第26話 保護色
「……ちょっとゲン、聞いてる?」
「ああごめん。キイチゴ見てた」
拠点に帰るため、ふたりで森の中の獣道を歩いていた。
ただ話すだけでなく、何かいい素材でもないかとあちこちに目をやっていたんだが、そちらに気を取られたのがカズハのお気に召さなかったらしい。
「素材採集は必要だろ。ずっと魚だけってわけにもいかないじゃないか」
今のところ、川魚が一番簡単に得られる食材という状況。米、とかぜいたくは言わないが、さすがに植物系の食材も欲しい。
「……このゲームの中だと、栄養バランスとかあんまり考えなくていいよ」
「何か食べたい料理はあるか?」
「……たまごかけごはん」
「それ料理なの!?」
現実の方の食生活が気になってきたな。俺に何ができるかわからんが。
「ゲーム内であまり変な習慣付けない方がいいんじゃないか」
「じゃあ、もっといいもの、食べさせてね」
何がとれるかなあ。
◆
さらに森の中を進むうち、獣道の脇の茂みに何か違和感を覚えた。
「ちょっと待て……あの茂み、変じゃないか?」
「……? 特に何もなさそうだけど」
「色合いも単調だし、質感や形も他と違う気がする」
なんというか、そこだけ作りものか、何らかのバグでテクスチャーがおかしくなっているような。
いや、バグならバグとして報告すればいいだけの話。
まずは、バグかそうじゃないかを確かめないと。
そう言っても、カズハは怪訝そうな顔をするばかり。そして、茂みのほうに向かって行こうとする。
それならばと、俺は彼女を呼び止め、足元から一握りほどの石を拾い上げる。
何かイヤな予感はするが、テストプレイだからな。多少は無茶をする必要もあるだろう。
まず、ガイドフォンから竹槍を取り出す。
足元から石を拾い上げ、その色合いが違う茂みに向けて投げ込む。
鈍い音がして、枝葉を揺らすこともなく石が弾き返された。そして、なんとか茂みの体裁を保っていたそれは、周囲の草木をも巻き込んで形を崩す。
「きゃあっ!?」
悲鳴を上げるカズハを背後にかばい、竹槍を構える。
木の葉に見えていたものは、いつの間にか鱗へと変じ、全体の輪郭も四本の足と長い尾を備えた動物の姿となる。
爬虫類のような姿をしているが、現実世界のそれよりはるかに大きい、恐竜じみた何か。
「オオトカゲ……いや、カメレオンか!」
【ジェイドカメレオン】 魔獣 Lv.10
俺の言葉に答えるように、カメレオンの頭上にそんな表示が浮かんだ。
キョロキョロと左右別々に動いていたカメレオンの眼が、まっすぐにこちらを向く。口がわずかに開き、その隙間から舌がのぞいた。
攻撃の予感。だが、よければ後ろにいるカズハに当たる。
一瞬、躊躇する。正確には、どう動いていいかわからなかっただけだ。別にパーティーメンバーをかばうとか、ほめられたものじゃない。まだ大ムカデ戦のトラウマが残っているらしい。
敵の舌が伸び、反応するひまもなく俺の右腕に絡みついた。
ダメージは少ない。
だが――。
【アトラクション】
続けて技名だかスキル名だかが、カメレオンの頭上に表示される。
一瞬、遊園地の施設が頭に浮かんだが、腕に絡み付いた舌に力が込もったところで思い出す。
「……これ、英単語帳の54ページで見たやつだ」
「通信教育の広告か!」
この人、時々妙な記憶力を発揮するな。俺はさすがにページ数までは覚えていないが、意味はわかる。
「「atract 引き寄せる」」
二人の声が重なる。
さすがに自分より大きな相手の力には逆らえず、バランスをくずしたまま一メートルほど引きずられる。
まずいな、これ。
「……でも、カメレオンって擬態はすごいけど、戦闘力はたいしたことないんじゃ……」
「カメレオンの鶏冠って、アゴを閉じるための筋肉が入ってるんだよな。ティラノサウルスと同サイズまで拡大したら、その咬合力は数倍って説もある」
「今、助ける」
普段のクール系というかダウナー系というか、そんな感情のこもっていない普段の声とは明らかに違う、低い声が聞こえた。
「……鬨の声あげよ……[ウォーハンマー]」
何やら中二病めいた科白とともに、彼女の左手に大きめの金槌が現れた。
レベル下がったせいで、これまでのハンマーは使えなくなったのだろうか。
そしてカズハは、カメレオンの舌めがけてハンマーを振り下ろした。命中と同時に、火の粉が飛び散る。
『グシュウウウ』
カメレオンの口から空気がこぼれるような音が漏れた。
俺の腕から離れた舌が口の中に引き戻され、代わりに緑色のガスのようなものが吐き出される。
「いやもうこれ、ほぼ怪獣じゃないか!」
「……ぅゎヵぃι゛ゅぅっょぃ」
レベル下がったはずなのに、意外と余裕あるなこの人。
拡散するガスをかわしきれず、視界が緑に染まる。
それだけでなく、カメレオンも、周囲の景色も、輪郭が曖昧となった。
「これは……?」
「……昔のゲームにあった、視覚に異常が起こるやつじゃないかな、たぶん」
「命中率が下がったりするあれか?」
「……ん。VRで目の前が真っ暗になるのはさすがにちょっと」
「確かにそれは、まずそうだな」
とはいえこれだけでも、戦闘に結構な支障が出そうだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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