第5話 オタク、ギャルを測る
「それじゃ、まずは普段の探索を見せてもらおうか」
我が家から場所は変わって、新宿ダンジョンの130層。
まずはここで、卯月さんの今の実力を測ることにする。
「はいはーい。あ、ちなみに配信ってやっててもいーい?」
「問題ない。普段からそうしてるなら、その方がいつも通りの姿を見れるだろうし……俺も、普段通り配信しても?」
「もっちろん! コラボの提案したのはこっちなんだしさ! そんじゃ……と。はいはーい! みんな、こんにちはー! キラリンTVの配信、はっじまっるよー! 今日は、新宿の130階からお届けで~す!」
元気な声で配信を始めながら、卯月さんはダンジョンの奥へと向けて歩みを進める。
そんな彼女の後ろに付き従うこと、しばらく。
俺は、幾つかの点で驚きを覚えていた。
まず、一つ。
「おっ、三つ目ハウンド。この子は、露骨に目が弱点……と見せかけて目の部分はめちゃめちゃ耐性高いっていうトラップだから、左後ろ足の付け根辺りにある毛色の違うとこを狙うのが良いんだよね~」
意外にも……と言ってしまうと失礼かもしれないが、ダンジョンへの造詣が思ったより深い。
少なくともこの階層にいるモンスターの倒し方は一通り把握していたし、トラップの類もキッチリと見極めていた。
見た目の印象から、配信に重きを置いたエンジョイスタイルなのかと思いきや……。
「あっ、スターラビットだ! 背中のお星様模様が可愛いんだよね~! いぇーい皆、観てる~? ほらこれ、今日のウチのシュシュとお揃いの柄だよ~!」
……まぁ、その側面も間違いなく存在することは否定出来ないけど。
「そしてこのスタラビちゃんは、見た目通りクッソ目立つ星マークが弱点なのだ~! ただし火属性の攻撃以外は反射されちゃうから、この秘蔵の火魔石を投げちゃいまーす!」
情報収集含めて、ちゃんと事前に準備を怠らないタイプだと言っていいだろう。
そして、その上で……二点目。
「おっしゃ命中~! これで一撃……じゃない? えっ嘘? 避けられてた? それじゃ、もう一発……ってうわ、思ったよか元気……おぎゃー!? スタラビちゃんオニ早っ!? ちょちょちょっ、待っ待っ、無理無理無理無理! こんなん避け続けらんないって!?」
ハッキリ申し上げれば、弱い。
知識は十分にあったとて、身体能力が明らかに追いついていなかった。
昨日136層にいたくらいだから130層は問題なく攻略出来るだろうと踏んでたけど、明らかにそのレベルに達していない。
ただし……三点目。
「こうなりゃもう賭けに出るっきゃねー! 頼むからいいの出てよ、『ガチャ』!」
卯月さんの言葉と同時、彼女の頭の上にカラフルなボックスのようなものが出現する。
その立方体が空中で激しく回転し……ピタリと動きを止めると同時、上面がパカリと開いた。
そして派手に光ったかと思えば、中から『SR』という立体文字が飛び出してくる。
「おっしゃ来ましたSR! 効果は……素早さ三倍!? マジ神引きじゃん!」
卯月さんの身体を淡いオーラのようなものが包んだかと思えば、彼女の動きが目に見えて速くなった。
つい今しがたまでスターラビットのに翻弄されていたのが一転、相手を大きく上回る速度で追い詰めていく。
「今度こそ狙いを定めて……ほいさっ!」
再び投擲した火の魔石が、スターラビットの背にある星マークの中心にヒットする。
炎に包まれたウサギのモンスターは声にならない声を上げると共に身体をピンと伸ばし……次の瞬間には、光の粒子となって消えていった。
卯月さんのスキル『ガチャ』は、一定金額を『課金』することでランダムな効果を発動するというもの。
その結果はかなり有用なバフや魔法の発動から明らかなハズレまで、多岐にわたるようだ。
伸るか反るかのスタイルは彼女の大仰なリアクションも加わって、高いエンタメ性を有していると言えた。
しかしエンタメに振り切った性能というわけでもなく、ダンジョン攻略……とりわけ背伸び攻略をする上においては、非常に有用な能力と言える。
SRってのはそれなりにレアらしいけど、上には更にSSRやURまであるってんだから恐ろしい。
まぁ卯月さん自身もSSRを見たことがあるのは一回だけ、URに至ってはスキル説明にあったから存在は認識しているだけで実際に出たことはないらしいけど。
SRクラスでも、本来の実力より相当上の相手にジャイアントキリングを引き出せるポテンシャルはある。
136層への挑戦も、決して無茶とは言えなかった。
反面。
運頼みであることも確固たる事実で、引きが良くなければ昨日のようなピンチにも簡単に陥るってわけだ。
「オタくーん! どうだった? 結構いい感じだったんじゃないっ?」
頭の中で彼女のスキルについて考察していたところ、卯月さんがスターラビットのドロップ品を回収して戻ってきた。
「あぁ、お見事だったよ」
手を叩いて率直に感嘆を送りつつ、それを迎える。
ここまでで、卯月さんの現状の実力は概ね把握出来たといえるだろう。
「次は、俺の番がな」
それじゃ、『本番』を始めようか。
♥ ♥ ♥
オタくんによる指導が、本格的に始まった。
「ゴールドベアの攻撃には、五回に一回程度の頻度で強撃が交じる。明らかにモーションが違うから、これは見てから判断すればいい。強撃は威力こそ高いけど、振り下ろした後に0.05秒程度の硬直が生じる。そこが狙い目だ」
初めて、オタくんのダンジョン攻略を間近で見て。
「ゴールドベアの表皮は確かに硬いけど、このように全く同じ場所に十五発ほど打ち込めば普通に貫通出来る」
私の抱いた感想は、たった一つ。
「今回みたいに、一回の硬直の間に十五発全部叩き込めるのが理想だけど……最初はまぁ、三発くらい入れるのを目処に始めるといいと思う」
こいつ、やべぇな……だった。
「コツは、極力ギリで避けることかな。大きく避けすぎると、間合いを詰めてる間に硬直が解けてカウンター食らうから」
いーや、無理無理無理!
なんか軽く言ってるけど、0.05秒って何!?
格ゲーで言ったらそれ3フレとかだよ!?
人間に反応出来る理論値が7フレの0.1秒って言われてんだよ!?
いや確かにダンジョンで鍛えれば普通の人類をだいぶ超える身体能力になれるらしいし、ウチだって例えばSR級の反応速度上昇とかが出ればいけるかもしんないけど……それを何のスキル補助もなしに、素でやってるって何なの……?
てーかそれ以前に、一発貰ったら確実に死ぬやつをあんな紙一重で避ける時点で人間辞めてない?
いや確かに、大きく避けてちゃいつまで経っても間合いが詰められないからジリ貧になるっていう理論はわかるよ?
けど人間、何でも理論通りに出来るわけじゃないんだよねぇ……。
「それじゃ、次は卯月さんも実際にやってみようか」
今のを? 私が?
そんな、練習問題解いてみよっか? くらいのノリで?
「……オタくんってさ、実は私に対して何らかの恨みを持ってたりする?」
「は? 全然そんなのはないけど……なんで?」
「いや、なんか自殺を教唆されたから……」
「??」
なんで伝わんないの!?
いやなんでかっていうと、オタくんの中では実際このくらいはイージーな課題ってことなんだろうけど……。
やっばいな……オタくんの実力は知ってたけど、やっぱ見るのと実際やるのとじゃ大違いだわ……。




