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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第四章 スローライフ

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第59話 身の上話

「……で、さっきの続きだけど」

 俺たちはまた、本拠地に戻ってきていた。


「もう一度、昼寝でもする?」

「……そうじゃなくて、お姫様抱っこの方」

「それはさっきやったんだが」

「……私の記憶がないからノーカンで」

「疲れてるんじゃないか。もう少し寝たほうがいい」

「……十分じゅうぶん寝た」

「さっきのなら30分も寝てないだろ。ゆうべ、何時間寝た?」

「……よん……さんじかん?」

「明らかに寝不足じゃないか。まだ社員でもないのに、そこまでする必要はないだろう」

「……仕事、しないと、また、親の七光りとか言われる」

 親?

 そういえば、この人の家族の話とか聞いたことはないな。

 以前は他人のことなんか興味なかった、というのもある。

 それに、この話をするならば、自分の話もしなければいけなくなるから。

 俺の両親が亡くなったことはカズハにも話したことがある。でも、それ以上は。


 それでも今では、彼女のことはこのままにはしておけない、と思う。

 この人が、もしも遊ぶ金欲しさとかでバイトをしてるなら……いや犯行動機だそれは。ちゃんとした理由がないなら、何とかして止めなければならないだのではないか。


「……前にも言ったよね。私はプログラマーになりたいって。プログラマーの仕事も、テストプレイヤーとしてのゲームも、学校も、どれもおろそかにはできない。全部ちゃんとやりたい」

 言いたいことはわからなくもない。でも。


「ひとつ聞いてもいいか? カズハの両親は、何をしてるんだ」

 それを聞いたカズハは、一瞬その身をこわばらせ、上目遣いに俺を見る。

 プライバシーの問題もあるし、普段ならば言いたくなければ言わなくていい、と言っていまいそうだが。

 睨み合いというほどでもないが、しばらく視線を交わした後、カズハは口を開いた。


「……わたしのパ……父は、この会社、カプセル・フェニックス社のサンフランシスコ支社でプログラマーをやってる」

 え?

「……父は、昇進の話もあったけど、現場で働きたいからって、まだプログラミングをしてる。で、母も同じ支社で部長をやってる。父の代わりっていうわけじゃなく、ちゃんと実力で」

 もしかしたらお嬢さまか箱入り娘なんじゃないかと前から思ってたが、サラブレッドのたぐいじゃないか。


「それで、カズハはアメリカについていかなかったのか?」

「日本語でもコミュニケーションうまく取れないのに、英語とか、ちゃんとやっていけそうにない。読み書きはできるけど、会話はちょっと」

 まあそれも、わからんではないが。


 それで結局、何が問題だっけ。

「じゃあカズハは、いや沖浦さんは、今一人暮らしなんだな」

 俺がそう言うと、彼女はコクリとうなずく。

「つまりそれで、生活の管理をしてくれる人がいない、と」

「……仕送りは、ちゃんともらってるよ」

「いやお金の問題じゃないだろう」

 とはいえ、俺が干渉するものでもないのだろうが。


 アルバイトなら世話人みたいな社員さんがいるはず。俺もアルバイト始めたばかりの頃に2人ほど会ったが、女性恐怖症の俺に大人の女性の相手などできるはずもなく。

 失礼な対応もあっただろう。よく不採用にならなかったものだ。

 そして、俺の教育係的なものは、アルバイトとしては先輩にあたるカズハが担当している。

 あの時は深く考えることもなかったが、よく考えたらおかしいこともあった。

 ただ、この会社は日本が誇る大企業。単なるβテスターではなくデバッグの仕事としてバイト料も出ている。あまりおかしな詮索をすることもないと思ってきたのだが。


 それより今は、カズハの方だ。

「一人暮らしについて、ご両親はちゃんと状況を理解してるのか?」

「……アメリカに行く前に色々心配されたけど、大丈夫、って伝えた」

「伝えただけで実行できていないんじゃないか」

「……はうっ」

 俺がそう言うと、カズハはまた目をそらす。


「学校ではちゃんとできてるみたいだけど、家の方はどうなんだ」

「……今、このゲームの発売準備で忙しくて寝る時間が少ない」

「そんなに忙しいのか? アルバイトだろう」

「……アルバイトにも色々あるの」

 いや、そうかもしれないけど。


「それより問題は食事の方だ」

「……ちゃんと、食べてる、よ?」

「何を?」

 ゲーム内の言動から考えて、現実でも野菜嫌いの可能性がある。食生活かたよっているんじゃないか。


「……コンビニのお弁当、とか」

「待て。普段ずっとそれなのか?」

「……たまに、社員さんにおごってもらう、こともある。あ、女のひと、だよ」

「いつもそういうわけにもいかないだろ」

 自炊とかもしてなさそうだ。それに関しては、ある噂がある。


「で、具体的にどんなものを食べてるんだ」

「……ハンバーグとか、カレーとか、唐揚げとか」

「お子ちゃまか! ちゃんとバランス考えて野菜なんかも食べろよ」

「……えー」

 だめだこいつ。ほっといたらそのうち体壊す。


 どうしようかな、これ。

 デバッグの報告にかこつけて、カズハの状況も知らせることはできるかもしれないが。

 会社から何か……アルバイトにそこまで便宜を図る理由はないな。社員の娘とはいえ。

 もしかしたら、アルバイトクビになるか、カズハはアメリカに連れて行かれるかもしれない。それでちゃんとした食生活が送れるなら、仕方ないのだろうか。


 俺は頼れる人がいないから、食事は自分で作っているが、さすがにカズハも一緒に、というわけにはいくまい。


 それはまた後で考えよう。

 今すべきは、カズハを休ませること。


「ログアウトして寝てていいよ」

「……そうはいかない。テストプレイも仕事のうちだから」

「じゃあゲーム内で寝る?」

「……一緒に、寝る?」

「ふたり揃って寝るのはさすがにまずいだろ」

 カズハをおとなしく寝させる方法は……。


 ガイドフォンを手に取ると、アイテムボックスからつたを取り出す。

 海へ行く途中に、何かの素材になりそうだからと取っておいたものだ。


「……ゲン?」

「ちょっと待ってろ。今からいいものを作る」


 蔦を編み上げ、細長い袋のようなものを作る。

 広場の周囲、森の木陰で良さそうな場所を探し、2本の木に両端をくくり付け、しっかりと固定する。


――[ハンモック]を作った!――


「……わ、ハンモック、すごっ」

「さて、アイテムの性能テストとして、今からカズハにここで寝てもらう」 

「……い、一緒に、寝ない?」

「ハンモックは普通、ひとりで寝るもんだぞ」

「……昔のゲームだと、4人パーティーがひとつのベッドで寝ることもあった、よ」

「最新のゲームをしよう」

「……じゃ、お姫様抱っこで乗せて」

「しょうがないなあ」

 カズハを抱き上げる。大丈夫かな。あとで変なとこ触ったとか言われないよな。


「……ふおおおおおお!」

「バグみたいな挙動をするな! 落とすかもしれないだろ」

「……も、もう少しだけ、このままで、いていい?」

「まあ、現実世界では俺の体力的に出来なさそうだからな」

「……えー」

 現実でもやらせる気だったのか?


「……でも、おかしい、ね」

「ん?」

「……もしかしたら、私はアメリカで、ゲンは男子校。出会ってすら、なかったかも、しれない……の……に、いま、こんなふうに……げーむで……おひめ……」

「カズハ?」

「……すー……」

 1分と持たずに寝たー!

 お子ちゃまっていうか、赤ちゃまじゃないか。

 それだけ疲れが溜まってるのかな、やっぱり。 


 あっさりと眠ってしまったカズハをハンモックに乗せる。

 靴とかは脱がせたほうがいいような気もするが、ゲームだからいいか。


「おやすみ」

 さて、この人にはゆっくり休んでもらって、俺は作業を進めよう。

 負担がこっちに来るだけの気もするが 。ふたり分、レポート書くか、とりあえず。


――ユニークミッション【48の夏イベント:お姫様抱っこ】をクリアした!――


「っ!」

 危ない。思わず声に出してつっこむところだった。


 いやこれ夏関係ないだろ!

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