第19話 オタク、調理する
俺の駆け出し時代について、長々と語ってしまった中。
「ちなみに、その最初の視聴者さんというのは何という方なんですの?」
龍造寺さんから、そんな疑問が投げられた。
「Shineさん、だよ」
「ふむ……見た覚えは、あるような……?」
龍造寺さんは、顎に指を当てて思案顔となる。
他の視聴者の名前なんて、よほどの常連か目立つ人のくらいしか覚えていないだろう。
Shineさんは元々そこまでコメントが多い方でもなかったし、俺の視聴者が増えるにつれてその頻度は更に下がっていった。
特に最近は、ほとんど見かけることもない。
ま、配信者と視聴者の関係なんてそんなもんだろう。
興味が惹かれればチラ見でもしてみて、どれだけ熱心に観ていた配信者だろうと何かのタイミングでプッツリ見なくなる。
俺だって、一視聴者としてはそんなことを何回も繰り返してきた。
「……あっ、いえ?」
俺が少しだけ感慨に浸っていると、龍造寺さんが何かに気付いたような声を上げる。
「Shineさんって、あの方ですわよねっ? ダン簡切り抜きチャンネルの!」
ダン簡っていうのは、ダンジョン簡単攻略チャンネル……俺のチャンネルの略称だ。
けれど。
「俺の、切り抜きチャンネル……?」
そんなものが存在していて……それをアップしてくれてるのが、Shineさん?
どちらも初耳だった。
もちろん、たまたま同じ名前を使ってるだけって可能性も大いにある。
でも、本当にあのShineさんだとすれば。
「それは、今も更新されてるのか……?」
「もちろんですわ。当初は拙かった編集技術がどんどん向上しているのも見所でしてよ」
今も、俺のことを見てくれているのだとすれば……嬉しさが、じわりと胸に広がる。
「尤も、当初はほとんど視聴者自体存在しないチャンネルでしたけれど」
……だとすれば、逆に龍造寺さんはなんでそんなチャンネルをご存じなんだよ。
「けれど、最近はそちらも人気急上昇中ですのよ? 戌亥様のご活躍の賜物ですわっ」
「別に、俺は今も昔もやってること自体あんま変わってないと思うんだけど」
「確かに戌亥様のご活動が素晴らしいのは、以前から変わらない事実ですけれど。それが、周知されるようになってきたのは……」
「……うん?」
龍造寺さんに視線を向けられ、卯月さんは小さく首を傾けた。
「それより、処理が終わったらさっさと調理始めたいんですけどー」
かと思えば、ジト目で俺たちの手元を指す。
……確かに、半ば無意識に進めていた狼肉への処理は既に一通り終わっていた。
「んじゃ、火は二口あればいいかな? 器具は?」
「フライパンと鍋でよろ!」
「あいよ」
卯月さんからの返答を受け、調理スペースを用意していく。
ちなみに鍋とフライパン、それから携帯コンロに調味料の類はスパチャ産……ではなく、例のパンと一緒に自宅から持ち込んだものである。
今回の調査は一日で終わるか怪しかったため、一応持ってきておいたのだ。
「ほい」
「はい」
「ほい」
「はい」
「ほい」
「はい」
そんな掛け声なのな何なのかよくわからない声を出し合いながら、俺が更に細かく切り分けた肉を渡し、卯月さんがそれを次々とフライパンの上に並べていく。
「んじゃ、残りはこっちによろよろ」
「あいよ」
フライパンの上が埋まったところで、卯月さんが指差す鍋に残りの肉を全部投入した。
左手でフライパンを操作する卯月さんは、器用に右手で鍋の味を整えていく。
「……流石同棲しているだけあって、見事な連携ですわね」
「まぁねー」
俺たちを半眼で眺めながらコメントする龍造寺さんへと、卯月さんは鍋とフライパンの様子を見ながら話半分って感じで応じていた。
「………………ん?」
しかし、ふとその目に疑問の色が浮かぶ。
「いや、同棲とかじゃないんですケド!?」
それから、物凄い勢いで龍造寺さんの方へと振り返った。
「別に一緒に暮らしてないし仮にそうだとしても同棲じゃなくあのほら何ていうか同居ってやつだしビスネスパートナー的なアレがたまたまアレして同じ家でアレなタイミングにアレな感じで……!」
「卯月さん、鍋吹き出しそう」
「おっと」
早口で捲し立てる中で指摘すると、卯月さんは鍋へと視線を戻して火加減を調整する。
「そ、そもそも、雅ちんさ。なんでそんな、ウチとオタくんが、その……同棲? とか、そんなのしてるとか思っちゃったの?」
それから、おずおずと再び龍造寺さんの方へと振り返った。
その頬が赤く見えるのは、火に照らされているからか別の理由からか。
「なんで、も何も」
そんな卯月さんへと、龍造寺さんのジト目が刺さる。
「煌梨さんが時折やってらっしゃる『自宅配信』の背景が、最近は今までと異なることがほとんどですし。その上、かつて戌亥様の配信に映っていたお宅と完全に一致することが特定班により解析済みですので」
「そうなの……!?」
「まぁ後者に関しては、配信当時はダンジョンと化していた戌亥様のお宅の内装がだいぶ様変わりしていたことで気付くのが遅れましたけれど……共通点は隠しきれておりませんでしたので、特定は時間の問題だったかと」
「オタク、怖っ……!」
「というか、その反応……あの自宅配信って、匂わせではなかったんですの? わたくし、てっきり戌亥様のファンに対する牽制とマウントかと」
「もしかしてウチの自宅配信って、全世界に対して同棲をカミングアウトしてるって思われてるってこと……!?」
「まぁ、そうなりますわね」
「おごぉ……!」
と、卯月さんは頭を抱えて蹲ってしまった。
というか、そんなことになってたのか……まぁぶっちゃけ、俺からすると誤解を受けようとさして困ることもないわけだけど。
卯月さんとしては、そういうわけにもいかないだろう。
「あー……我が家を拠点に打ち合わせ等を行うことが多いだけで、皆さんが想像しているようなことは何もありませんのであしからず」
とりあえず、ウチの視聴者へと言い訳……じゃないな、事実を述べておく。
〈 あぁ、わかっているとも 〉
〈 俺ら、変な想像とかしてないもんな 〉
〈 そう、変な想像は……ね 〉
……君たち、本当にわかってる?




