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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第四章 スローライフ

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第58話 運搬クエスト

 切り株に並んで座った状態で、カズハは俺にもたれかかったまま寝息を立てている。


 こういうシチュエーションは未経験なので、どう扱ったらいいかよく知らない。

 でも、部屋の中ならともかく、この森のなかで、疲れてるのなら寝かせておこう、というわけにもいかないだろう。

 起きるまでどれくらいかかるかわからないしな。

 数時間寝られると、さすがにモンスターに襲われる確率が上がる。


 それに、俺が離れるとカズハも倒れてしまう。

 布団や寝袋もないし、地面に寝かせるわけにもいくまい。


 森の奥から小さな物音が聞こえた気がした。

 耳を澄ませば、それは足音のように聞こえる。人間よりは小さそうだが、複数いるようだ。

 一旦本拠地に戻るしかないか。

 さて、どうやって運ぼう。


 まず、プレイヤーはアイテムボックスなどにしまえない。意識の有無にかかわらず。

 乗り物は持っていない。

 というわけで、おんぶか、もしくは抱っこ……いわゆるお姫様抱っことかいうやつだ。

 もちろんゲーム内でも現実世界でもやったことはない。


 起きるなよ……。

 右腕をカズハの脇の下から背中に回し、左腕は両足を揃えさせて左腕を膝の後ろに回す。

 ええと、お姫様抱っこってこれでいいんだよな。

 まあ、いいか。起きる前に本拠地に戻れば。

 幸い、木を切りながら進んだせいで、本拠地からはまだそんなに離れてはいない。


 そのままゆっくりと持ち上げる。思ったより軽い。

 というか、ゲーム内のアバターは本物よりも体力があるはず。今の職業は戦士なので、その補正もあるのだろう。

 現実世界だと持ち上げられないんじゃないかなあ。


 そのまま本拠着へと引き返す。

 狩りゲーでよくあったな、この手の運搬クエスト。女友達を運ぶのはさすがに記憶にないが。

 苦手だったんだよな、あれ。雑魚にも反撃できないから、すぐに卵を落として……。

 厄介なことに、クリアしないとストーリーが進まなかったりするから、ずっと苦労してた。

 他のゲームの話はいいや。カズハに集中しよう。


 できるだけ揺らさないように、ゆっくりと歩く。

 足元が見えないのは思ったより怖い。走れないな、これ。


「……んー」

 カズハが小さなうめき声を発し、反射的に足が止まる。

 大丈夫だまだ起きてない。


「……ゲン……」

 寝言で人を呼ぶな。思わず返事しそうになったじゃないか。

 まだ寝てるよな、これ。狸寝入りとかしてないよな。

 それはないか。意識があったらお姫様抱っこの時点で大騒ぎしてる。


 少し早足でもいいんじゃないか。そう思い始めた頃、背後から追ってくる足跡が聞こえた。

 敵だろうか。しかしこのままでは両手が使えない。とはいえカズハを地面に下ろすのもまずいだろう。


 振り向けば、林道をこちらにやってくる5匹のネズミの姿があった。


【サーベルラット】 動物 Lv.3

 またこいつらか。

 以前も戦った、長い牙を持つネズミ。通常フィールドにたくさんいる、いわゆる序盤雑魚のようなモンスターだろう。

 あのムカデはいないようなので、なんとかなりそうだ。


 駆け寄ってくるネズミを、タイミングを計って右足で蹴り飛ばす。

『ブギュ』

 足にはデフォルトの靴。伐採作業があったので鎧は着ていない。


――8ポイントのダメージ!――

 ネズミのHPバーは半分弱消えた。


 足に武器も金属鎧も付けていないので、さすがに攻撃力は低い。

 あと、少なくとも2撃入れないといけないのだが、警戒したのか近づいてこなくなった。


 目の前のネズミの出方をうかがっている間、他の4匹が追い付いてきた。

 そいつらは俺の横を迂回し、俺たちを取り囲む。 

 このネズミ、やっぱり知能高いんじゃ……。


 お姫様抱っこの体勢からカズハを持ち上げ、うつぶせになった彼女を肩に担ぐ形になった。

 これもネット動画で見ただけで、実際やるのは初めてだが。

 これで足元が見える。

 後ろから攻撃される前に、さっきHPを減らした個体に向け走る。


 もう一度、蹴る!


――6ポイントのダメージ!――

 やっぱり倒しきれない。

 お姫様抱っこから切り替えたとはいえ、やっぱり両手は使えない。

 蹴り用のスキルなんて持っていないので、地道にダメージを蓄積するしかない。


 攻撃の隙を狙うように、背後からネズミが迫る音がした。

 振り向いてそれを確認するより先に、横に跳んで回避する。

 すれ違いざまに蹴ってやろうかと思ったが、空振りに終わる。命中率も低い。


 近くにある大きめの木を選び、それを背にした。

 ひとまず360度囲まれないように。

 背後こそ取られなかったものの、半円状に展開したネズミたちがじりじりと迫る。


 回避に専念して本拠地に走るか、カウンター狙いで少しずつ削るか。それを決めかねていた時、小さな声が聞こえた。

「……ん……」

 あ、しまった!

「……あれ? わたし、寝て……た……?」

 カズハが起きた!


「……えっ、何でゲンがそんなところに?」

「今戦闘中だからちょっとじっとしてて」

 寝起きで頭が回っていないようだ。


「……な、何でこんな荷物みたいに!?」

「これはファイアーマンズキャリーって言って、自衛隊とかも使う救助法だぞ」

「……こういうプロレス技なかった?」

「このまま後ろに倒れ込まなければ大丈夫!」

「……お、お姫様抱っこ! お姫様抱っこを所望します!」

 まだ覚醒してないのかもしれないが……や、やっぱりそうなるか。


「足元見えないから危ないだろ、あれ」

「……えっ待って。何でそんなこと知ってるの? 誰を抱いたの!?」

「いや言い方! そっちはあとでログを確認しろ!」

「……え、え、もしかして」

「戦闘中はじっとしててくれ!」

 俺はカズハを担いだまま、って待てよ。


「そうだ。起きたんならもう担ぐ必要ないな」

「……えーっ!?」

 しぶしぶといった感じでカズハは俺の上から下り、俺たちはそれぞれの得物、エノキの石槍とウォーハンマーを抜く。


 こうなると流石に、低レベルモンスターは敵ではない。

 ネズミ3匹を倒すと、後の2匹は逃げ出した。

 一時はどうなることかと思ったが、なんとか戦闘終了だ。

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