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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第26話 保護色

「……ちょっとゲン、聞いてる?」

「ああごめん。キイチゴ見てた」

 拠点に帰るため、ふたりで森の中の獣道を歩いていた。

 ただ話すだけでなく、何かいい素材でもないかとあちこちに目をやっていたんだが、そちらに気を取られたのがカズハのお気に召さなかったらしい。


「素材採集は必要だろ。ずっと魚だけってわけにもいかないじゃないか」

 今のところ、川魚が一番簡単に得られる食材という状況。米、とかぜいたくは言わないが、さすがに植物系の食材も欲しい。


「……このゲームの中だと、栄養バランスとかあんまり考えなくていいよ」

「何か食べたい料理はあるか?」

「……たまごかけごはん」

「それ料理なの!?」

 現実の方の食生活が気になってきたな。俺に何ができるかわからんが。


「ゲーム内であまり変な習慣付けない方がいいんじゃないか」

「じゃあ、もっといいもの、食べさせてね」

 何がとれるかなあ。


    ◆


 さらに森の中を進むうち、獣道の脇の茂みに何か違和感を覚えた。


「ちょっと待て……あの茂み、変じゃないか?」

「……? 特に何もなさそうだけど」

「色合いも単調だし、質感や形も他と違う気がする」

 なんというか、そこだけ作りものか、何らかのバグでテクスチャーがおかしくなっているような。

 いや、バグならバグとして報告すればいいだけの話。

 まずは、バグかそうじゃないかを確かめないと。


 そう言っても、カズハは怪訝そうな顔をするばかり。そして、茂みのほうに向かって行こうとする。

 それならばと、俺は彼女を呼び止め、足元から一握りほどの石を拾い上げる。


 何かイヤな予感はするが、テストプレイだからな。多少は無茶をする必要もあるだろう。

 まず、ガイドフォンから竹槍を取り出す。

 足元から石を拾い上げ、その色合いが違う茂みに向けて投げ込む。

 鈍い音がして、枝葉を揺らすこともなく石が弾き返された。そして、なんとか茂みの体裁を保っていたそれは、周囲の草木をも巻き込んで形を崩す。


「きゃあっ!?」

 悲鳴を上げるカズハを背後にかばい、竹槍を構える。


 木の葉に見えていたものは、いつの間にかうろこへと変じ、全体の輪郭も四本の足と長い尾を備えた動物の姿となる。

 爬虫類のような姿をしているが、現実世界のそれよりはるかに大きい、恐竜じみた何か。


「オオトカゲ……いや、カメレオンか!」


【ジェイドカメレオン】 魔獣 Lv.10

 俺の言葉に答えるように、カメレオンの頭上にそんな表示が浮かんだ。


 キョロキョロと左右別々に動いていたカメレオンの眼が、まっすぐにこちらを向く。口がわずかに開き、その隙間から舌がのぞいた。


 攻撃の予感。だが、よければ後ろにいるカズハに当たる。

 一瞬、躊躇する。正確には、どう動いていいかわからなかっただけだ。別にパーティーメンバーをかばうとか、ほめられたものじゃない。まだ大ムカデ戦のトラウマが残っているらしい。

 敵の舌が伸び、反応するひまもなく俺の右腕に絡みついた。

 ダメージは少ない。

 だが――。


【アトラクション】

 続けて技名だかスキル名だかが、カメレオンの頭上に表示される。

 一瞬、遊園地の施設が頭に浮かんだが、腕に絡み付いた舌に力が込もったところで思い出す。

「……これ、英単語帳の54ページで見たやつだ」

「通信教育の広告か!」

 この人、時々妙な記憶力を発揮するな。俺はさすがにページ数までは覚えていないが、意味はわかる。


「「atract(アトラクト) 引き寄せる」」

 二人の声が重なる。


 さすがに自分より大きな相手の力には逆らえず、バランスをくずしたまま一メートルほど引きずられる。

 まずいな、これ。


「……でも、カメレオンって擬態はすごいけど、戦闘力はたいしたことないんじゃ……」

「カメレオンの鶏冠(とさか)って、アゴを閉じるための筋肉が入ってるんだよな。ティラノサウルスと同サイズまで拡大したら、その咬合力(こうごうりょく)は数倍って説もある」

「今、助ける」

 普段のクール系というかダウナー系というか、そんな感情のこもっていない普段の声とは明らかに違う、低い声が聞こえた。


「……鬨の声あげよ……[ウォーハンマー]」

 何やら中二病めいた科白(せりふ)とともに、彼女の左手に大きめの金槌が現れた。

 レベル下がったせいで、これまでのハンマーは使えなくなったのだろうか。


 そしてカズハは、カメレオンの舌めがけてハンマーを振り下ろした。命中と同時に、火の粉が飛び散る。


『グシュウウウ』

 カメレオンの口から空気がこぼれるような音が漏れた。

 俺の腕から離れた舌が口の中に引き戻され、代わりに緑色のガスのようなものが吐き出される。


「いやもうこれ、ほぼ怪獣じゃないか!」

「……ぅゎヵぃι゛ゅぅっょぃ」

 レベル下がったはずなのに、意外と余裕あるなこの人。


 拡散するガスをかわしきれず、視界が緑に染まる。

 それだけでなく、カメレオンも、周囲の景色も、輪郭が曖昧(あいまい)となった。


「これは……?」

「……昔のゲームにあった、視覚に異常が起こるやつじゃないかな、たぶん」

「命中率が下がったりするあれか?」

「……ん。VRで目の前が真っ暗になるのはさすがにちょっと」

「確かにそれは、まずそうだな」

 とはいえこれだけでも、戦闘に結構な支障が出そうだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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