第29話 オタクとギャルとお嬢様、起用される
「いやー、ダンジョンって本当に危険だよね!」
どこか調子外れにも聞こえる、卯月さんの殊更に明るい声。
「見てよ、ウチの足元! よーく見ると、ちょっとだけ色が変わってるっしょ? これが、トラップ床ってやつ! 踏むと落とし穴に落ちちゃうかもしれないし、壁から毒矢が飛んでくるかもしれない! ねっ? 危険でしょっ?」
「その通りだ。ダンジョンは危険と隣り合わせの場所だからな。常に周囲に気を配っている必要がある」
「ですわね。いつ強いモンスターが襲ってくるかもわかりませんし、油断は禁物ですわ。たとえここ、第一階層だとしても」
俺と龍造寺さんも、わざとらしく頷いていた。
「ところでオタくん! ダンジョンってそんなに危険なのに、どうしてみんな探索するの?」
「いい質問だな」
続く質問に、俺が待ってましたとばかりに首を更に大きく上下させる。
「ダンジョンには貴重な素材や装備が眠っている。適切な準備と正しい知識を身につけて攻略すれば、大きな成果を得られる可能性があるんだ」
「へーっ! 夢があるね!」
「危険を正しく理解してリスクに対策すれば、リターンも大きく見込めるということですのね」
「そういうことだ」
明らかにぎこちない表情で、また大きく頷く俺。
「リスク対策を具体的に言えば、まず装備だな。自分の実力や探索する階層に見合った装備を整えること。これが基本だ」
「そうそう! ウチも最初は装備なんてなんでもいいと思ってたけど、ちゃんとした装備って大事なんだよね!」
「煌梨さんの場合、装備以前にもう少し慎重に行動することも重要ですわね」
「雅ちん、それ今言う!?」
「事実ですもの」
そんな二人のやり取りに関しては、概ねいつもの調子と言えた。
「……話を戻そう」
一方の俺は、相変わらず硬い仏頂面。
「装備に加えて、事前の情報収集も重要だ。敵の特徴や攻撃方法を把握しておけば、不意の遭遇にも対応しやすくなる」
「なるほどー! 知らないモンスターに出会ったら、まずはよく観察するってことだね!」
「ただし、観察に夢中になって攻撃を受けてしまっては本末転倒ですわ。安全な距離を保つことも忘れてはいけません」
感心した調子の卯月さんに対して、龍造寺さんがしたり顔で補足する。
「あと、パーティの場合は連携も重要になってくるんだが……これに関しては、実際にやってみようか」
『えっ?』
次いで、俺の提案に二人が少し驚いた表情を見せた。
「ちょっとオタくん、今日そういうのもやんの?」
「実戦を見せるのが一番早いだろ?」
「それはそうかもしれませんけれど……大丈夫ですの?」
「この階層のモンスター相手なら、イレギュラー込みでも対応出来るさ」
『そういうことではなくて……』
しばし、三人でヒソヒソと話す声。
「どっちにしろ、そこまで来てる」
『あー……』
しかし俺が視線を外すと、二人もどこか諦めの表情でそちらに目を向ける。
ちょうどそのタイミングで、角の向こうからヒュージラットが三体現れた。
「それじゃ、左右は頼む」
「りょ!」
「承知致しましてよ!」
俺の言葉に、二人も気持ちを切り替えた顔で武器を構える。
……と。
その視線が、揃って脇へと逸れた。
「俺たちのスキルを、ですか? このレベルのモンスター相手に……?」
「あの……ウチのは、ちょーっとリスクあるかもなんですけど……?」
「わたくしは、別段構いませんけれど……」
再び、今度は横を向いてヒソヒソと話した後。
「そんじゃ、えーと……ガチャ、スタート!」
どこかヤケクソ気味に卯月さんが叫ぶと同時、彼女の頭の上にカラフルなボックスのようなものが出現する。
その立方体が空中で激しく回転し……ピタリと動きを止めると同時、上面がパカリと開いた。
そして派手に光ったかと思えば、中から『SR』という立体文字が飛び出してくる。
「おっしゃ来ました、SR!」
これが卯月さんのスキル、『ガチャ』。
発動毎に現金の投入が必要なのと、結果が完全に運次第なのがネックだが……その分、『当たり』を引いた時のリターンも大きい。
上からUR、SSR、SR、R、N……あと稀に『ハズレ』というのも出ることがあるので、SRは上々の結果と言えた。
……尤も。
「って、『モンスターが大幅ランクアップ☆ より高度な経験とドロップをゲットしてね☆』!? よりによって今これ引く!?」
同ランクでもその効果は様々であり、時と場合によってはランク通りの恩恵が得られるとは限らないというギャンブル性も存在する。
果たして『SR』の文字が一際輝くと同時、ヒュージラットの身体も光を発し……光が収まった後には、身体が三倍以上デカくなったネズミ型モンスターの姿があった。
どこか愛嬌の感じられた顔立ちも、凶悪なものに様変わりしている。
「グラトニーラット……大体、一五〇階層辺りに出てくるモンスターだな」
「放送事故じゃん!?」
俺の見立てに対して、卯月さんは頭を抱えていた。
「方針を少し変更。左右を、しばらく頼む」
「しょ、承知致しました!」
「んぎぎ……やってみる……!」
さっきより数段硬い二人の声を受けながら、戦闘を開始する。
同時に、俺は手の中に『爆積刀』を顕現させた。
俺のスキルは、『スパチャ』。
投じた金額に応じて様々な武具を召喚出来るというもので、今回の『爆積刀』は斬りつけた回数に応じて威力が増していく爆発を起こせるというものだ。
ただし、爆発を起こすと武器は破壊される。
こんな感じで、ピーキーな性能も多いのが『スパチャ』産武器の特徴だった。
「おぎゃー!? やっぱこのレベルのモンスターを一人で相手すんのはキツいって!?」
「致命傷を避けるのがギリ、といったところですわね……!」
「一、二、三……」
悲鳴に近い二人の声を傍らに、俺は回数をカウントしながら斬りつけていく。
そのまま、しばらく……俺一人なら更に倍の時間粘る必要があるけど、今ならいける。
「龍造寺さん!」
「っ、『倍化』!」
俺の短い指示に対して、龍造寺さんは的確に自らのスキル『アイテム性能倍加』を発動させた。
その名の通り、アイテムのスペックを倍にするスキル。
今回の対象はもちろん、俺の手にある『爆積刀』だ。
「二人共、下がれ!」
言うと同時に、目の前のグラトニーラットを斬りつけながら武器の効果を発動させる。
流石に使い手に対する爆発耐性は付随している『爆積刀』だけど、周囲に対する配慮まではしてくれない。
けど、二人の退避を確認したりはしなかった。
その程度の信頼関係は、既に築いている。
果たして二人の気配が遠ざかっていくのと同時、俺を中心に凄絶な爆炎が巻き起こり……それが晴れた後に、モンスターの姿はなかった。
「ま、こんなところか」
グラトニーラットが光の粒子に変化して消えていく中、俺は小さく息を吐く。
それからふと、傍らへと意識を移した。
「え? あ、はい……は? いや、別に構いませんけど……はぁ、じゃあ……」
そんなやり取りを交わした後に、一つ咳払い。
「これが、スパチャの力です」
決め顔で、いつもの台詞を口にした。
♠ ♠ ♠
『ダンジョンを探索する時は、準備をしっかりしてね! 皆で目指そう、一攫千金!』
最後にそんなナレーションと共に『ダンジョン管理協会』というテロップが流れ、映像は終了した。
『………………』
それを眺める俺たちは、揃って微妙な面持ちだ。
「なんか……流石に後で撮り直しするのかと思ってたけど、そのまま流れるんだね……」
「まぁ、ある意味ではリアルな映像にはなったのかもしれませんけれど……」
「てかこれだと、ウチただの戦犯じゃない?」
「つまり、いつも通りのリアルということでは?」
「どういう意味!?」
嘆息する龍造寺さんに対して、卯月さんが吠える。
その傍ら、俺の表情は苦いものになっていることだろう。
「というか、俺の最後の台詞は本当に何の意味があったんだ……?」
「あれじゃない? 芸人さんがCMとか出る時にも、最後に持ちギャグやったりするじゃん?」
「最後にインパクトを残すことでCM全体を視聴者の記憶に遺してもらう、という企業戦略ですわね」
「俺のあれは、持ちギャグ扱いなのか……?」
なお、先程の映像は地上波で番組の合間に流れたものである。
どうして、そんなことになったのか。
話は、少し遡る──
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
今回より、第2章開始です。
また、本作の書籍版がHJ文庫より10/30(金)に発売されます。
夕子先生に素敵なイラストを描いていただきました書籍版、どうぞよろしくお願い致します。
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