第34話 海に行こう
トウモロコシは皮を剥いて水洗いし、焼いて塩を振る。
醤油とバターが欲しいな。
――[焼きトウモロコシ(塩)]を4個作った!――
キュウリはアクを抜き、塩をすり込む。
味噌とか欲しいな。
――[塩キュウリ]を4個作った!――
「調味料も欲しいが、塩も残り少ない」
最初の支給品の中に塩が入っていたのだが、普通に料理してたらあと二、三日でなくなりそうだ。
「……おいしいけど、お肉も食べたい」
「狩りも考えるが、魚でもいいか?」
「……お刺身?」
「川魚の刺身は難しいからなあ。塩と魚を手に入れるためには……」
「……じゃ、海に行く?」
カズハの提案に、無言でうなずく俺。
「その前に、なんか武具店ができたとかメッセージがあったと思ったが」
「……ん。今用意する」
俺も海で釣りとかしたかったが、なかなか進まないな。
目前に、先日と同じような販売用のウインドウが開いた。違うのは、その品揃え。
「拠点に店舗とかができるわけじゃないんだな」
「……NPCのお姉さんの店の方がよかった?」
「い、いや、そういう意味では……カズハの店で、いやカズハの店がいい」
「……ん」
初級装備ばかりだが、ゼロから作らなくていいのはありがたい。
それでも先立つものは必要なので、食料とかの当面必要そうなものを除いて売ることにする。
採集した虫を売ると言ったら、さすがに嫌そうだったが、直接触れるわけじゃないし、仕方ないよな……?
右手:[トネリコの杖]
左手:同上
頭:[新米魔道士の帽子]
腕:[木綿の手袋]
胴:[木綿のローブ]
腰:同上
足:[皮のブーツ]
ひとまず、駆け出しの魔法使い的な装備は整った。
右手:[トネリコの杖]
左手:同上
頭:[新米魔道士の帽子]
腕:[木綿の手袋]
胴:[木綿のローブ]
腰:同上
足:[皮のブーツ]
ひとまず、駆け出しの魔法使い的な装備は整った。
[トネリコの杖] ★★
種別:武器・魔道具/杖
攻撃力:5 重量値:3 耐久値:30/30
MP追加(+30)
解説:トネリコの木の枝と魔石から作られた杖。花言葉は『威厳』『偉大』など。その言葉にふさわしい者になれとの思いを込めて、新人魔導士に贈られる。
「フレーバーテキストはともかく、MP追加はありがたいな」
「……杖はだいたいMP追加が付いてる。パソコンに外付けするメモリみたいなもの」
他のものも、店売りの初期防具なのでたいした効果はない。防御力と魔力とMPが少し増える程度だ。
「杖って棒と魔石で作れるんじゃないか」
魔石はこれまでの戦闘で、ドロップアイテムとしていくつか入手済みだ。
「……棒ならばリアルのスキルがあれば作れそうだけど、ゲンは魔法の杖作ったことある?」
「俺を何だと思ってるんだ」
「……思ったより何でもできる人」
「魔法の杖は知らん」
「……だから魔法職人とか錬金術士とかの領域になる」
「その辺は、またゆっくり考えよう」
転職計画とか、すぐに決めることでもないだろう。
「……でも、これでやっと冒険者らしくなったね」
「そうだな。田舎から都会に出て、はじめてギルドに登録した感じだが」
戦士のカズハは、軽装の金属鎧をまとっている。
調べていないが、それもどことなく駆け出しっぽい。
「……さあ行くぞー。わたしたちの冒険は、はじまったばかりだー」
「いやそれ打ち切り漫画の最後のセリフ!」
◆
さて、海に行く、とは言ったものの、乗り物もないのでいきなり海にはいけない。
拠点であるクスノキの広場から、海まで歩いていく必要がある。
「……で、どうやっていくつもり?」
「地図は行ったところしか表示されないし、どっちが海かもよくわからんが、川沿いを下って行くか」
「……大丈夫? ヘタに川を下ると危ないって聞いたことあるけど」
「それは山で遭難しかけた時の話だ。そういう場合、川の両側は谷間の急斜面のことが多いからな。そんなところを下っていったら、滝に遭遇して動けなくなる可能性が高い」
「……この前行った川だったら?」
「あれはまわりが平原だし、万一滝にあっても迂回できるだろ。環境的に中流っぽいが、そう遠くないうちに海に出そう」
というわけで今は、森の中の道を抜け、川に向かって歩いている。
「何か、暑くなってきたか?」
「……何か、夏本番、って感じ」
「それだけじゃないな。森の外に出たから、遮るものがないんだ」
「……このゲーム、状態異常として熱中症もあるから、気をつけないと」
「熱中症って、具体的にはどうなるんだ」
「……各種ステータスの減少と、MPの使用制限。その結果、一部のスキルが使えなくなることも」
「対策は?」
「……水分と塩分の補給、体を冷やすこと、など」
「現実世界と変わらんな。川に入ってみるか」
「………………えい」
「うおっ!? いや水かけるなら一言言ってからにしてくれ」
「……ね、熱中症対策だから」
「ね、熱中症対策だなら仕方ない、って何か水行のスキルとか使ってない!?」
「……え、いやそんなことは……」
――アクションスキル【水掛け】が習得可能となった!――
「いや何に使うのこのスキル!?」
「……あははは」
またテンション高いなこの人。
「おい、そんなにはしゃぐと危ないぞ」
川の中って足場悪くて滑りやすいんだから、と言う前に。
「んにゃあ!?」
ほら滑った。
手を伸ばし、二の腕のあたりを掴んで支えようとする。しかし、こちらも咄嗟のことなので足元がおぼつかない。
結局お互いに支え合うような形になって……いや待て妙な雰囲気に……。
――ユニークミッション【48の夏イベント:水遊び】をクリアした!――
突然視界の端にメッセージが出て、慌てて離れる。
「何か変なのが出た!」
「……変なのゆーな。これについては追々説明するから」
◆
さらに、川沿いを下る。
時々、一般モンスターを倒しながら。
【ブラウンディア】 動物 Lv.5
「……お肉……」
――[シカの毛皮]を1個手に入れた!――
「……お肉……」
「深く考えるな。次行こう次」
◇
【レッドボア】 動物 Lv.6
ここでいうボアとは、ヘビではなくイノシシのことだ。
――[イノシシの毛皮]を1個手に入れた!――
「……お肉……」
「物欲センサーってやつじゃないかこれ?」
◆
戦闘とか採集とか、熱中症対策とかを交えながら、さらに下る。
川は少しづつ広さを増し、流れは緩やかになってゆく。中流から、下流に近づいた証だ。
懸念していた滝などに遭遇することもなく、出発から約三十分。
砂の山に登れば、視界に青い海と白い砂浜がいっぱいに広がった。
「……海じゃあ……あ」
急に変な言葉づかいになったと思ったら、噛んだだけか。
「……行こ」
手首をつかまれ、誘われる。
まあ、向こうからの接触も、これぐらいなら……。
そう思った直後、砂浜の一部に不審な盛り上がりを見つけた。さらさらと砂が崩れる。その下では、何かが蠢いているようで――。
「待った!」
彼女の手首を握り返し、引き戻そうとする。
今は戦士の彼女の方が力は強く、うまく引き戻せなかったが。
俺たちの目前で、まるで間欠泉のように砂が吹き上がった。
声を出した成果があったか、ふたりはそれに巻き込まれることもなく。
「……ふぇっ!?」
「またフィールドの解放クエストみたいだな」
降り注ぐ砂から顔をかばう。カズハは……大丈夫そうだな。
「……えー」
海のことで頭がいっぱいになっていたらしきカズハが、不満の声を上げた。
砂の中から現れたのは、オレンジ色の甲殻におおわれた大型犬サイズの何か。声こそ発しないが、こちらを威嚇するかのように両腕を振り上げる。
カニだな、これは。




