第57話 スローライフ
イノシシの肉を食べた後、俺たちは森の本拠地である[エノキの広場]に戻ってきた。
道中で雑魚モンスターを倒し、1つずつキャラクターレベルが上がっている。今、俺はレベル8、カズハは7だ。
「さて、何をするかだけど」
広場に入ったところで、カズハと顔を見合わせる。
「「正門作ろう」」
拠点施設の解放素材[正門]
・石材 ×10
・材木 ×10
石材、材木は種類を選ばない
「……材料はまだ残ってる」
これは俺が別のバイトに行っていた間、カズハが集めてくれていたものだ。
「そういえば、石材ってどこで手に入れたんだ?」
「……川原の大きな岩を割るとドロップすることもある」
――拠点施設【正門】を作成した!――
――ファストトラベルが可能になった!――
これでいつでも海に行ける。
近いうちに釣りにでも行くか。
――拠点レベルが4になった!――
――拠点施設【ログハウス】が設置可能となった!――
――拠点施設【桟橋】が設置可能となった!――
――拠点施設【水田】が設置可能となった!――
――拠点施設【水路】が設置可能となった!――
――拠点施設【ため池】が設置可能となった!――
また色々増えたな。
――カズハのキャラクターレベルが8になった!――
そういえば、経験値が得られるのは戦闘だけじゃなかった。
これでふたりともキャラクターレベルは8だ。
「ログハウスか。いつまでもテント泊というわけには行かないだろうけど」
拠点施設の解放素材[ログハウス]
・材木 ×300
材木は樹種を選ばない
「何と言うか、さすがに多いな」
「……でも、早いうちに作ろう。ふたりの家」
「また誤解を招きそうなことを」
「……で、次は、桟橋」
「これは海だな。とりあえず後回しにしよう」
「……それから、水田だけど」
拠点施設の解放素材[水田]
・イネの苗 ×30
「水田だけなら地面耕して作れそうだけど、イネをこちらで用意しないといけないのか」
「……まだ見つかってないよね」
「昆虫採集でもそれらしい結果はでていないが、麦畑はエリア扱いだったからなあ」
「……つまり、水田もどこかにある?」
「拠点施設として出てるからそうでもない気もするが、どこかから米を持ってくる必要はあるかもな」
「……じゃあ、そのうち辺りを探索することにする?」
「うん。で、水路とため池も水田関連施設だろうから後回しでいいな」
「……まず、ログハウスの素材を集めよう……建物だけでなく、テーブルとかイスとかベッドとかも」
「ベッド? ああ、寝室はログアウトのために使うのか」
「……それと、寝る場所」
ん……?
「寝るって、ゲーム内で睡眠をとるってことか?」
「……もちろん…………あ」
またカズハは赤面する。まずいな。別の意味に気付いたようだ。
「……そっちの『寝る』は、このゲームでは無理」
「いやそっちは考えなくていい」
前にも言っていたが、別の法律の管轄になる。
「……ゲーム内ではできないけど、現実……」
「ゲームの睡眠の話をしよう」
カズハはちょっとがっかりしたようなような表情で続ける。
「……現実世界で眠るのと同じように、ログアウトせずにゲーム内で眠れる。安全対策はいるけど」
「それは、何か意味があるのか?」
「……キャラクターのHPとMPが回復するのはログアウト中と同じだけど、プレイヤーの心の休憩にもなる。ゲーム内だからって、徹夜はつらい」
「それもそうだな」
さて、具体的に何をするかというと。
俺たちの拠点である[クスノキの広場]は、広大な森のなかにぽっかりと開けた空間だ。
そこから、少し広めの林道というか獣道のようなものが3つ伸びている。
ガイドフォンから、地図アプリを開く。
現実世界のマップのような使い方ももちろん可能だが、アプリアイコンを画面からはじき出すようにフリックすると、筒状に巻かれた1枚の地図が出現する。
広げると、A3ほどのサイズがある。羊皮紙のような質感、といっても実物は見たことないが、とにかくファンタジー映画などに出てくるような本格的な古地図だ。
ただしこの地図、自分の行ったところしか表示されない。それ以外は、雲のような模様で隠されている。
これは自分が移動すればリアルタイムで更新されて雲も消えるし、パーティーメンバーと情報共有も可能だ。紙に描かれているように見えて拡大縮小もできる。
この[クスノキの広場]から南東へ伸びる道は、未解放の[クヌギの広場]を経て川へ続いている。そこらからさらに[いにしえの麦畑]、もうひとつの拠点である[紺碧の海岸]にも行ける。
西に向かう道は、[西の竹林]までしか進んでいない。
そしてもう1本、まだ通っていない道が北へ伸びている。
「まずは、この北の道の先に何があるか、見に行こう。ついでに、木を切って材木を入手しつつ、道を広げる」
「……ん」
◆
2人で斧を振るい、材木を手に入れながら進む。
「……そうそう、木は切っても数年でもとに戻る。道を広げたければ、整地が必要」
「数年……か」
今はβテスト中だが、この環境が本番でも維持されるとしても。
正式発売後、森がもとに戻る頃には、もう俺はいないだろうな。
「今はやる事が多そうだから、道はひとまず後回しにしよう」
「……ん。わかった」
「しかし、結構疲れるな、これ。本当に木を切ってたら、この程度ではすまないだろうな」
体が重い。
HPやMPには影響はないが、疲労というステータス異常があり、各種能力が下がる。
「……ちょっと、休憩、しよ」
「木を切るのをやめて普通に歩こうかと思ったけど、また戦闘ありそうだなあ」
さっき切ったばかりの切り株に腰を下ろす。
同じ切り株にカズハも並んで座る。
他にも切り株はあるんだから、そっちに座ればいいのに。
昔から女子の扱いは知らなかったが、近すぎるからあっちに行けというのは初めてだ。
いやあっちに行けはひどいな。
こういう場面でどんな言い方をすればいいのか、俺が悩んでいるうちに、腕と腕が触れる至近距離からカズハが話しかけてきた。
「……戦闘は控えめにしてスローライフって思ってたけど、やることが多いね」
「そもそも現実世界のスローライフもよく知らないんだが、こっちはふたりでほとんどやらないといけないからなあ」
「……でも、スローライフのゲームがあってもいいと思う」
「スローライフを謳うゲームは確かにあるけど、実際は農作業とか開拓に追われるゲームだろう」
「……そういうのが好きな人も多いよ」
「確かになあ。他のゲームはともかく、このゲームはまだβテスト中だから、ぼーっとプレイしているわけには行かないだろうな」
「……命を投げると書いて、throw life」
また人聞きの悪いことを。
「そんなブラック企業みたいなスローライフがあるか」
内容はともかく、普通に話せる。
そう思った時。
カズハのいる方から、左肩に何かがのしかかるような感触があった。
えっ!?
まるで彼氏に甘えるように、カズハが俺の肩にもたれかかっている。
「えっ、あの、ちょっ、これ、あの、なに」
「……くー」
どう反応していいかわからず混乱する俺の耳に届いたのは、かすかな寝息。
え? 寝た?
ゲーム内でも眠れるのはさっき聞いたばかりだけど。
もしかして、木を切ったのとは別に、仕事か何かで疲れているのだろうか。




