第23話 ギャル、確定する
「中央、仕留めに行く!」
「りょ! ほんじゃウチらで、残りの足止めね!」
「左のラインはお任せくださいませ!」
卯月さんと龍造寺さんが左右のモンスターを食い止めてくれているうちにターゲットのモンスターとの距離を詰め、角を折って翼を剥いで尻尾を引っ掴んで転ばせて弱点を踏み抜いて仕留める。
さっきのフロアで、この悪魔型モンスターの倒し方自体はテンプレ化出来た。
とはいえ、囲まれる中でこの一連の流れを完遂するのはそこそこの難易度だ。
二人がターゲット以外の奴らを引き付けてくれているからこそ、ここまでスムーズに実践出来る。
「次! 奥から右右左の順番で!」
「そんじゃ雅ちん、二匹目のタイミングで!」
「スイッチですわね! 心得ていましてよ!」
ここに来て、二人と一緒にダンジョンに潜っていた日々がこの上なく活きてきた。
互いのスタイルも知り尽くしているし、少ない言葉で意図も汲み取れる。
三人で連携して一体一体モンスターを仕留めていく流れは、かなりの速度で実行出来ていた。
ただ一つ、そして最大の問題があるとすればそれは。
「ちょっとオタくん! まだ出てくんだけど!」
「5、10……新規、15体追加でしてよ……!」
倒すそばから、転移陣から同種のモンスターが次々溢れ出てきているという点である。
とはいえダンジョンにおいて、本当の意味での『無限』湧きっていうのは確認されていない……俺の知る限り、という前提ではあるが。
倒し続ければ、いつかは枯渇するはずだ。
しかし……足りるか?
転移陣そのものを壊せればベストだが、その転移陣はといえばモンスターの群れの最奥に位置するわけで。
モンスターの供給を止めるためにはモンスターの群れを突破しなければならず、モンスターの群れを突破するためにはモンスターの供給を止める必要があった。
どう考えてもジリ貧で、俺達の方が徐々に削られていっている。
とはいえ、この状況を打破するだけなら至極簡単な方法が存在する。
それは、一旦撤退することだ。
退路は俺たちの後ろにあり、仮にこれがさっきの深層で起こったことだったらノータイムでその選択肢を選んでいただろう。
が、しかし。
ここは、第一層なのである。
撤退するとすれば、それはダンジョンの外へということになる。
それは、つまり。
このレベルのモンスターが、ダンジョン外へと溢れ返るということを意味する。
【ダンジョン最終ライン防衛費 ¥100,000】
【がんばえー! ¥50,000】
【マジでお前らにかかってる、頼むぞ ¥80,000】
〈 見たことない額が飛び交ってて草w 〉
【笑ってる場合がお前も飛ばすんだよ! ¥50,000】
【少なく見ても150階層以上のボス級モンスターだろ? そんなんが外に解き放たれたら、マジで日本終わるじゃん ¥50,000】
〈 つっても、ここでスパチャ投げる金があったら自分の逃走費用にした方が良くね? 〉
【お? 地獄に金を持ち込めると思ってるタイプ? 六文以上は無駄金ぞ? ¥500】
〈 そう言いながらなんで小銭なんだよw 〉
〈 ワイのお小遣い全部や 〉
ここが抜かれることがイコール自分たちの命の危機に直結するってことを、視聴者たちも十分にわかっているようで。
空前絶後の勢いで、スパチャが投げられてはいる。
が、しかし。
こうして戦ってる中で徐々に最適化は進んでるけど、それ以上に複数体を同時に相手しなきゃいけない負担がえげつない。
ほとんどスパチャ産の武具を使い捨てにしながら戦ってる状況だ。
かつてないレベルで飛び交ってるスパチャをもってしても、消費ペースの方が上回っていた。
まして、視聴者からのスパチャには限界がある。
資金力的な面もそうだし、システム的に一定以上のスパチャには制限がかかるようになっているはずだ。
「チッ……どうする……?」
荒い息の合間に、思わず舌打ちと弱音が漏れ出た。
それと、ほぼ同時……今倒したモンスターのドロップアイテムが、ふと目に入る。
この状況だ、ここまでドロップ品は全て無視していた。
恐らく通常ドロップと思しきアイテムは、悪魔のツノに当たる部分。
部位系のドロップ品は武具の材料としては優秀だが、それ自体がすぐさま戦闘に使える可能性は低かった。
けれど、今出たのは……希少級か秘宝級かはわからないが、この場で初めて見るものだ。
半ば反射的にキャッチして、手の中に収まったのは一枚のコイン。
以前、ミミックスライムからドロップした『誤差の王冠』によく似ていた……けれど、頭の中に流れ込んでくる情報は別物。
そしてその効果を認識した瞬間、俺は方針を固めた。
「龍造寺さん!」
詳細を伝える余裕はなかったので、ただ呼びかけてコインを投げるに留めてモンスターへの対処に意識のほぼ全てを戻す。
「はい!? 何ですのこれ!? ……っ!」
既に視界を外したところから、龍造寺さんが息を呑む気配が伝わってきた。
「『倍加』!」
どうやら、俺の意図は正しく伝わったらしい。
「煌梨さん!」
「えっ、なになに!? 二人共、何投げてんの!?」
そして、運命のバトンは卯月さんへ。
正直不確定要素があまりに多くて、ほとんど博打だ。
けど、まぁ……それも、俺たちらしいんじゃないか?
♥ ♥ ♥
「どわぁっと!?」
雅ちんから投げられた光る何かを、慌ててキャッチする。
いやちょっと二人とも、そういうとこあるよ!?
確かに余裕がないのはわかるけど、最低限説明が必要なことってあると思う!
……なんて思ってたウチの頭の中に、手にしたものの情報が流れ込んできた。
名前は、『運命の裏表』。
確か、前に……そう、ウチがオタくんに助けられた時だ。
あの日の配信アーカイブで、似たようなアイテムについてオタくんの解説を見た記憶があった。
それの、超強力版って感じのやつだと思う。
何しろ今回の効果は、『指定した任意の確率が50%分アップする、消費アイテム』。
オタくんの解説によれば、『任意の確率』の対象にはスキルも含まれるはず。
そして前の鎧の件を見る限り、雅ちんの『倍加』は純粋に数値を倍にする。
つまり……。
「UR確定ガチャ、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
UR排出の確率を、100%に引き上げられるはず……!
確定ガチャ……なんて素敵な響き……。
「おっしゃあ! そんじゃあガチャ、スッタァァァァァァァァト!」
かつてないハイテンションで、スキルを発動させる。
私の頭の上に出現する虹色のボックスも、いつもより輝いて見えるよね……。
うっとり見つめるウチの前でボックスが回転、停止。
ゆっくり蓋が開いていって……。
パンパパパパパンパパパパパンパパパパパーン!
今まで聞いたことないくらい派手なファンファーレが鳴り響いた。
「はい出ました、人生初のUR!!」
出るのがわかってても、めちゃめちゃ気持ちいい……!
「……ん?」
だけどその効果を読み進めていくうちに、血の気が引いていくのを実感した。
「ちょちょちょ……嘘でしょ……」
そう……ウチは、忘れてたんだ。
ウチのガチャは、同じレアリティの中でも明確に当たりハズレがあるって。
「どうした!? 流石にガチャ確率は上昇できなかったか!?」
「や……間違いなくURはURなんだけどさ……」
「何なんですの!? ハッキリしてくださいまし!」
「今回の、効果は……」
泣きそうになりながら、ウチはその効果を読む上げる。
「激レアモンスター大量ポップ☆ アーンド、レアドロップ率超アップ♡ ……です!」
いや、わかる……わかるよ……!?
普通なら確かに、URも納得の超絶当たり効果……!
でも、今ではなくない!?
あと、こんな時に『☆』とか『♡』とか付けてきてるのが煽ってきてるみたいでなんか尚更ムカつくんですけど……!
「それは……」
オタくんが何か言おうとしたのと同時、少し遠くでピカッと眩しい光が生まれる。
そして、その光の中から何かが大量に現れた。
なんか、全体的に緑系の……なに? 半魚人? みたいな?
てか、めっちゃ顔コワい上に明らかこっちに殺意向けてきてる感じなんですけど!?
「卯月さん……」
「うわーん、ごめんオタくん! ウチのガチャがクソ運なばっかりに!」
身体をフルフル震わせるオタくんに、ウチは今度こそ涙を流しながら謝る。
「いや、まさしく大当たりだ!」
けど、涙で滲む視界の中でもオタくんの表情が輝いているのが見えた。
そうか、ウチにはハズレに思えない効果でもオタくんにとっては……。
「あれは、まさしく河童タイプのモンスター! ついに三件目の目撃例だ! 映像に残るのは世界初! 視聴者の皆さん、貴方達は今歴史の目撃者になっています!」
「いや、言うてる場合かて!?」
オタくんは……こんな時でも、オタくんすぎる……。
「実際問題、このままじゃジリ貧だ。一か八か、新しい装備に賭けるってのは悪くない選択だと思う」
あー……出てきたモンスターのドロップ品を当てにするってこと?
そう言われると、一理あるとは思うけど……。
「今でも手一杯なのに、新しいモンスターまで相手してたらヤバくない……!?」
「こっちは、しばらく俺一人でどうにかしよう」
つまり、河童の方はウチと雅ちんでどうにかする……ってこと、だよね?
「お、お任せくださいまし!」
ドンッて自分の胸を叩く雅ちんだけど、その声は震えていた。
ウチだって、気持ちは同じだと思う。
モンスターのレア度と強さは、必ずしも比例するものじゃないけど……未知のモンスターとの戦闘は、いつだって危険度が一番高いんだから。
でも、オタくんが言うなら……。
「卯月さん、忘れたか?」
覚悟を決めて拳を握るウチへと、オタくんはニッと笑ってみせた。
自分が一番大変な状況なのに、ウチを安心させてくれる優しい笑み。
「君たちに渡したナイフを」
「……ナイフ?」
つっても、オタくんから渡されたナイフなんて肉を解体した時のやつくらいしかないと思うんだけど……と思いつつ、とりあえずそれを取り出してみる。
や、でもこれではないよなー……別に切れ味とかも普通だったし………………んんっ?
そういや渡された時も思ったけど、なんかこのやたら入った変な模様に見覚えがあるような……ないような………………あっ!
「これ、河童タイプのモンスターに特攻があるってやつ!?」
「そう……こんな時のために買っておいた、な」
「それは絶対ウソだよね!?」
いや、でも、実際『こんな時』が来てしまってる現状一概には否定しづらいところではあるかもね……。
「こ……これがあの、『皿割り包丁』でしたの……!? 世界で三本しか確認されていないという、河童特攻武器……!」
「これそんな名前だったの!? ほんでこの装備自体もそんなレアだったの!? にも拘らず三本セットのお得価格で売られてたの!?」
雅ちんまでそっち側に行っちゃうと、ツッコミが追いつかないんですけど……!?
い、いや、今に関してはウチこそが言ってる場合じゃないのか……。
レアモンスター出現にレアドロップ率アップ、更に特攻武器まで……ここまで揃ってるなら、確かにチャンスなのかも……。
「えーい、やったらぁ!」
というわけでウチも覚悟を決めて、河童? に斬りかかるのだった。




