第33話 はじめての魔法
ガイドフォンから履歴書アプリを開き、転職先を探す。
「職業としては魔道士なのか。魔術士とか魔法使いじゃなくて」
「……まぢちしときゃにゃんぢゃきてでぃにゃちみにゃいにゃ」
「わかった理解した」
っていうかマヂ致死?
「……ごほん。ほんとにわかってる?」
「魔術士は滑舌悪い人には発音しづらいし、手品師見たいな印象を受ける人もいるかも知れないしな」
「……理解ってもらえた!」
そんなに喜ぶようなこと?
まあいいや。さっさと転職しよう。
――ゲンは初級戦闘職【魔道士】に転職した!――
――アプリ【魔道書・木行】が解放された!――
――解放する魔道書を選んでください 【火行】【土行】【金行】【水行】――
「ふたつ取得できるのか?」
「……本来、最初に魔道士系職業に転職した時に、五行からひとつを選べる。でもこの前、カメレオン戦で木行が開放されたから」
「これは本来の習得分か。五行説を知った時に読んだんだが、五行相剋ってのがあったな。全部覚えてるか自信ないが、確か木行の弱点は金行だったはず」
「……金剋木。金属製の斧や鋸が木を傷つけるように、金行は木行の弱点となる」
「ということは、先に金行を解放するのがよさそうだな。開放するために中ボス戦があるなら、これが一番苦戦しそうな気がする」
――アプリ【魔道書・金行】が解放された!――
――ミッション【はじめての戦闘職】をクリアした!――
――[木綿のローブ]を手に入れた!――
――注:五行魔法【木行】の使用にあたっては、金属性武器・防具の使用は推奨されません――
「なんか金属鎧使えないって出たんだが」
「それも金剋木。金属装備は木行魔法を阻害する」
「魔法使いは金属鎧をつけないイメージがあったけど、そういう……って木行だけ?」
「……うん、木行だけ」
「五行説は面白いと思ったけど、最初からペナルティかあ」
金属鎧が使えないと、防御力が大幅ダウンになりそうだ。
「木綿は……植物由来だから木行なのか」
入手したばかりの木綿のローブを、現在装備中の鉄の装備と入れ替える。頭と手足は装備なしになった。
「これ、上下に分かれないんだな」
「……分かれたらローブじゃなくなるから。その分、ステータスは高い」
ローブというのは裾の長い上下一体の服で、ファンタジーの魔法使いが着ている印象がある。現代だとバスローブかガウンが近いだろうか。和服の浴衣や着流しもイメージとしては似ているかもしれない。
木行で取得したせいだろうか。それは若草色というのだろうか、くすんだ薄い緑色に染められていた。
右手:[タケの槍]
左手:装備なし
頭:装備なし
腕:装備なし
胴:[木綿のローブ]
腰:同上
足:装備なし
「……竹槍が異質。お風呂入ってるあいだに一揆始まってた、みたいな」
「バスローブじゃないんだから。武器は魔道士なら杖系の装備になるのかなぁ」
「……頭や手足がないのも気になる。武具も発注しようかな」
そう言うとカズハは、ガイドフォンに何かを入力する。そんな簡単にできるものなの?
こちらは、新たに使えるようになった魔道書を取り出す。
「あれ? 白紙が多いな。レベルが上がると追加されるのか」
「……ん。あとはレベルアップしてからのお楽しみ」
「カズハの言ってたのはこれか。【グロウプラント】」
それが、植物を成長させる魔法。
「あともうひとつ、これまで戦闘中だったから聞く余裕なかったんだが、武器とか呪文出す前の詠唱とか解号みたいなの、必要?」
「……もちろん」
「……………………」
「……………………」
「いや説明を頼む」
「……あれは、パスワードみたいなもの」
「パスワード?」
「……例えば、こうやって手を上げる」
そう言いつつカズハは、利き腕の左手を上げる。
「……次に、手を上げている自分を想像する」
いったん手を下したカズハは、次にそんな発言をする。手は上がらない。
「……この場合、脳とか神経とか筋肉とか、使う部分が違うので、想像するだけで勝手に手が上がったりしない」
体を動かすことと、体が動くのを想像することか。これがもし魔法だったら?
「……でも、現実世界に存在しない魔法や、普通の人はほとんどやらない武器戦闘なんかはそうもいかなかった。わたしはまだいなかったけど、開発の初期段階ではこの《《切り分け》》作業がうまくいかなくて、呪文名を口にしたり、頭の中で想像しただけで暴発事故が多発してた」
開発段階というと、俺たちが小学校、下手をすれば生まれる前かも。
「……でも、プレイヤーの方に何かすると、脳や精神に悪影響を与えかねない。だから、行動にパスワードを掛けることで、暴発を防ぐことになったの」
「ということは、あの呪文がパスワードなのか」
「……パスワードだから、ランダム生成された文字列でもよかったんだけど、それじゃあプレイヤーが覚えきれない。最終的に、呪文や武器と関連して、日常生活では使わないような文章を使うことになった」
「あの中二病みたいな詠唱、ちゃんと理由があったんだな」
「……中二ゆーな。でも、詠唱分は公式が用意したものから、自分で変更できる」
「自作の呪文!?」
「……ゲーム内で詠唱文コンテストみたいなものがあって、入賞したら公式採用されて、商品にゲーム内アイテムももらえる」
「俺は遠慮しとくよ」
「……じゃあ早速詠唱いってみよう」
えー、やっぱりやらなきゃいけないの?
「……魔道書の当該ページを開き、そこに書かれている詠唱文と呪文名を読み上げる。丸暗記できるなら魔道書はいらない」
カズハはあれ暗記してたのか。魔道書出してた様子はなかったが。
しかし、コスプレして呪文詠唱か……。人に見られながら。
「……………………」
「……声が小さいと認識されないよ」
……ううっ、仕方ないな。
「其は緑の道標なり。育め、新たなる命【グロウプラント】」
畑のトウモロコシとキュウリの芽に向けて、魔法を発動する。
動画の早回しのごとく、葉が伸びて生い茂り、花が咲き、そして実がなる。
――[トウモロコシ]を5つ手に入れた!――
――[トウモロコシの種]を5つ手に入れた!――
――[キュウリ]を5つ手に入れた!――
――[キュウリの種]を5つ手に入れた!――
――ミッション【作物を収穫しよう】を達成した!――
――拠点レベルが2になった!――
――拠点施設【武具店】が解放された――
「ええと、武具店とかできたみたいだけど、とりあえず食事にしない、か?」
カズハの方に目をやれば、ガイドフォンをこちらに向けていた。
「ちょっと待て今写真撮ってた!?」
「……しゃ、写真なんかとってない、よ」
「さては動画撮ってたな!?」
「……べ、別に、SNSとかで公開なんかしないんだから。ひとりで楽しむだけなんだからねっ」
楽しむってなんだ。
「っていうか、ツンデレ似合わないな、カズハは」
「……がーん」
そんなにショック受けることか?
「……ゲンもわたしの写真待ち受けとかに使っていいから」
「いや結構です」
「……がーん」
「おかしなことに使うなよ! それでとにかく食事にしよう」
自分で言っといてなんだが、おかしなことって何だろう。




