第27話 オタク、叫ぶ
「とにもかくにも今度こそ、ミッションコンプリートぉ! ……だよねっ?」
卯月さんのそんな晴れやかな声が耳に届いて、俺もようやくそれを実感し始めた。
同時に、身体を包み込むとんでもない疲労感も認識する。
視界がボヤけ、身体がフラついた。
流石に、無理しすぎたか……。
「直孝様! お見事でしたわぁ!」
そんな俺へと、龍造寺さんが勢い良く抱きついてくる。
力の入らない足は全く踏ん張りが効かず、その勢いのまま倒れ込むことになった。
「きゃぁっ!? 直孝様!? 申し訳ございません、大丈夫ですの!?」
龍造寺さんが、今度は青い顔で俺の身体をガクガクと揺らす。
「大丈夫だから、一旦落ち着こうか……」
実際、疲労がこびりついているだけで身体自体にクリティカルな問題はないと思う。
ただ、今まさに前後に揺らされてるせいでちょっと酔いそうだった。
あと、さっきからなぜか名前呼びになっているような……まぁ、別にいいけど……。
「この場面を乗り切れたのは、二人と視聴者皆さんのおかげだ」
とにもかくにも、まずは改めて感謝を伝えた。
〈 いいってことよ 〉
〈 礼を言うのはこっちの方だろ 〉
〈 ありがとうダンオタ、煌梨ちゃん、エレドラさん! 〉
〈 実際、俺らはスパチャしてただけだしな 〉
〈 今になって思えば、一緒に戦ってる感じがして楽しくもあった 〉
〈 すごい一体感を感じる……今までにない何か熱い一体感を…… 〉
まずは、コメントからの反応。
「ふふっ、お役に立てたのでしたら幸いですわ」
次いで、龍造寺さんか爽やかに微笑んだ。
「まー、ウチは肝心な時に微妙なガチャ結果引いちゃったわけだけど」
「むしろ、ベストな結果だったさ」
苦笑を浮かべる卯月さんへと返す。
実際、下手な効果じゃあの場面は乗り切れなかったろう。
それに……。
「スパチャを呼びかけてくれたのも、助かったよ」
「んあー……まぁ、ね? 別に、タイシタコトハシテナイデスヨー」
「……?」
普通にお礼を言っただけなのに、妙に白々しい調子の返答が戻ってきて困惑を覚える。
……まぁでも、卯月さんがよくわからんことを言うのは今に始まったことでもないか。
「にしても、あの短期間でよく俺の動画を集めて編集したもんだな」
そう思って、話を続ける。
「あー、ね?」
なぜか、引き続き卯月さんの歯切れはやたら悪い。
「直孝様……」
こちらもなぜか、龍造寺さんからはちょっと呆れ気味の目を向けられた。
〈 いくら速度バフ込みとはいえ、一から動画集めて間に合った時間じゃねぇだろw 〉
〈 まるで、元からあるデータを繋ぎ合わせただけのようでしたね(棒) 〉
そして、コメントからもまた。
〈 ダンオター! クレジットクレジットー! 〉
……クレジット?
コメントに言われて、さっき卯月さんから送られたデータを見直してみる。
俺の今までの配信を切り貼りした動画だけど、どの画面でも端の方に同じ文字列が入っていた。
「……『ダン簡切り抜きch』?」
そういえば俺の配信の切り抜きチャンネルなんてもんがあるって、龍造寺さんが言ってたっけか。
なるほど、卯月さんはそこからデータを引っ張って……。
「………………んんっ?」
いや……さっき、コメントで言われたばっかりだ。
確かに、いちいち動画を落として編集したような速度じゃなかった。
まるで、手元にデータがあったみたいな。
たまたま何かの機会に落としたデータがあった、って可能性もあるとは思うけど……。
「卯月さん……?」
目を向けると、いつの間にか卯月さんの顔は真っ赤に染まっていた。
それを見ながら、龍造寺さんとの会話を思い出す。
俺の切り抜きチャンネルを運営してくれてるって人の名前。
それは、初めて俺にスパチャをくれた人と同じで。
「……Shineさん?」
「っ……!」
その名前を口にすると、卯月さんが息を呑む音が聞こえてきた。
それから、その顔はますます赤くなっていって。
「そうですけど!?」
卯月さんは、ヤケクソのように叫んだ。
「ウチがShineですけど、何か!?」
何か……?
いや……うん、何なんだろうな?
俺は、何が言いたいんだろうか?
伝えたいことは確かにあるはずなんだけど、言葉にならなかった。
「前に落ち込んでた時たまたま、オタくんの配信を見かけて! 一人っきりに見えたオタくんになんかシンパシー感じて、何気なくコメントを送ったわけ!」
そんなことを考えている間に、卯月さんは叫び連ねていく。
「でも改めてちゃんとオタくんの動画を見みたら、一人でもめちゃめちゃ頑張っててさ! なんかウジウジしてるだけの自分恥ずしくなって、ウチも頑張ろうって思えたの! そんでお金も必要だったしウチもダンジョンに行くようになって、配信もするようになって……オタくんの配信は見る度に色々と試行錯誤してんのがわかったし、それに負けないようにってウチも頑張れて! したら、ちょっとずつ視聴者も増えてきて!」
それが、卯月さん……Shineさんの、当時の心境ということか。
「そのお礼として、何気なく一回スパチャ投げてみたらめっちゃ喜んでくれて! そんで、オタくんのスキルはスパチャがないとって言うじゃん!? そりゃウチだって、自分のスキルがお金使うやつだから余裕なんて全然なかったけどさ! 当時はオタくんにスパチャしてるのウチしかいなくって、投げる度にすっごい喜んでくれて、ウチが支えてるんだなって思ったらこっちも嬉しくなってきて、ちょっと無茶してでもスパチャしたりなんかしちゃったりしてさ! ホストに貢いでく女の子ってこんな感じなんだろうねぇ!」
……なんとなくだけど、卯月さん自身も自分が何を言っているのかよくわからなくなっているような気配を感じた。
「そんでオタくんの配信も、ちょっとずつ伸び始めてってさ! それが、自分のことみたいに嬉しくて! ますますいっぱいスパチャして! だけど、他にもオタくんにスパチャする人たちがちょっとずつ出てきて……! それも嬉しかったけど、なんかちょっと寂しい気持ちなんかも生まれてきたりしてぇ……!」
そろそろ止めた方がいいんじゃないだろうか?
「だんだん、ウチのスパチャなんて誤差レベルになっていくしぃ……! そもそもウチ、そんなお金ないしぃ……! でも何かはしたくて、切り抜きチャンネルを運営するようになってぇ……!」
「……なるほど?」
とりあえずそう口にはしたものの、何が「なるほど」なのかは自分でもよくわからなかった。
そもそもこれって、何の話だっけか……?
「でも、それならもっと早く言ってくれれば良かったのに」
卯月さんがShineさんだと知ってたなら、あの日……初めてダンジョンで卯月さんに会った日の俺の対応も、もっと違ったものになってただろう。
「違くて!」
……何が?
「あの時、ダンジョンでオタくんに会ったのはホントのホントに偶然でぇ! ウチ、ガチでピンチだったの!」
いや、別にそこに疑いなんて持ってないけど……。
「でもウチがShineだって知られたら、なんか推しに会いに行った厄介オタクみたいに思われるじゃん!?」
いや、別に思わないけど……。
「しかも私生活の世話までし始めるとか、もはやヤバいストーカーみたいじゃん!」
いや、今となっては普通に感謝しか抱いてないけど……。
「そんなこんなでなんか言うタイミングを逃したまま、現在に至ります!」
……とにもかくにも、そんな感じだったらしい。
「あたかも初見みたいに「キミの力だよ!」とかリアクションしたりしてたけど、ホントは内心で「オタくんの生『スパちか』キターーーーー!」 とか思ってました!」
いや、別に聞いてないけども。
ていうか『スパちか』って、前にもカップル配信者の男性の方が言ってたけど……なんか、そういう風に略す界隈でもあるのか……?




