第36話 海開き
「左腕の盾以外のところを攻撃できないか?」
カニと対峙しながら、カズハに呼びかける。
「……盾以外?」
「盾は特に防御力高いだろうし、破壊してしまえば行動が変わりそうな気がする」
「……部位破壊すると行動が変わるタイプ?」
「今は盾があるからこちらの攻撃を受けてくれている。動きも鈍そうに見えるし。だけど盾がなくなったら素早く動き出すかもしれない。あくまで予想だけど」
「……わかった」
こちらが作戦会議をしているうちに、カニはまた薙ぎ払いの構えをとる。
「一旦離れるぞ」
「……ん」
そのすきに、俺たちはカニから距離を取る。
動きながら攻撃はできないようで、わずかにこちらに近づいてくるが、攻撃は俺たちに届かず空を切る。
「……よし、アタックスキル【ドロップインパクト】」
カニを飛び越えるように、カズハはジャンプする。
なんか違和感あるなあ、この人間離れした動き。
カニも盾となった左腕を上げるが、背中まではカバーしきれないようだ。
カズハは落下しながら、カニの背甲にハンマーを叩き付ける。
52ポイントのダメージ!
そして俺も、上げられた盾の下から、カニの腹部を狙って攻撃魔法を放つ。
「銀の矢よ、貫け。【シルバリィボルト】!」
カニの腹は、同じ甲殻類のエビのように後方に伸びず、腹側に折り畳まれている。甲殻も薄いので、明らかに弱点だ。
13ポイントのダメージ!
思ったよりダメージ小さい。
今のふたりの攻撃で、敵の残りHPは約3分の2。
それよりも、カズハの攻撃のせいと、ダメージの蓄積のせいで、カニは8本の脚で体を支えきれず、砂の上に崩れ落ちている。
今が攻撃のチャンスだ。
「……ゲン。連携攻撃やるよ」
「わ、わかった」
その話は移動中に聞いてたが、あれやるのか、やっぱり。
五行説には土剋水という言葉がある。土が水を汚したり、堰き止めたりするように、土行は水行の弱点となる。
カニは水行。モンスターの名称表示の裏に、うっすらと水滴をかたどったようなアイコンが見える。
「……砂よ、咲き誇れ。【砂漠の薔薇】」
砂漠で発見されるという、花の形をした結晶を模したハンマー。カニの弱点である、土行のハンマーだ。
カズハが前のキャラの時に作ったが、セカンドキャラではレベルが低いため使えない。以前使ってた打出の巨槌とかもそうだが。
前のキャラから譲渡された形でアイテムボックスに入れられており、出し入れは可能だが、今は持ち上げることすらできない。《《ひとりならば》》。
カニを迂回するように走り、カズハに並ぶ。
そして、カズハの持つハンマーの柄に手を掛ける。
「「連携スキル【二人持ち】」」
【ツーハンドウェポン】という戦士系のスキルがある。
いわゆる『両手持ち』で、片手武器の威力を倍増することができる。
ハンマーはもともと両手武器なので、元の攻撃力が高めに設定されているが。
そして、ふたりならば、さらに倍。
武器の使用可能レベルも、ふたり分を加算して適用できる。
誰だよこんなスキル考えたの。
カズハひとりでは持ち上がらなかったハンマーを、ゆっくりと持ち上げる。
「……け、け、けけけ」
「何だよいきなり!?」
「……け、ケーキ入刀って、こんな感じなのかな」
「こんな物騒なケーキ入刀があるか! 魔界でもかなり辺境の風習だろこれ!?」
そしてハンマーは振り下ろされる。
スキルは使用していないが、それでもカニの残りHPを一気に削り取る。
――ナイトクラブ(仮称)を倒した!――
――[紺碧の浜辺]が開放された!――
こ、コートダジュール?
――騎兵蟹の甲羅を手に入れた!――
――騎兵蟹の脚を2つ手に入れた!――
――騎兵蟹のハサミを手に入れた!――
そういえば、この前戦闘後にハイタッチをしようとしてやめたんだった。
そんなことを思い出しつつカズハの方を見れば、俺の手首を掴んで走り出そうとする。
そういえばさっきもやったなこれ。
そしてカズハは、砂に足を取られてバランスを崩す。
俺は空いた手で、彼女の肩を押さえようにして支える。
「お、おい、そんなに慌てなくても、まだ時間に余裕はあるから」
「……あ、うん、ありがと。それじゃ、わたしも準備があるので、また後で」
顔を赤らめたまま、カズハの姿が瞬間移動のようにふっと消えた。
またスタッフルームに飛んだようだ。
準備って、なんの?
手持ち無沙汰となった俺は、ひとり波打ち際に近づく。
足装備のブーツを外すとデフォルト装備のスニーカーが現れる。
装備なしの場合、胴はシャツ、腰はズボンかスカートになるのに対し、頭と腕は完全に装備なしとなる。そして足は外見上は普通、靴と靴下となるが、それとは別に裸足になることもできる。
もう一段階足装備を解除し、俺は裸足で波打ち際に踏み入れた。
真夏とはいえ、足にかかる波は冷たい。
足を濡らした波は、すぐに引いていく。砂が流される感触を足の裏に残しながら。
これまでもそうだったけど、VRとは思えない現実のような感覚だ。
ふと思いつき、海水を両手ですくって口に運ぶ。
「ああ、海の味がする」
「……もう、ひとりで何やってるの」
不意に、背後から呆れたようなカズハの声が聞こえた。
「いや、これもテストプレイのうちだから」
カズハのいつものセリフを真似つつ振り向いて、そこで俺は硬直する。
まさかとは思ったが、やっぱりビキニか!




