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7/11

儂の挑戦

 闘技場に歓声が鳴り響く。圧倒的な数の魔物、ゴブリン。


 その物量さの前に打つ手無く、挑戦者が血に沈んでいく。


 それを見て正義感に燃え、怒りに震える儂。


「ククッ……カカカッ……! 馬鹿じゃのう」


 こんなもの正規の手段でクリア出来る様に出来とらん。それでも挑戦者が後を絶たない。


 何故ならばその賞金額が絶大であるから。


 ゴブリン一匹倒した報酬などたかが知れておる。じゃがココでの戦いは違う。五十匹目から報酬にブーストが入る。


「全部倒すといくらなんじゃ?」


「金貨千枚よ。私のパパもそれを目指して……」


 エイラが答えて俯いてしまう。悪いことを聞いたかのう。


 しかし金貨千枚か、それだけあれば。


「一ヶ月は豪遊出来るのう」


 儂は期待に胸を膨らませる。


「バカ、一年は暮らせる。どんだけ金遣い荒いんだ」


 メフィストの奴、バカとは何じゃ。主従関係のわかっとらん奴じゃわい。

 それに悪魔の癖にみみっちい。


 良い宿に泊まって毎日美味しい物を食べ、夜は若い綺麗な姉ちゃんのいる店に行き、あとは魔道具やら何やら気の向くまま買ったら金貨千枚なんぞあっという間じゃぞ。


 そんな会話をする間にも、挑戦者達が瞬く間にやられていく。

 観客席からブーイングが飛び交い、罵倒と共にゴミが投げられていく。まあ賭けの対象じゃし、負けたら非難されるのは当然じゃの。


「何故この惨状を知っておきながら、自分は大丈夫! などと思えるんじゃろうなぁ」


「皆強さに自信があるのよ、それに作戦も。観客席から投げられてる物を見て?」


 何じゃ? 観客がブーイングや歓声と共にゴミやら剣やら投げとるが……。危ないのう。


「武器を投げてるのよ。アレは協力者だわ、挑戦者と裏で繋がってるの。追加の武器だったりポーションを投げてるの」


 エイラは詳しいのう。親父さんの仇ならそれも当然か。


 闘技場の参加戦士は最低限の武器以外持ち込み不可、じゃと言うのに色々考えるわい。


 確かにポーションで回復出来れば、ゴブリンの軍勢との持久戦は有利じゃがのう。


 再現なく沸くというのに、いつまで持久する気なんじゃ。


「それに成功者もゼロじゃないのよ。何人かはクリアして賞金を手にしてる」


 成功者は何人かおるようじゃが……。


 それって国のお偉いさんじゃ無いかの? ヤラセじゃなぁ。成功者リストとやら、名前のとこ爵位付いとるぞ? 誰も気付かんのか?


「賭けもあるみたいだな。殆どは挑戦者の負けに賭けているが」


「なんじゃメフィスト、また賭けるかの? 儂が成功するか失敗するか」


「クロス、また願いの数増やそうとしているな。その手は食わん。私はコツコツと努力する事に決めた」


 その発言に思わず噴き出し笑いしてしまう。


 コツコツ……! 此奴、笑い殺す気か……! 悪魔の癖にコツコツ努力、ククッ……!


「そ、そうか。ぶふっ。まあ、頑張るがいい」


 笑いを堪えるのに必死じゃわい。メフィストは不思議そうな顔で儂を見つめているが、本当に馬鹿なんじゃなぁ。可哀想に。


「クロス、あなたが挑戦する時は私がポーションを投げるから合図して。私が頼れる人に会うまで、少しだけどお金貯めといたから」


 エイラ、愉快な事を言うのう。メフィストの馬鹿が感染ってしまったか?


「エイラよ、儂にそんなもんは必要無い。それよりその貯めた金、全額を儂の勝利に賭けよ」


「えっ……、でも……」


「何じゃ、儂の勝利を信じておらんのか? 儂の強さを疑っておるのか? エイラは儂を頼ったんじゃろう?」


 そう言うとエイラは暫し俯き、頭を上げて儂を見つめる。


 決意は出来たようじゃの。


「うん、私。クロスを信じる!」


「よし、儂の持つ金も全部賭けといてくれ。分け前は3:7、勿論儂が多い方。決まりじゃな」


「えっ? ちょっと待っーー」


「さ、今日は帰るぞい。儂の挑戦は明日じゃ。今日は参加登録も終わったし見学も飽きた。帰ってゆっくり寝るかのぅ」


 儂はコロッセオを後にしてエイラの住む宿へと向かった。




「え、と。クロスは宿、取らないの?」


 エイラが顔を赤くし、もじもじと金髪を揺らす。


「もう所持金全額お主に渡してしまったからのう、無一文なんじゃ。それとも一緒の部屋は嫌かのう?」


「え、いや、じゃないけど……、え? 嫌っていうか、いや流石に会ったばかりで同じ部屋は……。ベッドも一つしか無いし」


 サイドテールの金髪を弄る姿も可愛らしいエイラ。


「それならば問題は無い。儂はお主と一緒に寝るからのぅ」


 エイラ、何を迷っておるんじゃ。思い切って決めてしまえ! 大丈夫じゃ! 儂は何もせん! ただ一緒に寝て軽くスキンシップを取るだけじゃ! 先っぽだけじゃ!


「駄目に決まってるだろーがあ!!」


 メフィストが叫びと共に儂を抱え込む。

 こいつ……。ココに来るまでにナンパされとったから置いて来たのに、もう追い付きおったか。


「すまない、エイラ。クロスは私と同じ部屋にするから、少しお金を返してくれないか」


 メフィスト、これは儂との契約違反じゃないのか? ここまでしろなんて言っとらんぞ。


 だが儂の意に反してエイラがお金を返してくる。


 やれやれ、遠慮などせずとも良いのに。結局その夜、儂は一人で寝ることになった。

 メフィストも寝たいと言っておったが、床に寝かせといた。悪魔の癖に贅沢な奴じゃわい。




 結局、儂用の部屋を借りベッドに腰掛ける。


 儂は宿屋の小さな窓を開け、夜空を眺める。


 辺りの人々は寝静まり、歩いてる物はいない。


 今宵は満月。その大きさに思わず息が漏れる。


「手が届きそうじゃ……」


 右腕を月へと伸ばす。


 儂は月から得た波導を体内でエネルギーに変えていく。


 月の力が闇の魔力と合わさり、更に儂の生命力と混じり合う。


 それらを掌に集め、天に向け放出する。


月華(ルナティック)瞬暗砲(ストライク)!!」


 放たれた紅の輝きが、闇の粒子を撒き散らして月へと向かう。


 だが届く事はなく、ただ周囲に爆音を鳴らすのみ。


 儂は己の無力さに自嘲気味に笑う。


 周りの建物の灯りがついて騒がしくなる。


 儂は窓を閉じ、静かに眠りに就く。


「スッキリしたのぅ……」


 夜の雑音が儂を心地良い夢の世界へ誘っていった。

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