い人のゲームのプレイ動画とかでもあるじゃん?
スーパープレイすぎて、普通のプレイに見えちゃう現象ってやつ。
ほんで、オタくんも毎回こうやって「これがスパチャの力です」とか言うもんだからさー。
今のだって素人目には、何かしらの『スパチャ』の力で無双しているだけの動画に見えちゃうってわけ。
とはいえ、ウチ程度の技量じゃ「無理ゲーやんけ!」ってなっちゃうわけで。
結局のとこ、マジでオタくんの動画が参考になる人なんて極一部の上級者に限られる。
そして、そんなレベルの人がオタくんのチャンネルみたいな……言っちゃ悪いけど、マイナーな配信をわざわざ見ることなんてまずない。
結果、今もオタくんの動画に残ってるのは『訓練された視聴者』って感じの方々になってるわけ。
昨日の配信も、後でアーカイブ観たら例の場面には白々しいコメントばっかでウケたよね。
まぁ視聴者さんたちもオタくん本人も満足してるっぽいし、別にいいんだけどね……。




