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第五話:09を預かる

あれからも奴とは、週末になるたび、東へ西へ、海に山にいろんな所にツーリングに出かけた。


そんなある日の朝、奴から電話がかかってきた。

「入院する事になってさぁ、俺の09を預かってくんない?」

「はぁ?血圧?」と生活習慣病の心配をする。じじーの会話とは、こういうもんだ。

「いやいや、車に追突されたんだよ」と奴。

「えっ!!09は動くの?」と奴よりバイクを心配する俺。


詳しく聞くと、仕事の帰り道、車で信号で停まっていたら、後ろから来た車がノーブレーキで突っ込んで来たて追突されたとの話だった。奴の車は大破して廃車になったそうだ。

首の方は、その直後は大した事なかったが、2日後くらいから、余りに痛くて病院に行ったら頚椎骨折だったそうだ。


「どこの病院?」と聞くと

「ひたちなか総合病院」との話。

「わかった、じゃあ行くわ」と同時に車のキーを持って、外出できる格好に着替えて、あわてて家を出た。


「今来ても、コロナ・・・」と奴は言いたかったらしいが聞いてなかった。


この当時、世の中はコロナ真っ只中だった。マスクをするのは当然で外出は出来るだけしないような時期だった。

バイクで出かけても、ほとんど、どこにも寄らず走るだけ走って帰って来るというツーリングをしていた。


病院に着いて、車に常備しているマスクをを付けて、自動ドアを入る。

受付で看護師さんに

「友人が入院してるんですけど、何号室か教えて下さい」と言うと看護師さんからは

「身内の方ですか?」と聞かれる。

そこで始めて気付いた。「あっ、そうかコロナだから入れてくれないんだ」

そこで「まぁ、身内のようなもんです」とか適当な事を答えたが

「間柄は?何親等?同居?」と畳み掛けてくる。「ああ、友人です」とうっかり本当の事を言ってしまう。

結局、「今は身内以外入れないんですよ」と冷たく断られた。


仕方なく病院の建物を出て後ろの自転車置き場でスマホをかけるが、奴のスマホはお話中で出ない。すると目の前に見たことある顔が見えた。

「あっ、奴の妹だ」と気付いて、すぐに声をかける。

「こんちは、奴の幼馴染です。覚えてますか?」と尋ねる。

妹は「名前だけは覚えてます」と言うので

「いやー、大変でしたね。急に入院なんて。着替えを持って来たんですか?バイクを預かってて頼まれて、でもキーもないから・・・」と一方的に喋り続けてしまった。「あっ俺、意外と動揺してるかも」とその時に気付いた。

すると妹さんが「今、兄からキーを預かってくるので、少し待っててもらえますか?」と、とても落ち着いた受け答えだった。

どうやら、先程お話中だったのは、こちらの妹さんと話していたらしい。


奴は、すでにキーを病室に持ってきていて、妹さん経由で俺に渡すつもりで段取りをしていたようだ。落ち着いて考えてみると、最大の問題点は「妹さんから俺にどうキーを渡すか?」だったようだが、俺が独断で病院に来たことで、解決したようだ。

まぁ、結果オーライだ。


とり合えず、ヘルメットとグローブとジャンバーだけ持って、家族の車で奴の09の駐車場で降ろしてもらう。


奴の09は、一応、シートをかけてゴム紐で止めてあるが、シート自体が破れてボロボロだった。

乗り手を失ったマシンとボロボロのシートが、なんだかとても悲しげに見えた。


俺が09に跨った。いつもと違う乗り手に09は何を感じるのだろう。家までは、たかだか15分と言ったところか。

俺自身にも慣らしが必要なので、ゆっくりと09を走らせた。





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