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最終話 解放と共存




「[魔法師]は全員『帰ってくるな』と」


シコク・クギョウサクラは、[王都陥没事故]のあと『以後[魔法師]全員[王都]への立ち入りを禁ずる。』と王都を追い出された。事実上の[追放]である。とみなに告げた。


髪の色も虹彩色も黒い青年の姿をした〈闇属性〉魔法の第一人者である[魔法師]は、他の魔法師達と同じようにその日の昼前に突然[魔塔の村]に現れた。


薄汚れた衣服はぼろぼろで、赤黒いシミが付いている。

理由を聞くと自身の怪我などではなく「戦闘帰りだった」と言うので、風呂に入りまず休めと促したが、「説明を先に」と言うので、浜辺にテーブルセットを出し、魔法師と村の主要人物だけ残って事の顛末を聞くことにした。

ハチとアオイもいて欲しいとマークとミルコに言われ、ナナには「歓迎会は後でするから」と子供達は家で待機してもらうことにした。


食事などの飲食は固辞されたが、アオイは[魔力水]の入ったグラスとピッチャーを全員の目の前に置いた。


ウルミシュの最後を見届けるために王都に残り、最後まで王の命令を聞いていた。というシコクは、「どうやらその日のうちに[王令]が出たようだ」と他人事のように話し始めた。


一部騎士団と魔獣の討伐訓練から帰ったシコクは、すでに門の中に入れなくなっていて、[王令]も門番から受け取った書類で下された。と[王令書]を[魔法師]達に見せる。


ダンジョンから帰ったばかりのシコクは、着の身着のままひとりだけ放り出され、連絡手段も路銀もなく、馬車で10日かかる[塔]まで歩いて来たのだとか。


「道中で、ウルミシュの亡骸は見つかってないと噂を耳にした。死亡して魔力暴走を起こした魔法師がどうなるのか知ることはできなかった」


アオイは「それじゃあまだ」と言いかけた言葉を飲み込んだ。


[魔力暴走]があったと言うことは変わらない。死亡したか、王族を害したかのどちらにしても生きてはいないのだ。

[犯罪奴隷]のヴァニタスの身体に無数の刻印があったように、[魔法師]達の魂には製造された時に刻まれた契約の呪いがかかっている。


「やはり[国外追放]には至らなかった」

「相変わらず愚かだね」

「最後の最後で欲を捨てきれなかったのだろう」

「この期に及んでまだ利用しようと思うんだな」


[魔法師]達が口々に思いの丈を告げると、ゆらりと立ち上がったシコク・クギョウサクラが静かにゆっくりと宣言した。


「手始めに隣接する領地から制圧する」


言われたことの意味がわからなくて、[魔法師]以外の誰もがポカンとした顔をした。


「なんだって?」

「どうやって?」


再起動の早かったマークとミルコが声を上げる。


すると、周囲に禍々しい黒煙を吹き出させながら、シコクは悠々と答えた。


「我らの身に刻まれた呪いを書き換える。俺が“この地の王”になる事で、他の魔法師が“他国”を攻撃、破壊、蹂躙できる。これまでそうしてきたようにな!」


「もぉ〜! よりにもよって今度の魔法師は厨二病なの!?」

「アオイっ! シッ! この後『フハハハハッ!』と笑い出すまで待つのが様式美と言うやつだろうがっ」


一瞬の静寂の後、アオイが頭を抱えて叫んだ言葉に、ハチがチャチャを入れた。


「シコク様、やっぱり疲れているのよ。一旦[塔]の自室で仮眠でもして来たら良いわ。ね。その間にご飯作っとくから」

「やれやれアオイ、『反抗期』も併発していたら、今までの奴らのように『おかんムーブ』は効かんぞ。しかしコイツが最上階か。わからぬのもだな」


アオイの首元から元の姿に戻りもしないハチは、チラリとシンクに目をやって「今では歯も立たんだろう」と言った。


村の住人達の眉間にシワがよる。

誰もがなんと言葉を発して良いのか、身の危険が迫っているのか計りかねていた。

そして「こりゃマズいな。鈍くなってやがる」とビアがポロリと漏らし、「慣れでしょうか?」とヴァニタスが答えた。


その言葉に、シコクはギロリとビア達に視線を向けた。

慌ててシンクが割って入った。


「あ、あ、あのね、シコク、ここではもうそんな事しなくて良いの」

「もう『やんわり洗脳』は解けた」

「オマエ、俺たちに『やんわり洗脳』してたんだろ?」


「・・・なんのことだ?」


「あ、あ〜ほら、ね、詳しい事は[塔]に帰って[魔法師]だけで話したらどうかな?」

「なんでだよ!?」

「シコク様もね、これからはここで暮らすのだから、ね。後先考えることって大事よね! ね!?」


オリベの追求を、なんとかしようとしているようだが、アオイの言動が怪しい事はすでにみなにはバレバレだ。

ライズは首元でハチが「はぁ〜」とため息をついたのを見て、アオイがまた聖女の仕事をしてしまったのだな。と察した。


「それでは、また次回にしましょうか?」

「それもそうだな、遠征帰りで10日も徒歩移動なさったのだ。シコク様、どうかゆっくりご静養ください」

「シンク様たちどうする? お昼[塔]で食べる? 俺持ってくよ」

「あ、じゃあそれは私が」


ライズの解散宣言に、マークがねぎらいの言葉をかけ、ミルコがシンクに昼食の有無を聞いたので、デリバリーはアオイが引き受けた。いつもの村の日常だ。


銘銘が席を立つと、ビアとヴァニタスはマークに近づき「やはりダンジョンに入って訓練を強化する必要がある」と提言しつつ、みな背を向けそれぞれの日々の仕事に戻っていった。そう。この村は今、みんな意外と忙しいのだ。


ひとり座ったままの暇なアオイは、両手の指を合わせバツが悪そうにクニクニと動かし、魔法師達の次の行動を待った。待ったが、待ちきれなかった。


「あ、あ〜あの、その、皆さんの[状態:やんわり洗脳/術者:シコク・クギョウサクラ]は、魔道具の[状態異常無効の指輪]で解いてしまいまして、その〜皆さん正常っていうか、正気っていうか、シコク様、本当にお腹空いてません?」


黙ったままのシコクに、居た堪れなくなったアオイが共感性羞恥を発揮しさせ、モニョモニョしてしまうと、首元のハチが「ヘヒッ」とため息をついた。くすぐったい。


シコクは、魔法師達の指に光る同じ金の指輪を見て、視線をそれぞれの顔に戻す。


()()裏切るのだな」

「術をかけていたオマエがそれを言うのか!」

「シコク、もう誰も怒ってない。オリベ、そんな言い方するのやめてっていつも言われてるでしょう」


「ウルミシュにも、〈洗脳〉の魔法を使っていたのか?」

「その答えになんの意味がある」


クロガネの問いに、シコクは答えなかった。

そして、何も弁明する事なく魔法師達にくるりと背を向けた。


「待って!」


立ち去ろうとしたシコクの手を掴み、アオイは素早くその指に指輪をはめる。

ポワッ と全身から光を放ったシコク・クギョウサクラは、ナナより小さな幼児に姿を変えた。


「何をするっ!!?」


「ひゃー〈偽装〉の魔法が何かと思ったら、厨二病どころか本当に赤ちゃんだったかぁ〜」

「魔法師は見た目と年齢が違うと言ってるだろうが。おい、オマエ、なんで姿を変えていた?」


ハチの問いに、答える余裕もないほどにシコクの狼狽は見てとれた。

オリベも、これには口をあんぐりと開け、二の句が告げなくなっている。

クロガネは真顔のままだが、シンクだけがキラキラと目を輝かせた。


捕らえた手の先が、今ではすっかり低い位置になってしまって、アオイは砂浜に膝をついた。


「指輪も服も小さくなって良かった・・・さ、やっぱりまずは風呂だな」


アオイは、小さくなったシコクをヒョイと抱え上げ、腹側でだっこした。

自身の胸と幼児の胸を密着させ、お尻を利き手でしっかりとすくいあげると、多少暴れても落とさないようにガッチリホールドする。


「はなせっ!」


「ロクより軽い。このぐらいの子供って肉体年齢何歳なんだろう? 1歳? 2歳? 後でマリーさん達に聞いてみなくちゃ」

「魔法師のステータスには、年齢が出なかったと言っていたものな。不思議なものだ。まて、ロク殿はどのような猫だったのだ?」


ジタバタと暴れるシコクを意に返さず、アオイとハチはいつものように会話を続けながら[塔]に向かう。


「メインクーンだよ15kgの」

「なんか思ってたのと違うが?」

「デブ猫じゃないよそうゆう大きさなの」

「いやそれでも違うな。もっとこう儚げな感じで想像していたが」

「ワイルドだよ?」

「なんだその微妙に返し難い変化球は」


そんなふたりを追って、魔法師達も一緒に[塔]に帰った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


クロガネに協力してもらって、ちょうど良い温度のお風呂を用意すると、服をひん剥かれたシコクは急に大人しくなった。

シャンプーの途中で、無駄な抵抗を諦めた猫のよう。

アオイは、シンクと一緒に、お湯につけたままの幼児の身体を容赦なく洗い上げると、タオルにくるんでオリベに髪を乾燥させてもらった。


「ひとりで身の回りの事をこなすのはまだ無理だな。物理的に」

「私! 私お母さんやる! 私がママですよ!」


はふう。と息を吐いて一段落を告げたアオイに、シンクがピョイピョイと挙手して飛び跳ねアピールすると、シコクは必死に自分の指輪を外そうとした。が、外れない。それもそのはず。その指輪は、はめた人間しか外せない仕様になっているのだ。


「慣れるまでは私が同室になろう」


クロガネがシコクを抱き上げた。

シコクの眉間にシワがよる。


その小さな身体では、いかに魔法の力が強くてもさまざま行動に制限がかかるだろう。

この人は()()魔法を他者への攻撃にしか使えない。

生活を豊かにするための使い道に思い至れなかったのだ。


クロガネに抱き上げられながらこちらを睨みつけるシコクに、アオイは赤子に話しかけるように優しく言った。


「その指輪で解除されたと言う事は〈偽装〉はやはり、人体に影響を及ぼす[状態異常]だったのですよ。シコク様」

「そんな事はわかっている!」


声を荒げてもぜ〜んぜん怖くない。ちっちゃい幼児が頑張ってるカワイイだけの映像だ。録画しちゃおうかしら。とアオイは思った。


「そのお身体では何かとご不便でしょう?」

「この指輪を外せ!」

「その指輪を外す方法は1つしかないんです」


アオイは、たっぷりと意味ありげに人差し指を立て揺らし、目を細めてシコクを見た。


「その指輪が外れる唯一の方法は[成長]です。身体が大きくなり指が物理的な痛みを感じるようになれば[指輪が外れない]機能が解けるでしょう」

「な、成長だと!?」

「えぇ。ご飯をきちんと食べ。たっぷり寝てください」


アオイは「そうすればすぐに大きくなれますよ」と笑って言った。


シコクは、絶望したようにうつむくと、握っていた指輪から手を離した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


後のことは魔法師達に任せて村に帰る。


魔法師達は[塔]でやらなければならないことが増えて万々歳だろう。

心身を操る魔法は、相手の精神に負担がかかることを『わかっている』からこそ、彼らには『やんわり洗脳』しかかけられなかったと信じてる。

きっとあの魔法師も、根っからの悪人なんかじゃない。


ハチに質問されて、アオイは思わず足を止めた。

陽が高く上がっていて雲ひとつない。今日も春の海は気持ちのいい天気が続いている。


「なぜあんな嘘をついた」

「だって魔法師様にはまず『食べて』もらわないと。でしょ?」


実際には[成長]したとて[痛覚]を無効化してしまう可能性もある。

さっきのアオイの詭弁が通用するなら、そもそも指輪を煩わしく思っている彼の指から指輪が外れない現象など起こらないはずだ。


「案外本気で嫌がってないとか?」

「大人しく言う通りになるとは思えんな」


ハチの心配もわかるが、魔法師たちはみな人を殺すことにうんざりしていたじゃないか。

アオイは、その警戒を否定せず代案をだした。


「じゃあ村のみんなにも[状態異常無効化の指輪]つけてもらおうか。それなら問題ないでしょ?」

「問題を先延ばしにしただけではないか」

「どんな試験だって解けない問題に引っかかってないで、できる問題から解いていくじゃん。生きるって多分そうゆうことだわ。それに気づいたら、今朝外に干した洗濯物の乾き具合や、お昼のメニューの方がずっと大事でしょ? きっとナナは今、お腹を空かせてても待っててくれてるんだもの」


ハチが鼻息で答える。

無事言い負かせたので、したり顔で再び歩き出したアオイは、ハッと表情を変え「ねぇ、あの子、まさか離乳してないとかないよね?」と顔面を蒼白とさせた。

首元のハチに手を添える。

ハチは「あぁ、それは確かに大問題だ」と深刻な顔で答えた。




ありがとうございました。

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