第28話 オタクとギャルとお嬢様、注目される
「ぜぇ……はぁ……」
ほとんど息継ぎする暇もなく『告白』して、ウチは荒い息を吐いていた。
……ついに言っちゃった、全部。
そりゃ、いつかは言わなきゃいけないことだとは思ってたけど……思ったよか急にそのタイミングが来たもんだから、色々と言わなくても良いこともまで言っちゃったような気がして仕方ないよね……。
「………あーっ、と」
オタくんが口を開くと同時、ウチの身体はビクッと震える。
「こういう時に、なんて言えばいいのかわからないんだけど」
まぁ、そりゃそうだよね……いきなり、こんなこと聞かされてもさ……。
「ありがとう」
だけど、オタくんは柔らかく微笑んでくれる。
「最近の俺は、卯月さんにお世話になってばっかだなって感じてたけど……思ってたより、ずっと前から、支えてくれてたんだな」
そんなの……支えてもらってたのは、ウチの方だよ。
「俺がここまで来れたのは……探索者をやめずに続けてこられたのは、君のおかげだ」
それも、ウチの台詞。
あの日たまたまオタくんの配信を見つけなかったらウチはそう探索者を始めることなんてなかったし、今みたく前向きにもなれてなかったと思う。
「だから、あー……うん、なんていうかな」
それから、また少し言いにくそうに言葉を濁す。
「改めて、こんな風に言うのは結構照れくさいんだけど」
言葉通り、照れくさそうに頬を掻いて。
オタくんは、その手をウチに向けて差し出してきた。
「これからも、俺を支えてもらえないか?」
………………えっ、プロポーズ?
………………。
…………。
……。
……いやいや、待て待て。
すぐそういう解釈するの、良くないとこだよオタク。
これはたぶん、これまでのことは水に流してコンゴトモヨロシク的なことってだけ。
……そう、理解はしていたけど。
「……ん」
自分の顔が、凄く熱くなってることは自覚出来ていて。
ウチはただ小さく頷いて、オタくんの手を握り返すことしか出来なかったのだった。
「ここで劇的に種明かしするために、己が直孝様のファン第一号であることを今までずっと隠していただなんて……なんと卑しい女なのでしょう……!?」
あと、なんか雅ちんにめちゃめちゃ睨まれたけど完全に誤解である。
♣ ♣ ♣
タカ坊と嬢ちゃんたちが、なんやかんやで大団円な雰囲気を迎えていた頃。
東京某所、簡素な造りの会議室に集まったオレたちはプロジェクタが映し出す映像を揃って眺めていた。
十二人が全員顔を合わせるのなんぞ、いつ以来だったか。
年齢も格好も様々だが、それぞれ油断ならない雰囲気を纏っていることは共通している。
この場に留まり続けるってぇのは、ちぃとキツいもんがあるな……。
「はっはー、何度観てもすげぇ勢いでありんすなー」
「転移陣から溢れていたモンスター……低く見ても、上位の探索者がパーティー単位でようやく一体倒せるかというレベルでござろう。その群れを、十分な資金提供さえあれば実質ほぼ一人で片付けられるとは……想定以上でござるな」
「キヒヒッ。お前らも、やろうと思えば出来ると思ってんじゃねーのぉ? キヒヒヒッ」
「無茶言わないでよねっ☆ 一人じゃ、せいぜいこの半分が関の山なんだからっ☆」
「でも……この子も……一人ではない……」
「『ガチャ』、デスね。このイカレ能力が、なんで今まで注視されていなかったデス?」
「振れ幅が大きすぎるネ。狙って出せない能力なんて無価値……とは言わんガ、ちょっと扱いづらすぎるヨ。件の場面も、レアドロが噛み合ってなければただ敵増やしてるダケ」
「あと、『アイテム効果倍加』もありきの結果ッスよね」
「今回は奇跡的に全てのスキルが噛み合った、というところじゃろうな」
「言うても、お嬢ちゃんたちは補助的な役割やろ? 結局、単体でもそこそこやってたこのDKがやっぱ一番ヤバいんやない?」
「牛尾武司殿、貴殿はどう思われるナリか?」
オレがどう思う、か……。
問われたならば、答えざるをえないだろう。
「お前ら……そのキャラ付け、やっぱキツくねぇか?」
『やかましいわ!?』
オレを含むここに集まったメンバーは、ダンジョン管理協会の理事十二人。
昨今のコンプライアンス云々で風通しの良い組織をってことで会議の様子をオンラインで配信したところ、視聴者から「特徴のない中年ばっかで誰が誰かわらん」という意見が寄せられ。
それに応えようとした結果、キャラ付けが迷走してしまった悲しき大人たちである。
最年少でも四十代の男女が昨今アニメでもあんまり見ないようなイタい語尾やらを付けて喋っている様を眺めるのは、端的に言ってだいぶキツかった。
「あと前から思ってたけど、お前らちょいちょいキャラ被ってね?」
「仕方ないデス!?」
「最低限会話を成り立たせられるキャラとなると結構限られるッス!」
「つーか、今日は配信入ってないよな? なんでキャラをキープしてんだよ」
「日常的に使っていないと、咄嗟の際に出てこないのでありんす……」
「ていうか、普段からやっとかないといざ使う時に恥ずかしすぎんだよなぁ……キヒヒッ」
ダンジョン協会の理事なんてのは、権限も報酬も禄にない上言うほど尊敬もされない。
そんなもんを引き受けちまうヤツは基本真面目だから、こんなことになっちまうんだよなぁ……なお、オレを除く。
「そんなことより、議題に戻るべきネ」
「せやね。ただでさえ事務仕事が溜まっとる中、どうにか時間を捻出しとるんやから」
キャラはともかくとして、能力は確かな連中だ。
そんな面々に、現在一つだけ共通していることがある。
「本日の議題……戌亥直孝……卯月煌梨……龍造寺雅……」
それは、モニターに写ってるこいつらに注目してるって点だ。
まっ、タカ坊たちに注目してるのなんてオレらだけじゃないけどな。
「わはーっ☆ こうしてる間にも、ガンガンPV増えてってるねー☆」
「実際、下手こくと日本どころか世界がヤバかったわけじゃしのぅ」
「今日の夕方には、地上波でもニュースが放映されるようでござる」
「ふっ、いよいよ有名人ナリな」
深階フロアボス相当のモンスターの群れを殲滅した若手パーティなんて、多少でも見る目がありゃあ注目ポイントしかねぇだろう。
一番PV数を稼いでた煌梨の嬢ちゃんでも、これまではせいぜい『個人配信者としては多い方』ってレベルだった。
しかし今じゃタカ坊も龍造寺んとこの嬢ちゃんも、視聴者の数を文字通り桁違いに増やしてやがる。
「そんじゃ、話し合うとしようか」
そうなってくると、畢竟。
「こいつらの、『利用方法』ってやつをよぉ」
こうして、色んな方面から悪巧みもされようってもんだよなぁ?
♠ ♠ ♠
そんな風に俺たちがダンジョン管理協会他で話題になっていると、後に武司さんから聞いたわけだけど……この時の俺たちは、そんなことを知る由もなく。
「そもそも煌梨さん、貴女は以前から素知らぬフリをしながら直孝様を誘惑する素振りが……!」
「まーまーっ! それよか雅ちん、打ち上げしよっ! 打ち上げっ! オタくんちでさ!」
「……直孝様のお宅で?」
「そーそー! ほらウチ、腕によりをかけてご馳走も用意しちゃうよー!」
「これ、一応家主である俺の意思は伺われない感じか……?」
今はまだ、ようやく生還した日常を噛みしめるばかりだった。
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
本作、これにて第一部完です。
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