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第四話:プライド

「今度はどこに行く?」と聞かれたので

「当然、峠だよね?」と応じる。

「んじゃ、北方向だな、十王はどう?」

「常陸太田側から十王ダムに抜ければ峠か」

なんて会話で行く先が決まった。

09に乗り始めたばかりなのに、いきなり峠に行く事に躊躇がない。

「この野郎、すでに乗りこなしてるつもりか?」などと俺のプライドがくすぐられる。



普通は二台以上で走る場合、ベテランが前で初心者が後ろとなる。

しかし、俺と奴の場合、奴の方がバイクのキャリアは短いのに道をよく知っているので、奴が先行する事が多い。

こういう部分でも俺のプライドがくすぐられる。

「俺の方がベテランなのに・・・」



俺が先行するとよく道を間違える。でも奴は文句も言わず、それに付いてくる。どんな道を俺が選ぼうが奴は黙って付いてくる。「自分が選ぶ道を行く方が空いてるとか思ってるだろ?器の大きさを見せてるのか?」

などと俺のプライドがくすぐられる。



そんな事を考えながらR349を十王ダムに向けて右折する。ここからの峠では最終地点が決まっているので、道に迷うことはない。

だから、ここぞとばかりに俺が先を行く。

普通に走っている奴の09を抜いて勝手に前に出た。


09の前を俺の相棒の07で走るとなると自然と力が入る。いい所を見せないといけないという義務感が発生するのだ。しかし、いいペースで走っていると、鋭角なコーナーが待っているのが峠だ。


コーナーの侵入前でオーバースピードだった場合、バイクを寝かす前にコーナー奥までを短いストレートにして、その区間でフルブレーキングを敢行する。

普通視線はコーナーの先に送って出口を見るのだが、このときばかりは、真っ直ぐ前の白線を見て距離を測る。

全後輪同時くらいでいいのだが、ほんの少しでもリアブレーキが先になるようにかけると車体が安定する。

リアブレーキは、すぐに全踏みだが、そこから7割くらいまで緩めては、全踏みにして7割くらい緩めるを繰り返す。俺の思う本来のポンピングブレーキはこうだ。教習所で聞くポンピングブレーキは0→100、0→100の繰り返しに聞こえるが、それだと意外に車速は落ちないと思っている。

フロントブレーキは引き代の7割くらいをキープする。ABSが付いている場合は、全握りでもいいのかも知れないが、ABSなど付いてない頃に、握りゴケをしない為に身に付いた引き方なので自然とそうなってしまう。

急に速度が落ちると体は慣性の法則で前のめりになる。それを防ぐ為にお尻をリアタイアの上に置くつもりでシートの一番後ろに座る感じに体を動かす。

バイクを停める訳ではないので、ある程度速度が落ちれば、後は普通にコーナーを曲がるだけだ。

次のコーナーからは、また立て直せばいい。


こんな走りが早い訳もなく、後ろを走る09から見ると「なんだ?おめえ、おせーな」と思われているに違いない。

また俺のプライドがくすぐられる。


車間が開いてミラーの中で小さく見え始めると「俺の09ならアクセル一発で追いつくから余裕だぜ」と思われているようでムカつくし、少し首をひねると見えるくらい車間が詰まれば「なんだ、お前の07も大した事ねーな」と思われているようでムカつく。


いい歳をしたじじーだがバカだけは治らない。なんだかんだ言いながら、要するに奴との峠が楽しくてしょうがないのだ。


バイクで受ける風は、いつでも心地よい。天気がよい日は尚更だ。ヘルメットの中を吹く風には森の匂いと日の光の匂いが感じられる。


十王ダムに着くと、すぐに奴は喫煙所を探し始める。「さっきからタバコを吸いたくてさぁ」と奴。

「そんなに余裕だった?」と羨ましさ半分で言うと

「そうなんだよ、こんくらいの峠なら、あんまりアクセル開ける必要ないな」などと言いやがるので

「俺はよー、他の人より『沢山アクセル空けたぜ』とか『いっぱいブレーキかけたぜ』って言いたく、こいつに乗ってるからよぉ」と強がり混じりに答える。

奴はタバコを吸いながら「なるほどね」と呟く。

でも、俺のそれは強がりなんかではなく、本気でそう思っているのだ。


帰りはR6から帰る。日立の駅近くは、いつも混んでいる。一般の車に紛れると奴の09は持て余し気味だ。

こういうときは、おそらく俺の07の方が楽なのではないかと思う。


途中の交差点付近で、今回は俺が手を上げる。奴はR6を直進、そこから俺は左折する。


夕日が差すと、シールドいっぱいに光って眩しい。俺も奴ももういい年だ。眩しい人生にはならなかったが、こんな風にバイクに乗った日常を送れる、それはそれでいい人生だったんじゃなかろうか。

などと哲学的な感傷に浸りながら、家路を辿る。

今日も楽しかった。それが俺の答えだ。



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