第37話 彼女が水着に着替えたが
「……お……お待たせ……?」
そこには、淡いブルーのビキニだけを身に着けたカズハが、頬を染めながら立っていた。
「っ!?」
テレビとかマンガでは見たが、実物を間近でみる経験は当然これまでなかった。
女性恐怖症とか言っている俺が言うのもなんだが、目のやり場に困る。
「……どう……かな? これ」
「露出度が高すぎる」
「……ふえっ!?」
「その格好で敵に襲われたらどうする気なんだ。防御力ほとんどないだろ、それ」
「……まあこれは防具というよりビジュアル用装備だから、防御力は低い」
「ビジュアル用?」
ビキニ姿のまま、じりじり近づいて来るカズハから目をそらせながら聞く。
高校生というより男子中学生みたいだが、慣れていないんだから仕方ない。
「……その説明はのちのちするとして……」
さらにカズハは、恥ずかしそうにしながらも言い募る。
「……あの、ね……盛ってないよ、これ」
「持ってないって、何を?」
「……もし……現実の方で一緒に海に行くときに、ガッカリされたりしたら、困る」
! 盛ってないって、そういう……。
スポーツは苦手で、普段運動もしていないはずなんだが、結構スタイルはいいんだよな、この人。
あんまり女子とは関わり合いになりたくなかったんだが、それぐらいのことはわかる。
ふだん女性恐怖症とか言っておきながら、そういうことはわかるのが我ながらひどい話だと思うが。
「いや、友達と海に来て、スタイルが気に入らないから幻滅って、いくらなんでもひど過ぎるだろ」
「……実際結構いるらしいよ。ネット情報だけど」
ネット情報かよ。っていうか、現実でこの人と海に行って水着を見たり見られたりする機会が今後あったりするのだろうか。
「……それより、ゲンの方も水着に着替えて」
「俺も?」
「……わ、わたしだけ水着ってのはずるいと思う」
いや、ずるいとか言われても、カズハが勝手に水着着ただけじゃないか。
「戦闘もあるんなら水着じゃない方がいいのでは?」
「……一応、装備のテストも兼ねてる」
テストなら……仕方ないか。
「ちょっと待て。俺、水着なんか持ってないぞ」
「……海に来たのに?」
「水着きて泳ぐだけが海じゃないだろ」
「……仕方ない。私のを貸す」
そう言ってカズハが差し出したのは、ピンクのビキニの上下。
「さすがにそれはおかしいだろ」
「……勇者のパーティーが新しい水着を」
「それは前にも聞いた」
「……これはまだわたし使ってないから」
やっぱり性別により変化するのか、これも。
ガイドフォンを操作して装備すると、それは紺の水泳パンツへと姿を変えた。ピンクじゃなくてよかった。
とはいえ、男性水着って上半身裸だからな。やっぱり結構恥ずかし――。
「……エロい」
「おおい!?」
ガイドフォンを取り出し、もとの鎧に戻そうとして、カズハに止められる。
「……待って。ちょっと口が滑……噛んだだけだから。エモいって言おうとしただけだから」
「いや普段そんな言葉使わないだろ!?」
「……こっちもこういうの慣れてないだけ。同い年の男子の水着姿とか、近くでまじまじ眺める機会なんて未だかつてなかった」
「まじまじ見んな! 言っとくけどあれ、男女逆ならセクハラだからな!」
「……男女逆じゃなくてもセクハラだと思う」
「よけい悪いわ!」
「……あの、ね……下着に見られてもいいのといけないのがあるみたいに、水着にも見ていいのといけないのがあるんだよ」
見ていい下着ってなんだ。いやそれより、見たらいけない水着ってなんだ。
「見られたらいけないのは、来年の夏休み、私が成人になったら見せてあげられる……よ」
「来年の夏は俺まだ未成年なんだが」
「……あ」
「それに、来年は受験勉強でそれどころじゃないだろ」
「……うぅ……」
来年一年我慢すれば、その先は……。
やっぱり大学は別々になるよな。
このゲームも今年中には商品版が出るだろう。もしかしたらカズハは、すでに就職しているかもしれない。
そうなったら、もうこの人と会う機会もないんだろうな、きっと。
「……とにかく、今もゲンならば、この水着を穴が空くほど見てもいい、よ」
「ただでさえ少ない布面積が……」
さすがに俺は頭を抱える。
「とにかく、あんまり露出度の高い格好で視界内をウロウロされると戦闘に差し支えるから、ちゃんと戦闘向きの装備にしてくれないか?」
今は俺が魔道士でカズハが戦士だから、彼女が前衛で俺が後衛になる。カニとの戦いなんかはそうじゃなかったけど。
そうなると水着でケーキ入刀か、ビキニの後ろ姿から目をそらしながら戦闘の二択……いやいや他の選択肢探そう。
「……じゃあ、間を取って、ビキニアーマー」
「ほんとに間取ってるそれ? なんか明後日の方向に行ってない?」
「……ビキニアーマー、嫌い?」
「好き嫌いよりも、カズハのキャラがどちらかというと戦士系より魔法使い系だから、鎧とかはあんまり似合わない気がする」
「……キャラゆーな」
「何だっけ、ライフガード? そういうものはないの?」
「……ラッシュガードはまだ実装されてない。Tシャツならば、運営からの記念品にあったはず。今そっちに送る」
アイテムボックスを調べると、確かにこのゲーム、グレイト・ライフ・オンラインのロゴが入った白いTシャツが入っていた。
「これを、上半身に装備すればいいのか」
「……このゲームには、ラッピング装備というものがある」
「ラッピング?」
「……装備品の上から重ねて装備して、その外見だけを変更する」
「狩りゲーなんかで時々あるやつだな」
このゲームもそうだが、装備ごとにスキルが付いているものがある。でも、スキル構成を考えて装備を組み合わせたら、時々見た目がおかしなことになる。
そんな時、スキルはそのままで外見だけを別の装備に変えることができるシステムだ。外見の装備の方は、防御力やスキルは反映されない。
「……じゃあ、ガイドフォンの装備のアイコンから……」
カズハの説明を聞いて、水着の上からラッピングとしてTシャツを装備する。
彼女も同じように 、ビキニの上からラッピング装備を羽織った。俺と同じ、ゲームのロゴ入りの白いTシャツを。
そしてカズハは、俺の体を上から下まで眺め、そして自分の体を見下ろし、と視線を何度も往復させる。
「お、おい……あんまり見られるとやりにくいんだが」
「……こ、これは、装備のチェックをしてるだけだから」
チェックなら仕方ない……のかなあ。
「……ん。これはこれで、悪くない」
そして『チェック』を終えたカズハは満足そうにうなずく。
何が悪くないのだろう。カズハもシャツを羽織ったとはいえ、目のやり場に困るのはあまり変わらない。で、自分の服に目を落としてようやく気づいた。
ああ……ペアルックだこれ。
「……で、これから何する?」
詳しいことはよくわからんが、とにかくやりたいことはやったらしく、カズハがそう聞いてきた。
「塩作り」
「……水泳大会」
「魚釣り」
「……ビーチバレー」
「海産物の採集」
「……ダイビング」
「水中戦関連のスキルの取得」
「……サーフィン……花火……スイカ割り……海の家……水着でバトル」
「いや多いな!」
こちらが考えているうちに、カズハは矢継ぎ早にやりたいことを挙げてきた。
いやそれ、全部やってたら夏が終わらないか?




