第22話 オタク、対峙する
悪魔型モンスターが大量に出てきたのに対して、俺が撮れ高について言及したところ。
〈 エンドレスサバイバル配信に付き合いきった視聴者なら、同じモンスターを延々倒し続ける絵面でも余裕なのではなかろうか 〉
〈 いや、試行錯誤とか毎日多少は変化のあるサバイバル配信に比べてこっちの方が苦行度高くね? 〉
〈 俺、キャンプ動画とかは観るの好きだしなー 〉
〈 ダンジョン深層に突然放り込まれて、生き死にが掛かったサバイバルをキャンプ動画として視聴してた奴がいるのか…… 〉
〈 ダンオタがいる時点で、あんまり生死は掛かってなかったから…… 〉
コメントからも、そんな反応が返ってきていた。
……さて、とりあえずボケてはみたものの。
いやまぁ撮れ高に懸念があるのも、紛うことなき本心ではあるんだけども。
〈 つーか、これって第一階層だよな? 〉
〈 ヤバくね? 〉
〈 ダンオタが抜かれたら、こいつらが地上に溢れ出るってこと? 〉
〈 お前らコメントしてる場合か早よ逃げろ 〉
〈 俺東京住みだぞ逆に今からどこに逃げるんだよ 〉
〈 俺も東京。溢れた時点で終わりだよどうせなら最後まで見届けるよ 〉
〈 言うてダンオタがいるなら、無限湧きでもなんとかなるやろ 〉
〈 怒らないで聞いて下さいね? ダンオタも人間なので、戦い続けたらぶっ倒れることもあるんです……たぶん三日くらいで…… 〉
〈 三日間ぶっ通しで戦い続けられる時点で、人間かはだいぶ怪しいが…… 〉
〈 『緊急脱出アイテムが作動するまでぶっ続けで戦ってみた』配信は、結局視聴者の方が先に全員脱落してたからな…… 〉
〈 いや言うとる場合か!? さっきの煌梨ちゃんのセリフを早速引用させていただきます 〉
端的に言って、この状況はヤバい。
とはいえ、撤退の難易度はそれほど高くはないはずだ。
何しろ、出口はすぐそこ。
まずは俺が殿になりながら二人を先に逃がして、俺も……。
あぁ、それ自体は問題なく実行出来るだろう。
ただし、その結果はどうなるか。
〈 実際、東京の命運はダンオタたちに掛かってるよな 〉
〈 つーか、このレベルのモンスターが大量に外に出たら日本自体終わるだろ 〉
それは、視界に映るコメントたちが示してくれていた。
「撤退だ。二人共、振り返ることなく息の続く限り走りきれ」
だから、俺は撤退を指示する。
♥ ♥ ♥
んぉえ? てったい?
てったい、って何だっけ……?
……あっ、撤退!?
逃げろってことね!?
はいはい言われなくてもそうしますって!
さっき、オタくんでもどうにかこうにか倒せた相手なんだもん!
ウチに出来ることなんて何もないっていうか、たぶん逃げるのが唯一出来ることだよね……!?
オタくんのことだから、きっとウチらがちゃんと逃げられるまで自分は逃げないんだろうし……逆に言えば、ウチらさえ逃げられればオタくんも撤退出来る。
そうだよね? オタくん。
そう思って全力で逃げながら、一瞬だけウチは振り返った。
振り返っちゃった。
きっとそれは、オタくんの意に反することだったんだと思う。
だって振り返った先で、オタくんは──
♠ ♠ ♠
「スパチャ、センキュー」
こんな時でもそう口走ったのは、いつもの癖ってやつだろうか。
呼び出すのは、ブルファイマント。
「さぁ、俺と遊ぼうか?」
真っ赤なマントを振って見せれば、モンスターの注意が俺に集まってくるのが圧を伴って感じられる。
いわゆるヘイトを集めるための装備で、高位のモンスター相手には初めて使うけど効果はバッチリみたいだ。
まぁそもそも、この場に俺しかいない以上はあんまり意味がないとも言え──
「はい来ました、まさかのSR三連発! かつてない流れ来てるよー! バフ盛り盛りでいってみよー!」
「今ある限りのデコイ系アイテムを『倍加』致しました! これでしばらくは保ってほしいものですわね!」
「……っ」
両隣から聞こえた声に、たった今決めたばかりの覚悟が揺らぎかける。
「……二人共、なんでまだいる?」
「そりゃ、オタくんと一緒の理由じゃん?」
「右に同じく、ですわ」
軽口に聞こえるけれど、声は今までになく硬い響きを帯びていた。
「ここは俺が食い止める。あくまで、二人が逃げ切るまでだ。君たちが逃げてくれないと、俺も撤退出来ない」
「いや、今そういうのいいから」
……どうやら、俺の意図は完全に見抜かれてるらしい。
けど、受け入れるわけにはいかない。
「君たちは、ダンジョン管理協会に救援を呼びに行ってくれ。それが一番の支援だ」
「そんなもん、視聴者がとっくにやってらっしゃいますわ」
本心からの言葉でもあったけど、言われて気付く。
〈 通報しました通報しました通報しました通報しました 〉
〈 今ダンジョン管理協会にいるS級って誰だっけ!? 〉
〈 そもそも理事の半分がS級なんだから、誰かはいるやろ 〉
〈 一体いつから──協会に理事の誰かがいると勘違いしていた? 〉
〈 あいつら、むしろダンジョンにいる時間の方が遥かに長いもんな…… 〉
〈 ちな、S級ってのはネットで勝手に付けられたランクで公式には通じないから注意な 〉
〈 だから、言うとる場合かて 〉
……まぁそりゃ、この状況を見たら通報してくれてるか。
しかし、そうなってくると他に説得材料が……。
「オタくん、一つ勘違いしてるようなら言っとくけどさ」
「わたくしたちを『説得』しようなどと、無駄なことにリソースを割いている場合ではございませんことよ?」
緊張で脈打っている心臓に、別の要因での高鳴りが加わった。
「そもそもウチらは、オタくんに色々教えてもらってるけどさ。正式にパーティーを組んでるわけでもないし、もちろんオタくんはウチの上司でもない」
「端的に申し上げて……わたくしたちは、己の意思で勝手にここにいるだけ。貴方様の指示を聞く筋など、元よりございません」
色々と言いたいことは浮かんできたような気もするけど、それを言葉にするだけの時間は残っちゃいなかった。
あるいは、ここに至って言葉が不要だってことを本能では理解していたのかもしれない。
「せっかく、独占配信で視聴者数が稼げると思ったんだけどな」
「ひひっ、ウチのコンテンツ力を甘く見ないでよ。絶対、コラボの方がバズるって」
「わたくしというゲストまで加われば、本日のトレンド一位は間違いなしでしてよ!」
強がり代わりのそんな冗句の応酬が、火蓋を切る合図となった。




