第二話:雨の日曜日
「週末にはツーリングに行こうぜ」と奴が言う。
当然のように「どこにする?」と会話が始まる。
「峠を走りてーけど、まずは慣れるのに平らな所かな?」奴はいずれ峠を攻める気満々だ。
「じゃ、海だな。どこまで行く?大竹?鹿島神宮?」と定番を俺が提案する。
「犬吠埼辺りか?」奴の行き先は距離感がバグっていると思う。俺なら鹿島神宮でも充分遠い。
「ああ、うん、そっちか、わかった」と応える。俺もバカなのだ。
当日は雨の予報だったし、実際に朝から雨が降っていた。
「今日、雨だよ」と朝から電話をする。
「小雨だから大丈夫だよ。カッパを持って行こうぜ」と奴は言う。どうやら奴にとって雨なんて屁でもないようだ。
俺はもう何十年も「雨の日は乗らない」というポリシーでやってきた。カッパなんぞ30年も前のものしか持ってないし、開けてもいない。
「んじゃ、そうするか」と応えて、古いカッパをサイドバックに入れて、小雨の中を待ち合わせたコンビニまで行く。
奴の09はダークバイオレットと言う色なのだが、普段は紺色に見える。紫というより濃い青だ。雨の日にはなおさら濃い色で紫は目立たない。
「んじゃ、とり合えず51号方向だと、駅南周りか?」と俺が言うと
「俺、いい道知ってるから、そっちから行こう」と奴。
奴は道をよく知っている。一度走ると忘れないのだ。どんな覚え方をするのか分からないが、景色を見ていると「ああ、ここあん時走った」とか、俺が交差点を行き過ぎようとすると「曲がり口はここだよ」とか、なぜか道をよく知っている。
ナビがない頃には、とてつもなくすごい能力だったのだが、ナビが普及した今では、使い所が少ないに違いない。
小雨のバイクは久しぶりだった。ヘルメットのシールドに雨粒がついて気になる。視界がなくなる程ではないのだが、拭きたい衝動にかられ、こまめにグローブで拭く。
インカムのない時代から、四輪プラス二輪で出かける事が多かったせいか、奴と走っていると特にインカムの必要性を感じない。信号で止まればシールドを上げて、少し顔を近づけて、大声で話ができるし、走行中はハンドサインで何を言っているかわかる感じだ。
鹿島の街中に着く頃には雨も本降りになってきた。前を行く奴がコンビニの前で左にウィンカーを上げた。
「やっとカッパを着る気になったか」と思う。
奴はワークマンでカッパを新調していたようだ。胸の部分はジッパーの他にその上からベルクロで停められる蓋が付く。これは雨が入らないようにする機能でライダーのカッパには必須の機能だ。もう一つ胸より少し下の部分に紐が通してあって絞る事ができるようになっている。こちらも風でバタつかない為に必須だ。袖もベルクロで留められるようになっている。
俺はというと30年前のカッパだ。一応バイク用のそれなりのカッパだが、色は黄色でその色合いが80年代のライダーを思わせる。とり合えず雨をしのげればそれでいい。
「カッパなんか何十年振りかに着たよ」と俺。
「俺なんか、わざわざ買っちゃったよ。昨夜なんかワクワクして眠れなかったよ」と奴。
相当、楽しみにしていたらしい。だから雨でも出てきたんだと気が付いた。
また、二人でバイクに跨り走り続ける。
もう、これだけ降ってくるとシールドの雨粒も気にならない。水が流れるから自然に後ろに流れて行く。
雨もそうだが、バイクに向かない天候のときは、悪い状態になればなるほど、コレも悪くないと思えるから不思議だ。
だんだん雨なんかどうでもいいし、雨は雨で楽しく思えるようになってきた。




