第16話 オタク、調査に向かう
武司さんに会った日のダンジョン帰り、俺たちは早速ダンジョン管理協会に三人揃って出頭した。
面倒なことは早めに済ませてしまおうの精神である。
そして、結論から言えば。
招集の理由は、俺たちに依頼があるからとのことだった。
依頼内容は、最近新たに発見された浅草ダンジョンの調査。
「新規ダンジョンの調査なんて、一流探索者がやるやつじゃん! ウチら、もうそのレベルだって認められたってことっ?」
管理協会の本部を出た卯月さんは、興奮した様子で目を輝かせていた。
「正直、わたくしがそこまでの実力を身につけられているとも思えませんが……」
卯月さんに比べれば懐疑的な表情ながらも、龍造寺さんもソワソワした様子を隠せてはいなかった。
「いや、二人の実力はもう一流って言って差し支えないと思う」
実際、そう呼ばれる部類の人たちに二人の実力が大きく劣っているとは思えない。
「とはいえ」
喜色を増す二人の表情が、続く俺の言葉に少し固くなった。
「今回の浅草ダンジョンは、既に先遣隊も調査に入った上で危険度は低いだろうって報告が上がってるらしい。更なる詳細調査の依頼っていうのは、俺らの実力を買ってくれてのものではあるんだろうけど……同時に、測るものでもあるんだろう。それこそ、一流扱いして今後も似たような調査を依頼するかどうかとかの判断基準にするために」
「なるほど、そういうことですのね……」
「じゃあ、ここで大活躍すれば一気に大抜擢もあり得るってことじゃん!」
慎重な態度で情報を噛み締める龍造寺さんと、表情をますます輝かせる卯月さん。
こういうところでも対照的な二人は、バランスの良いコンビと言えよう。
「ま、いずれにせよ俺たちのやることは普段と変わらない。ダンジョンを攻略するだけだ」
と、冷静を装って締め括る俺ではあったけど。
実際は、新規ダンジョンに挑むワクワクで頬が緩みそうになるのを堪えているのだった。
♠ ♠ ♠
……そんな風に、喜び勇んで浅草ダンジョンに挑んだ俺たちは現在。
「ログハウスの補修、完了……っと。これで、昨日みたいにダンジョンスコールが来てもなんとかなると思う」
「オタくん、ありがとー! ご飯の準備も、もうすぐ出来るよー」
「ふふっ、お外で食べるご飯というのは何度目になっても楽しみなものですわね」
「……あ、こっちに向かってるモンスターが三体。ちょっと片付けてくるわ」
『はーい』
ダンジョン内で、それなりに楽しくサバイバル生活を送っていた。
どうしてこんなことになったのか。
話は、少し遡る。
♠ ♠ ♠
「うぉー、これが前人未到のダンジョンってやつかー! テンションブチ上がるー!」
「既に先遣隊は入っていると言われていたでしょう。それにしても、見た目は新宿ダンジョンとさほど変わりませんのね……」
両手を挙げて気分が高揚していることを全身で表現する卯月さんと、物珍しげにキョロキョロと辺りを見回す龍造寺さん。
「これまでほとんど誰も入ってないってことは、トラップの類も大部分は生きてるってことだから。いつも以上に気をつけて」
形は違えどいつもより興奮している二人に、一応注意を促しておく。
「だいじょーぶだいじょーぶ! 新宿ダンジョンで、どんだけトラップにかかったと思ってんの? ウチらも、もうトラップに関してはプロってやつよ」
「一緒にしないでくださいまし……と言いたいところではございますが、こればかりは煌梨さんに同意ですわね」
「いや、ダンジョンによってトラップの種類も変わるから油断は禁物………………あ」
『……あ?』
言葉を途中で切って思わず上擦った俺の声を、振り返った二人が繰り返す。
「あー……例えば、床に一つだけある色の変わった部分」
「今、わたくしたちの目の前にあるようなものですわね」
「あはは、やだなー。流石に、こんなベタなの踏まないってー」
「……をフェイクとして、その周辺にしれっと存在する微妙に模様の違う床」
「へー? ………………今まさに、ウチが踏んでるやつみたいだね?」
「ほほほ………………そうですわね、まさしくわたくしの足の下にあるものともピッタリ条件が合致すると言えなくもないでしょう」
額に手を当てながら説明を続けると、卯月さんと龍造寺さんはぎこちない笑みを浮かべたまま頬をピクピクと動かし始めていた。
「……ちな、それって踏んだらどーなんの?」
「ここはまだ一階だし、即死系ってことはないとして……このタイムラグから考えて、恐らくは転移系……か?」
「踏んでもすぐ発動しないなら、その間に足をどかせればどうにか……なりませんこと?」
「踏んだ瞬間にマークされて、特殊なスキルでもなければ解除は不可能だと思う」
「……ですよねー」
「……ですわよねー」
卯月さんと龍造寺さんが、引き続き頬をヒクつかせながら諦めの苦笑を浮かべると同時。
床が強い光を発し、複雑な紋様を描く。
転移陣……ダンジョンではフロア間を直接繋ぐ階段の他に、幾つものフロアをスキップして移動する仕掛けが存在する。
大抵の場合は元々見える形で設置されていることが多いけど、こんな感じでトラップと共に出現することも珍しくはなかった。
たぶん反射的に踵を返そうとしたんだろう二人の身体へと襲いかかるように、転移陣の光が飲み込み……それが消えた後には、二人の姿も跡形もなく消え去っていた。
「……これは流石に、俺の注意不足だな」
思っていた以上に浮かれていたことを自覚しながら、俺もトラップ床を踏み抜いた。
再び強い光が、今度は俺を中心に発生。
流石に眩しくて目を瞑って、再び瞼を上げるとさっきとは全く違う景色が広がっていた。
比較的明るかった第一層に比べて、光源は限りなく少ない。
まだ目が慣れてないけど、暗がりの中に見える風景はどこか禍々しく思えた。
それから。
「オタくん、来てくれたんだ~! ありがと~!」
「流石に、あそこで置いて帰るほど薄情じゃないさ」
「申し訳ございません、ダンジョンに入って即一秒でトラップにかかるとは……」
「いや、俺も事前に気付けなかったから同類だ」
ホッとした表情で駆け寄ってくる二人に、俺は苦笑気味に答えた。
「さて、問題はここがどの程度の階層かってことだが……」
頭を切り替えて、周囲を見回す。
「そーそー、それなんだけどさ。なんていうかここ……ちょっと、ヤバくない?」
「不勉強な身ではございますが……これまでに足を踏み入れたことのある階層に比べて、相当な禍々しさを感じております」
二人も肌感覚で理解はしているらしい。
とはいえ、俺も現時点では確証があるわけじゃない。
「とりあえず、近くの様子を見てみよう」
そう提案して、まずは周囲を探索してみることにするのだった。




