第32話 はじめての農業
急に機嫌の良くなったカズハに案内され、拠点である広場の南側に移動する。
そこには、いつの間にか草が刈り取られてむき出しになった、四角い地面があった。
「……まず、農業の仕様から説明するね。植物は、人の手が加わらなければ、成長に時間がかかる。草は1ヶ月から1年、木だと収穫まで数年から十数年かかる」
「まあ事実はそうだけど、ゲームだとそれはまずいんじゃないか」
ゲームの1日は現実世界の9時間だそうだが、それにしても時間がかかりすぎる。
「……だから、いくつか栽培期間を短縮する方法がある。そのひとつが、畑」
「クワが出てきたから、自分で開墾するのかと思った」
「……もちろんそれもできるけど、拠点施設の方が短縮率が高い」
「もしかして、農家とかに転職したほうが短縮できる?」
「……ジョブポイントは貴重だから、あんまり無駄遣いしないほうがいいかも。収穫を早める方法はいくつかあるけど、全部やらなくても十分な効果はある」
「じゃあ、とりあえず種を蒔くか」
「……ん」
カズハにクワを渡し、ふたりで並んで新たにできた畑を耕す。やっぱり近いって。
クワを2、3回入れると、そこを中心に1メートル四方ほどの範囲が、一瞬白く光った。
「……こんなふうに土が光ったら準備完了。ここに種を蒔いたら、野菜の種なら1日で収穫できる」
「さて、何を巻くか。すぐに食べやすいものがいいかな」
俺はキュウリとトウモロコシの種を取り出す。
これも、昆虫採集のボーナスでもらったものだ。
5つずつしかないので、作業はすぐに終わった。
まだスペースがあるので、キャベツとダイコンとトマトの種も蒔く。
「……種を蒔いたら、水をやる」
「湧き水ができてよかったな。なければ川まで往復だった」
さっき作った湧き水を撒く。
まるで動画を早回ししたかのように、蒔いたばかりの種が芽を出し、双葉の段階で一旦成長が止まる。
「……双葉が出たら水やりは完了。1日で収穫できないなら1日1回水やりが必要だけど、これなら明日には収穫できそう」
「まだ道具が足りないけど、そのうち桶でも作ろう」
竹の水筒に湧き水を詰め、畑と往復する。
2人分の食料だからそんなに量はないが、それでも結構時間がかかった。
畑まで水を引いたら水分過多になりそうだし、早めに桶かなにか作った方が良さそうだな。
「よし、これで当面の食料は確保した」
「……ゲンってさあ……草食系男子?」
「いやだから意味わかって言ってる?」
「……わたしは、お肉食べたい」
「肉食系女子?」
「……意味わかって言ってる?」
それはそのうち狩りでもするとして。
さて、まだ時間もあるし、昆虫採集の続きでも……。
「……ま、待って。他にももう少しやってほしいことがある」
俺の行動を読んだか、カズハに引き止められる。
「……木行の魔法に、植物の成長を早めるのがあるの」
「ネット小説の食料系チートの定番」
「……言い方……まあ間違いじゃないけど」
「そういえばこの世界の魔法って、四大元素とかじゃなくて五行説なんだな」
「……ん。でも、五行説も面白いよ」
「確かに、うまく使いこなせたら便利そうだが」
じゃんけんのような三すくみを5つに増やして、相性をちょっと複雑にした感じ。使いこなせたら、なかなか面白そうだ。
「いや待てよ。さっきカズハは戦士のままで魔法使ってなかった?」
ジェイドカメレオン戦で、カズハは戦士のレベルが上がっていた。だからその時の職業は戦士のはず。だが、戦闘中には視覚異常を回復する魔法を使い、確かに効果もあった。詠唱文で洗い流せとか言ってたから、あれは水行だろうか。
「……魔法は魔道士系の職業でなくても1属性だけは習得できるし、使える。わたしが魔法を使ってたのはそのせい。前のキャラは五行全部使えたけど、今は水行だけ。木行も習得可能になったけど、まだ解放してない」
「でも、魔道士の方が色々有利なんだろ?」
「……君のような頭のいいガキは大好物だよ」
「ガキ言うな」
今のは半分照れ隠し。漫画のネタなのは俺でもわかるが、不意にそんなこと言われると、なあ。
「……もちろん、魔道士の方が威力は上がるし、消費MPは少なくなる。魔道士でなければ覚えられない魔法もある。でも一旦覚えてしまえば、転職しても忘れることはない」
「そういえば、習得可能って書いてあった気がするが、魔道士になったら習得できるんじゃないのか?」
「……魔道士で習得可能なのは、五行のうちのひとつだけ。他は高レベルの魔道士に師事するか、学校に通ってミッションを達成するか、特定の中ボスを倒す方法とかがある」
あのジェイドカメレオンはその特定の中ボスだったわけか。
師匠とか学校とかは縁がなさそうだが。
「……ちなみに一般人、いわゆるノンプレイヤーキャラクターのほとんどは1属性しか習得できない」
「それもチート系の小説でよくあるやつじゃないか」
「……『ばかな! 五行のすべてを使えるのか!?』みたいな」
「なんかうまくやらないとNPCと軋轢生みそうだなあ」
それはさておき……。
さすがにずっと料理人と言うわけにもいかないだろうな。
「転職してみるか。魔道士」




