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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第30話 はじめての友達

 現実世界で、この人のことをどう思っているか、って?

 いや、そんな思い詰めた表情で、関係とか聞かれても困るんだが。


「ええと、同級生……はクラスが違うな……同じ部の人?」

 とはいえ俺たちは、もともとは同じ部ですらなかった。 


 昨年、高校一年の一学期も終わりに近くなって、突如学校の都合で部活動の統廃合なんてものが実施された。そして、もともと人数の少なかった俺の所属していた生物部、そして数学、物理、化学、地学の各部が『理数部りすうぶ』なんていう部に統合された。

 そしてその後、無茶な統廃合に嫌気が差したのか、増えたはずの部員たちのほとんどが幽霊部員と化した。

 かくして理数部は俺たち、部長で元数学部の沖浦(おきうら)数葉(かずは)と副部長で元生物部の(しま)幻也(げんや)の、実質二人だけの部活動となったのだ。

 

 だから……この人とは同じ部に所属してはいるものの、同じ趣味を持つ仲間でも、同じ目標を目指す同志でもないのだ。


「……それ……だけ……?」

「俺は……ただ同じ部になっただけの異性を勝手に友達認定する度胸はない」

 何やら不安げな面持ちで問い掛けてくるカズハから目をそらしながら、それでも彼女には届くよう言い訳の言葉を発する。


「……私だって、リアルでもフレンドはnull(ヌル)だったから……」

 横を向いたまま、視線だけを送れば、カズハは何やら不満げな顔をしていた。

「なんでドイツ語……」

 ヌルはドイツ語で(ゼロ)の意味だったはず。

「……いや、確かに元はドイツ語だけど、プログラム用語では何もないって意味」

「女性プレイヤーってそんなに少ないものなのか?」

「……そんなことはないよ。うちの会社のも女性の社員さんはたくさんいる。ただ、うちの学校では見付からなかっただけ……前も言ったけど、話が合う人がいなくて……」

 それはわからんでもないが、俺もそんなに話が合ってただろうか。


「……だけど……」

 それだけ言ってカズハは言葉を切り、顔を伏せてしばし沈黙した後……意を決したような表情をこちらに向ける。


「……じゃあ、ゲームのフレンドだけじゃなくて、現実世界でも、友達ににゃって、なって……」

 ……え?


 左利きの彼女は一瞬左手を差し出しかけて、すぐに引っ込めた。


 そして、決然とした表情で、改めて右手を差し出してきた。まるで握手を求めるかのように。


「……現実世界(あっち)でも、フレンド申請、送っていいですか」


「え……ええと」

 さすがに戸惑う。


 だけど。


 このまま一生一人でも生きていくなんて思ったこともあるけど。

 さすがにこの先、誰とも交流を持たずに生きていくなんてことは難しいだろう。

 女性恐怖症克服のために利用するようなことになるのは若干申し訳ないが。


「じゃ、じゃあ、俺でよろしければ」

「……うん」

 実は……小学校時代、クラスの女子たちからいじめられてた頃。罰ゲームで告白されたことは何度かある。

 だが、その時には見なかった反応だ。

 なんだか、本心から喜んでいるように見える。


 それが本当に喜びから来るものなのか、演技なのか、俺にはわからない。

 しかし、これまでの部活での様子を見る限り演技の得意なタイプとは思えないし、これが演技だとすれば、それこそもう二度と女性というものを信じられなくなるだろう。


 差し出された手を握るかどうかを数秒迷って、彼女に頭を下げる。

「触れるのはまだちょっと……ごめん」

「……わかった。また、いつか、現実世界(あっち)で、ね」

 またいつか、か。はたしてそんな日は来るのだろうか。


「……じゃ、友達記念に写真撮ろ?」

 そう言うと彼女は、俺と向かい合うのではなく、並ぶような位置に移動する。

「お、おう……」

 まあ、写真撮るくらいなら……。


 そしてカズハは、自分のガイドフォンを取り出し操作する。

 外見はただのスマホだが、各種のゲーム内アプリが内蔵されている。

 ドローンのような機能もあるらしく、カズハの手を離れたガイドフォンは浮遊を始める。

「……じゃ、何枚か撮るよ」

「お、おう」

 そして、ガイドフォンからシャッター音が聞こえてきた。 


    ◆


 その日のテストプレイが終わり、俺は自室のベッドの上で目を開けた。


 大きくため息をつき、起き上がったその時、現実世界の俺のスマホがメールの着信を知らせる。

 届いたのは、先ほどゲーム内で別れたばかりのカズハ……沖浦さんからのメール。

 添付されていた、先ほどのスクリーンショットを開けば、戸惑いの表情の俺と、現実では見たことのない笑みを浮かべる沖浦さんが並んで写っていた。


 やっぱり美少女だな、この人。

 そういえば、女子とのツーショットも初めてだった。 


 先ほどの彼女の言葉。

 少々子供っぽいというかオタクっぽい気もしなくはないが、それでも夢に向かって、それを実現しようとする努力は……月並みな言い方ではあるが、立派だと思う。

 それに、これまでいじめの対象か、ただクラスにいるだけの存在だった身としては、冒険の相手として俺を選んでくれたことも光栄だった。嬉しかった。


 でも……本当に俺が相手でいいのか?

 そんな感情が拭えない。


 しばらく、未練がましく二人の写真を眺めていたが、やがてボタン操作で画面を消す。


 カズハの姿が消え、真っ黒になったスマホに映る俺の顔だけが残った。

 その容姿ゆえに小学生の間ずっといじめられてきた男の姿が。

 はじめての女友達からの過大評価に、戸惑いと不安を隠せない俺の表情が。


 それを見て俺は、誰もいない部屋の中で(ひと)()ちた。

「やっぱり、釣り合いとれないじゃないか」

第二章 完


最後までお読みいただきありがとうございます。

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