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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第28話 真夏の空は青く

「で、あの色付きガスなんだが、例えるなら暗記学習のときに使う赤や緑の半透明のシートみたいなもんだろう」

「……え? なにそれ」

「え?」

 あれを知らないのか?


「受験勉強とか、したことないわけはないよね⁉」

「……え? いや、そんなことは……ない、よ」

 何だろう。妙な反応だな。


「ごめんその話はおいといて。つまり、緑色のガスは緑色のものに紛れるため。そして、青いガスは青いものに隠れるためのものだ」

「……青い、もの?」

「これまで青いガスを使わなかったのは、その必要がなかったから。戦いの場が森の中だったので、緑のガスだけで用が足りていたんだ。森から広場に飛び出して、新たに青のガスを使う必要が生じた」


 森の中から広場に踏み出した俺は、視線を上げて斜め上を指さす。

 そこには、雲一つない真夏の空を背景に、体の色を青に変え、前後の足の間に隠されていた皮膜を広げ、まるでトビトカゲのように滑空するジェイドカメレオンの姿があった。

 さすがに影までは消せないし、人間の眼ならば見破るのはそう難しくない。


「確かに予想外の行動だったが、所詮は初見殺しだな」

「……ネタがバレれば、どうってことない」

「ならば、さっきの連携攻撃を今度こそ」

「……ぶっつけ本番か……やるしかないね」

 俺たちは少しだけ距離を取り、それぞれ武器を構える。


 カメレオンは身をひるがえし、上空から急降下攻撃を仕掛けてくる。

 目標は……俺の方だ。


 とっさにカズハの方に駆け出し、少し間隔をあけて並ぶ。

 俺への攻撃をかわされたカメレオンは、地面にぶつかったショックで一瞬動きを止める。

 チャンスは、たぶん一瞬。


「3!」

 槍を構えながら、カズハとカメレオンをはさむ位置へ走る。

 カウントはダメ元で叫んでみた。

「2!」

 それにカズハが答え、ハンマーを振りかぶる。

 もしかしたら俺たち、相性は悪くないかもしれない。

「「1!」」

 ふたりの声が重なる。

 俺は1のカウントに合わせて槍を振るい――。

「ゼ、っ!?」

 カズハはさらに1カウント後、ハンマーを振り下ろす。


 や、やっぱり俺たち相性悪い?

 カズハに視線を送れば、俺に向け大きく横に首を振る。

 やっぱり俺、わかりやすい表情をしていたのだろうか。


 それでも、連携こそ失敗したが、ふたりの攻撃はそれなりのダメージを与えていたようだ。巨体がわずかに後ずさりし、転倒する。


「……やったか」

「いやフラグ立ててどうする」

 のっそりと、カメレオンが起き上がった。


「ほらやっぱり生きてた!」

 いや、フラグがなくても死んでなかったとは思うが。

 HPバーの大半は黒に変わり、残りはあとわずか。

 だけど、このまま終わるのか?


「次は1で!」

「……ん」


 突然、その口から、予備動作もなしに真っ黒なガスが噴き出す。これまでよりも大量に。

「HPが減ると行動が変わるタイプか!?」

「……でもたぶん、あと一撃で終わりそう」

「だろうけど、黒は卑怯じゃないか?」

 ラストアタックの可能性を考えていた俺は、見失う前にカメレオンの首にしがみつく。


「つまり、体内に三色のガス袋を持っていて、普段それを使い分けているが、ダメージが蓄積すると全部流出する感じかな」

「……モンスターデザインの人、そこまで考えてないと思うよ?」

 黒いガスの向こうから、カズハの声だけが聞こえた。

「いやそれは言いすぎじゃない?」


 光の三原色とは言うが、三色のカラーシートを重ねたところで、白にも透明にもならない。

 ガスが光を吸収したか、あたりは本当に何の光源もない闇夜のようだ。自分の真下にいるはずのカメレオンさえ、感触はあるが姿は見えない。

 視覚を奪うタイプのステータス異常をそのままVRゲームに取り込んだら、多分こんな感じになるのだろう。

 これ、最初からやられてたらプレーヤーの精神にダメージあったかもしれない。

 だが、こんな能力を使うということは、敵も限界が近い、はず。


「ゲン! どこ!?」

 カズハの焦った声が聞こえる。やっぱりゲームに感情移入しすぎじゃないか。ちょっと不安になるほどに。


「ここだ! カメレオンの首の上!」

 そう叫び返すが、これで位置がわかるもんだろうか。


 突如、カメレオンが大きく身をひねる。この方向はたぶん、直前までカズハがいたところへ向かうつもりのようだ。

「逃げろ! 敵が動いた!」

 この色は、さっきまでと違う。追い詰められたカメレオンの狙いは、おそらく暗闇に紛れての奇襲攻撃。

 遠ざかるカズハの足音を追うように、カメレオンがわずかにその軌道を変える。


 装備していた竹槍は、しがみ付いたときに取り落としていた。

 両足と左手で首に張り付きながら、右手でガイドフォンを取り出す。

 暗黒のガスの中でも、光るその画面ははっきりと見えた。


「初心者のナイフ、取り出し!」

 以前とは違い、アイテムボックスの中を少し整理しておいた。

 ガイドフォンから、ナイフの柄が飛び出してくる。

 それを口でくわえて引き抜いた。


 直後、何かにつまづいたかのように、カメレオンの体がバランスを崩す。

 右手のガイドフォンを捨て、両手両足で、激しく揺れるカメレオンの首にしがみつく。現実ならば一瞬で振り落とされていただろうが、こちらのアバターは何とか振動に耐えきった。


「……洗い流せ。その(まなこ)の曇りを。【レストアビジョン】!」

 カズハの詠唱が、思いのほか近くから聞こえた。おそらく自分の状態異常を解除したのだろう。


「3!」

 続けて、声が聞こえた。

「2!」

 それに答えながら、カメレオンから離した両手でナイフの柄を逆手に握り、大きく振りかぶる。

「「1!」」

 カズハの声がした方、すぐ前にあるはずのカメレオンのトサカにむけて、ナイフを突き出した。

 何かのタイミングがあったのか、それはトサカに深く突き刺さった。


――連携攻撃【挟撃】を習得可能となった!――


 おお、成功したか!


 俺の手の中で、ナイフの柄にひびが入った感触があった。それはそのまま、ボロボロとくずれてゆく。

 しまった。耐久度が尽きたか。こんな時に。


 だが、ナイフに続けて、両足で触れたカメレオンのウロコも崩れ、剥がれ落ち始めた。

 そのまま、未だに目視できないカメレオンの体も、その存在感を失い、希薄になる。


――中ボス【ジェイドカメレオン】の討伐に成功した!――


「よしっ!」

「やった!」


 バランスを崩しながらも俺はなんとか着地する。

 そこに、風に流されるガスの向こうから、カズハが左手を挙げながら駆け寄ってきて――。

 俺もそれに対して右手を挙げ――。


 完全に黒いガスが消え、目と目が合った瞬間、俺たちは示し合わせたかのように硬直した。

 本当に見えない壁があるみたいに、ふたつの手のひらは動きを止める。

 別にハイタッチは、キスみたいに禁止も対策もされていないはずだが。

 意を決して、手を近づけようとした時。


――ゲンのキャラクターレベルが3になった!――

――カズハのキャラクターレベルが2になった!――

――カズハの戦士レベルが2になった!――

――ゲンのキャラクターレベルが4になった!――

――カズハのキャラクターレベルが3になった!――

――カズハの戦士レベルが3になった!――

――ゲンのキャラクターレベルが5になった!――


 ふたりのガイドフォンからファンファーレが鳴り響く。


 そして俺たちは、気が抜けたかのように手を引いた。

 ま、まだこういうの、俺たちには早かったのかも。

 そういえば俺の職業(ジョブ)レベルは、と思ったが、料理人というか一般ジョブは戦闘では成長しないのではないだろうか。


――[カメレオンの魔石]を手に入れた!――


 だがそんな気恥ずかしさも、最後のアナウンスで吹き飛んだ。


――五行魔法【木行(もくぎょう)】が習得可能となった!――


「魔法!?」

最後までお読みいただきありがとうございます。

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