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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第29話 カズハ

 どうやら魔法を習得可能になったらしい。


 それは少し保留にしよう。

 木行もくぎょうとやらでどんな魔法が使えるかもわからないから、事前に時間をかけて調べる必要がある。


 それとは別に、カズハに聞きたいことがあり、彼女の姿を探す。

 カズハはあたりに散らばったハンマーを回収していた。

 戦闘中にカメレオンがバランス崩したように見えたが、もしかしてこれが原因か?


「それで、ふたつほど質問したいことがあるんだが」

「…………わたしに答えられることなら」

 なんか妙な間があったが、まあいいや。


「失礼を承知で聞くが、中身のほうも沖浦(おきうら)数葉(かずは)さん本人でいいんだよな」

「……な」

 俺の言葉に、彼女はその顔を赤くする。

 それはこれまでゲーム内だけでなく現実でも見たことのある恥じらいとは違う、今まで見たことのない表情だ。

 もしかして、怒った?


「……なんでそう思ったの?」

「なんというか、普段と感じ、というか行動が違ったから」

 普段はいわゆる陰キャ、というとイメージが悪いが、こんなに積極的に近づいてくる印象はなかった。

 いや、たまに変な暴走はしてた気はするが。


「……言っとくけど、他のプレーヤーへのなりすましとかアカウントの譲渡は、規約で禁じられているから」

 それは知ってるけど、できるできないはまた別で。

 カズハはうつむいて、俺に聞こえない小さな声で何かをつぶやいている。

 俺の方も、同声を掛けていいかわからないまま、しばし時間が流れる。


 やがてカズハは、意を決したかのように俺に視線を向けた。


「……わたし……こう見えてもゲームとか漫画とかアニメにも造詣(ぞうけい)が深いの」

「いや、カズハがオタクなのはうすうす勘づいてはいたけど」

「……オタっ、いや、まあ……うん」

 さすがにオタクであることは否定できなかったか。


「正直、ゲームのプログラマーを目指すほどとは思わなかったけど」

 俺がそう言うと、カズハはまた目を伏せて語り始める。


「……わたしは、子どものころから、ゲームが好きだった。色々あって、友達はなかなかできなかったけど、ひとりで遊べるゲームの中で、いろんな夢を見ることができた。ゲームの中でわたしは、勇者となって最強のドラゴンを倒したり、反乱軍となって悪の帝国と戦争したり、狩人となって巨大な龍から村を守ったり、王様になって異世界の英雄と戦ったり、図鑑片手に国中のモンスターたちを追いかけたり、子供にかえって田舎の夏休みを満喫したり、仲間をいっぱい集めて国を作ったり、アニメやマンガの登場人物たちといっしょに彼らの世界を追体験したり……現実世界ではできなかったことが、いっぱい楽しめた」

 それは、現実世界で大人気のゲームたち。俺もいくつかはやったことがある。

 そしてまたいくつかは、今俺たちがバイト中のカプセル・フェニックス社がこの世に送り出したものでもある。


「……そうやって大きくなって、わたしにはふたつの夢ができた。ひとつは、好きだったゲームを自分の手で作ること」

「ああ」

 確かにこの人は、ゲーム会社のアルバイト、プログラマー見習いとして、その一歩をすでに踏み出している。


「……もうひとつは……子供の頃、ゲーム内の仲間たちと見た世界を、本当の友達と歩いてみたかった」

「本当の友達?」

 それは、カズハの言葉から考えて、ゲームのキャラクターではない、現実世界の人間という解釈で合っているだろうか。


「ゲームの仲間たちとの冒険は、本当に楽しかった。でも、ある時、気付いたの。気づいてしまったの。彼らは、作られたものだって。そうしたら、誰か、本当に仲良くなった友達と、ゲームの世界を楽しみたいって」

 これまで現実世界で見たことのない浮かれたような様子も、先日の感情移入し過ぎともいえる行動も、これならば説明が付くだろう。一部かもしれないが、子供のころからの夢がかなったのだから。


 いや、ちょっと待て。

 だとすると……。

 

「もうひとつ気になってたんだが、このゲーム、この前から他のプレイヤーが見当たらないんだが」

「……いない」

「いない!? それバグか何か発生してない?」

「……大丈夫」

「いや、あまり人が多いとやりにくいのも確かだが」 

 十字キーといくつかのボタンだけで何でもできる昔ながらのゲームとは違い、フルダイブ型のこのゲームでは、AIで管理されたNPCノンプレイヤーキャラクターと話しながら進めないといけない。

 さらには、本来なら他のプレイヤーもたくさんいて、彼らと交流しながらゲームを進めることになるはず。

 俺には、っていうか一般的にゲーム好きの人には、それはハードル高いんじゃないだろうか。いわば、引きこもりに外に出て働けっていうのと同じようなものだ。

 それはおそらく、この人にとっても。

 

「っていうか、友達いないの?」

「……ふえっ!?」

 俺がそう聞くと、彼女は驚いた顔でこちらを見て、そのまま動かなくなった。


「いっしょにゲームする友達が欲しかったんだろ? 同じクラスによく一緒にいる女子とかいないの?」

 そう尋ねると、カズハはかなりの勢いで首を横に振る。クラスが違うから普段の様子は知らないが。

 それにしても……やっぱり友達いないの?

 いや、同性の友達がいたならば、もしかしたら俺は誘われなかったかもしれない。そんな考えが、脳裏に浮かぶ。


「……話の合う人は、ほとんどいない」

「理系でプログラマー志望というと……確かに普通の女子とは話が合わないかもしれないな」

「……一緒にフルダイブのVRMMO-RPGやろうなんて言っても、来てくれる人はいそうにない」

 そんな事は言ったが、俺も人のことは言えん。友達と胸を張って言えるような相手なんていない。

 小学生の頃はずっといじめの対象となってきたのだ。それがなくなったからといって、今さら誰かと仲良くしようなどという気にはならない。

 ただ一応、他の女子とは必要最小限のやりとりくらいはできるようにはなった。

 カズハに関しては、1年同じ部にいただけあって会話はまともに出来ている。いまだに直接触られると体調崩したりするが。それも、ゲーム内では改善しつつある……のだろうか。


 もし彼女が、女子の友達とかゲーム内に連れてこられても、どう接したらいいかわからなかっただろう。知人に友達がいないことを喜ぶのは、まったくもっておかしな話ではあるが。


「……あの、それで、わたしからも聞きたいことがある」

「あ、ああ。俺も、答えられることなら」

 自分だけ質問しておいて、相手の質問に答えないというのも非礼ではあるが、カズハの思いつめたような表情を見る限り、あまりいい予感はしない。


「……現実世界の方だと、わたしのこと、どう思ってる?」


 確かそれ、前に一度聞こうとして取り下げたような。

 一体、どんな答えを期待されているんだろう。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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