第11話 ギャル、お嬢様を知る
「それじゃ、俺たちも行こうか」
龍造寺さんがボス部屋の方向に行ったのを見届けた後、俺も歩き出した。
「え? こっちじゃなくて?」
龍造寺さんが去っていった方を指して、卯月さんが首を傾ける。
俺が足を向けたのは、それとは逆方向だ。
「ボスより先に、こっちの攻略をした方が学ぶものが多い」
「や、でも……」
龍造寺さんの行った方向と俺の足が向く先へと何度か視線を往復させながら、卯月さんは戸惑った表情を浮かべていた。
「……りょーかい」
けど結局、何かを飲み込んだ様子で頷いてくれる。
ただ、俺に向けられる視線には明確な疑問の色が載っていた。
聞くまでもなく、さっきの龍造寺さんの諸々に対して問いたいんだろう。
だが、俺はそれに対する答えを持っていない。
なぜならば……どういうことなのかは、俺も全くわかっていないからだ。
龍造寺さんと知り合ったのは、結構前なんだが……初めて会った時からあんな感じで、会う度に何かと勝負を持ちかけられる。
特段恨み買うような心当たりなんかはないけど、ネットで活動してると思わないところで思わない影響が出たりするしまぁそういうこともあるだろう。
それにしては、と思う部分はあるものの……結局、そこもよくわかっていない。
というかたまに絡まれる程度で言うほど探索の邪魔になるわけでもないので、細かく考えることは放棄しているというのが実情だった。
とはいえ、勝負の方は投げた……ってわけではない。
まぁその辺りも含めて、もうしうばらくしたら少しは説明しやすくもなると思う。
♥ ♥ ♥
流石に、雅ちんの件は気になっていたけれど。
「ぜぇ……はぁ……なんなの、あの信号機みたいなスライム……何の意味があって色が入れ替わって、どういう原理で順番通りに倒さないと復活するわけ……?」
「ダンジョンに出てくるモンスターに、そういう論理性を求められてもなぁ」
別のところで戦い終えた頃には、そんな疑念は頭の隅に追いやられていた。
何しろ、目の前に集中しないと死にかけないからね……。
なんなのあのスライム、変なギミックがあるクセにやたら攻撃性高いし……。
マジ、何回死ぬかと思ったことか……。
ていうか、『ガチャ』でSR『一時停止』が出なかったらだいぶ危なかったよね……。
いや、いざとなったらオタくんが助けてくれたんだろうけどさ……。
「さて、次はボスフロアに行こうか」
「はーい……あれ?」
実際、雅ちんのことを思い出したのはオタくんがそう言ったタイミングでだった。
「ボスだったら、もう雅ちんが倒しちゃってるんじゃないの?」
時計を見てみれば、さっき雅ちんと分かれてから小一時間は経過している。
なんかスピード勝負って感じだったし、とっくに片は付いてるよね?
「行けばわかるさ」
オタくんは、そう言って肩を竦めるだけだった。
そして、実際にボスフロアに行ってみると。
「おぎゃー!? なんですのなんですのなんですの!? このボス、どこを殴っても全然ダメージが通りませんわー!?」
確かに、状況は一目瞭然だった。
というか、雅ちん自身が解説してくれていた。
「明らかに弱点っぽい場所を殴ってますのにー!?」
そう言いながらチラッとこっちに視線を向けてくる辺り、ウチら……というかオタくんが来たのに気付いて、質問してるって感じ?
「そのボス……ストーンブルの弱点候補が三箇所あることには気付いてるか?」
「もちろん! 赤、青、黄、僅かに皮膚の色が変わっている場所は全部殴りましてよ! ですがそれぞれ単体はもちろん、六通りの順番を全部試してみても全部ハズレでしたわ!」
やっぱりって言うべきか、確認するオタくんへと雅ちんは普通に答えてる。
「どの色が弱点かっていうのは、、時間の経過で変わっていくんだよ」
「やはり、そういうことですのね……! ということは、瞳の色がキーなのでしょう……!? 赤、青、黄、と同じ色合いで変化しておりますものね……! けれど瞳の色が変わったタイミングで同色の箇所を叩いても効いている様子はありませんし、他に幾つかのパターンも試してみたのですが……」
「うん、まぁ、実は瞳の色って全然弱点とは関係ないからな」
「はぁ、そうなんですのね………………はぁ!? そうなんですの!? あんな露骨にヒント感を出しておきながら!?」
「それがトラップなんだな。実際のとこは尻尾の動きと連動してて、上下運動してる時は赤、左右に揺れてる時は青、回ってる時は黄色が弱点になってる」
「これだけ色推しな雰囲気を出しておきながらそれですの!?」
「ちなみに正解の弱点を100回連続で攻撃したら倒せるけど、ミスるとリセットされてまたカウントが1回目からになる」
「クソゲーすぎませんこと!?」
はえー、なんかもう慣れたやり取りって感じだよね。
つまりはまぁ、そういう関係性ってことなんだろう。
ライバルっていうよりは、師弟的な?
そう、まさしく今のウチとオタくんみたいな……なんて、考えた時に。
胸に、モヤッとした感覚が生じたのを自覚する。
……うへー、マジかよウチ。
オタくんの生徒は自分だけ、って?
その独占欲は、我ながら引くくない?
こういう時は……うん、そうだよね。
「……ねぇ、ウチもやっていい?」
さっきまでヘバってたのにまた身体を動かしたい気分で、オタくんに尋ねてみる。
「それは龍造寺さんに聞くべきだろう」
なるほど、確かに。
「ねー、雅ちん! ウチも混ざっていーい?」
「誰が雅ちんですの!? ですが、ダンジョンのボスに占有権が存在しないことはダンジョン管理協会が名言している通り! お好きになさればよろしいのではなくて!」
「ありがとー!」
ボスと戦いながら答えてくれる雅ちんにお礼を言って、ウチも参戦する。
倒し方は、今聞いた通り。
……ていうか、アレだよね。
さっき倒したスライムの応用編って感じだよね。
あー、オタくんが言ってたのはこういうことか。
雅ちんがたぶん自力じゃ気付けじゃないだろう、ってことまでわかってたってわけね。
だからその間に、ウチにはもう一段階前のトレーニングをしとこうと。
……あ、またモヤっと来た。
「てーい!」
それを吹き飛ばす気分で、ボスの青色の鱗を斬りつける。
「ちょっと貴女! 今のタイミングは黄色を殴るのを正解でしてよ!? また一からやり直しになったじゃありませんの!」
「マジ? 今、尻尾回ってるっぽくなかった? もしかしてあれって、左右揺れ判定?」
「貴女、雑すぎませんこと!? 邪魔をするなら引っ込んでてくださいまし!」
「ごめんごめん、次はちゃんとやるからー」
「と、いうか!」
一旦ボスから距離を取りながら、雅ちんは横目をウチに向けてくる。
「二人して同じことをやるなど愚の骨頂! わたくしが赤の部分と、タンク役も務めて差し上げます! 貴女は、残りの青と黄色のタイミングを担当してくださいまし!」
「りょ!」
ウチの参戦をあっさり認めてくれた上に、初対面なのに片面を任せてくれるなんて……これが、お金持ちの懐のおっきさってやつ?
……それは、ありがたいんだけど。
「でも雅ちん、タンクなんていけるの?」
雅ちんの鎧と円盾はいかにも豪華絢爛で、防御力も高そうだけど……雅ちん自身は、か弱い女の子なわけで。
不安がないと言えばウソになる。
「問題ございません」
だけど雅ちんはちっとも揺らいでなくて……物理的にも、ズン! って地響きと共にでっかいモンスターの攻撃を盾で受け止めてみせた。
「おおっ、すごっ」
ウチの口から、思わず感嘆の声も漏れようってもんである。
「ふふん、この程度は朝飯前でしてよ」
「はえー、お嬢様でも『朝飯』って言うんだー」
「……どこに感心していますの? それに、これは慣用句でしょう」
「にしても、カッチカチだね? その鎧と盾、やっぱ防御凄い系のやつ?」
「……もちろん、それもありますけれど」
ちょっとウチにジト目を向けてから、雅ちんは自分の鎧と盾に目を向けた。
「わたくしのスキルは、『アイテム性能倍加』。その名の通り、アイテムのスペックを倍にするものでしてよ。今は、防具の基礎ステータスと『鉄壁』……衝撃緩和と耐性強化の付与効果を、それぞれ倍加しているのです」
「……マ?」
それって、えげつなくない?
単純にステが倍になるってだけでも凄いけど、レア装備の中には付随効果がヤバいのが多いって聞いたことがある(オタくんから)。
もしも、そっちまで『倍』になるっていうなら……。
「それって……」
「貴女に、詳細を説明する義理はございませんわ」
まぁ、そらそうか。
いや、言うて結構詳細に説明してくれた気もするけどね?
ピシャリと言い放った後で、雅ちんはウチに向ける目を鋭く細める。
「わたくし……貴女には、負けませんことよ!」
……あー、ね?
そういうことね?
雅ちんも、なんだ。
オタくんのライバルだって言ってたけど、ウチにとってもってわけだ。
にひ……そんな風に、真正面から言ってくれるなら。
「ウチだって、負けないもんね!」
遠慮なんて、しないんだから!




