儂のフラグ
クエストボードを眺める。そこには冒険者に向けた依頼の数々が記載された紙が貼られている。
採取、討伐、護衛。様々な物があるが儂は冒険者なりたてのFランク。
「地味なクエストばっかりじゃのう……」
思わず嘆息する。何かもっとこうバーッとしてドカーンって感じの派手なのが良いんじゃが。
とりあえず一番戦いの多そうな奴を選び、受付嬢へと紙を渡す。
「あ……。クロス、さん。クエストは決まりましたか?」
遠慮がちに儂を呼ぶ彼女。そう畏まらんでも良いではないか。何もせんよ、お主が殊勝な内はの。
「おぉ、このゴブリン無制限討伐って奴にするぞい。数が増えるごとに報酬も増えるんじゃろ?」
儂が告げるとお姉ちゃんが渋い顔をする。何じゃ? Fランクでも大丈夫ってデカデカと書いてあるから持ってきたんじゃが。
「あの、これは治安維持とかで野生のゴブリンを狩るのではなく、その……」
「何じゃ、ハッキリせい」
ゴブリンは低ランクのモンスターじゃ。だが冒険者始めたてのFランクソロだと一匹倒すのもやっと、しかしこの姉ちゃんは儂の実力をさっき目前にした筈。
何の文句があるのじゃ。
「コロッセオで闘うタイプの、いわゆる冒険者を虐めて楽しむ遊びと言いますか……」
ほほぅ。最近はそんなのが流行っとるのか、陰険じゃのう。闇魔術の元総帥の儂から見ても陰険じゃわい。
コロッセオ、闘技場で剣闘士などを戦わせて血を見るのを楽しむ野蛮な遊び。
それに冒険者と魔物を投入するとは。時代は変わったのう……。
「楽しそうではないか。クロスが嬲られる姿なんぞ中々観れるもんじゃないぞ」
背後から聞こえる女の声。
メフィスト、戻ってきたのか。
服を着替えると言って何処ぞへ消えたが、何も変わっておらん。ボロボロの服が直っただけでは無いか。
何着も同じ物持っとるのか?
「大丈夫じゃ、所詮ゴブリンじゃろ?」
儂はメフィストを無視して問いかける。じゃが受付嬢も譲らない。
「いえ確かに相手はゴブリンなのですが、際限なく戦わせられるのです。冒険者が敗北するまで。
そして負けても終わりではなくボロボロに痛めつけられて漸く解放されるのです」
治療費が報酬を上回りそうじゃな。じゃがコレは儂向きじゃ。
耐久勝負と言うなら、生命吸収の魔術で無限駆動できる儂にとって、ボーナスステージの様なものじゃわい。
ウヒヒヒ、笑いが止まらんのう。思わず涎を垂らしてしまうわい。
「構わん、儂はそれで良いぞ。レベルも上がるじゃろう」
努めて冷静に返事をする。
「レベル? いや、正気ですか!?」
何じゃ、レベルも知らんのか。……それもそうか。この世界は儂のやってたゲームに似てるだけで、ゲームそのものでは無いのだから。
いずれにせよ、この嬢ちゃんを説得せんとか。
「そうか、そこまで言うなら仕方ない。あーあ、出たかったのう。
他の依頼なんて大したもん無いしのう。冒険者の聖地って言っても大したことないのう。
あーぁ、せめて今のクエストに出られればのう。あーつまらん。役に立たんのう」
これで受付嬢の気が変わってくれれば煽り得なんじゃがのう。
儂がさっき大男を倒したのを見てるのに、ここまで止めるという事はよほど成功者が少ないんじゃなぁ。
けど余り手の内を明かすのも……。
「あの! 良いんじゃないでしょうか!」
愚痴を言いつつ困っておった儂に話しかける小娘。金髪を髪留めで結んだサイドテールの美少女。中学、高校くらいの年代かのう?
「お嬢ちゃん、君は大人の話に入るんじゃないぞい」
儂は優しく諭して少女の頭を撫でる。そしてポケットから飴を差し出す。
「子供扱いしないでください! 君の方が小さいじゃないですか!」
あぁ、今の儂って子供じゃったな。たしかに今の儂は小学生でも通じそうじゃ。
若返り失敗じゃのう。もう少し背が高ければ色々とスムーズじゃったろうに。
それにしても飴を受け取らんか。中々勘の鋭い子じゃ……。ククッ、飴を食べたら最後……、フヒヒヒ……!!
「エイラさん、貴女がこのクエストに執着する気持ちはわかりますが。他の人を巻き込むのはお辞めください!」
受付嬢の姉ちゃんは少女と知り合いなのかのぅ。
金髪の少女エイラ……。急にめんどそうな展開じゃの。
しかし儂の探求心が疼く。野次馬根性とも言える。
「エイラ、良かったら儂に話してくれんか? 何があったのか」
「私の……、私のパパの仇を取って!!」
食い気味な少女の言葉。
エイラは易々と語り出した。まあ向こうから突っ込んで来たくらいじゃしの。
何でもエイラの親父さんがそこそこの冒険者だったらしく、周囲に持ち上げられてゴブリンクエストを受けた。
そしてコロッセオでボコボコにされて亡くなった。不慮の事故扱いで。
こんな娘がいるのに危険なクエストを受けるなど……、馬鹿な男じゃのう。
だがこんな事を聞いては黙ってはおれん。
「のう、受付嬢の姉ちゃん。儂はこのクエスト受ける、儂の意志は変わらん。確保してるゴブリンがいなくなるまで、全滅させれば良いんじゃろう?」
儂は目に力を込めて見据える。
フラグの気配がビンビンじゃあ!
このクエストの報酬にエイラが上乗せされた様なものよ! 愉快じゃのう。
「畏まりました。クロスさんの意志がそこまで硬いのなら、もう止めません。どうか、エイラの仇をお願いします!」
クエスト受注の判が、力強く押される。
儂はニヤリと笑う。そしてエイラが儂に抱きついてくる。
おほぉ〜、美少女の抱擁は堪らんのう!
「ありがとう、クロス! 貴方の事信じてる!」
チョロいのう。やはり力こそパワーじゃ。
「すけべジジイが……」
メフィストが小声で何か呟いておるな。
やれやれじゃわい、主人に対してなんて悪魔じゃ。
儂はエイラを抱いたまま、生命の波導を滾らせる。
それを練り上げ、圧縮、縮小。
指先へと力を蓄えていく。
本来、悪魔であれば人間の生命エネルギーを糧とできる。だが糧にするにも限界の容量がある。
許容量を超えたエネルギーを瞬間的に放てば、悪魔とて無事では済まない。
「気脈滅光弾!!」
メフィストへと放つ気弾の一撃。
音もなくメフィストが地へと倒れる。
「あの、クロス。あなたのお姉さんが倒れたよ……?」
「大丈夫じゃエイラ。良くある事なんじゃ」
儂はキリッとした顔でエイラの体の感触を味わい続けた。




