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儂のデビュー

「帰ってきたぞ、儂の故郷。ジークブレイディア王国に!」


 爽やかな青空の下。目の前に広がる光景を見て、両手を広げ叫ぶ。


「ジジイ、お前の故郷はこの近くのしがない村だろ」


 後ろからつまらなそうな声が水を差す。


 うるさいのうメフィストは。近いんじゃからここが儂のホームタウンなんじゃ。

 埼玉に住んでる奴が東京は庭って言うのと同じじゃ。


 この国には冒険者に必要な全てが揃っておる。

 駆け出しから熟練まで御用達の武器屋さん、魔道具屋さん、薬屋さん、冒険者ギルド。


 定期的に勇者召喚もされているから異世界知識も蓄えた快適な街。


 まあ武器は要らんかの。買える程度の武器なら素手の方がマシじゃ、重いし。


 魔道具なんぞ、今さら買い揃える必要が無い。大事な物の殆どは、空間魔術で作った倉庫にしまってある。


 思えばこのアイテムボックス的スキル。子供の頃必死で習得したのう。何をあんなに夢中になったのか不思議じゃったが、いかにもゲームっぽくて心惹かれたんじゃな!


 流石、記憶を失っても儂は儂!


「これからどうするんだ? ジジ……、クロス君」


 ようやく呼び方を気を付けた様じゃな。

 まだ昼前じゃし、飯より先に用事を終わらせるかの。


「ギルドで冒険者登録じゃ。今の儂は身分証明が無いからのぅ」


 そう告げてウキウキと歩き出す。


 しかし、街並みも随分変わったのう。


 最後にココに来たのは半世紀ほど前じゃから仕方ないか。


 冒険者ギルドまでは難無く着いた。


「でかい建物じゃ、それに新しい。市役所みたいでファンタジー感薄れるのぅ」


 儂はややガッカリしながら入るが、メフィストはそうでも無い様じゃ。


 アレは何だ、コレは何だとはしゃいでおる。やはり低級悪魔じゃのう。人間の世界の知識が乏しすぎる。


 そして証明写真の撮り方がわからなくて絡まれておる。

 面倒じゃのう、置いて来た方が良かったかのう。とりあえず助けるか。


 近付くと男とメフィストの会話が聞こえてくる。


「姉ちゃん美人だな。へへへ、俺がじっくり撮影してやるよ」


「そうか、お前良い奴だな! 是非頼もう!」


 おおぅ……。そうか、忘れておったがメフィストは美人なのか。しかもアホ。ふむ、需要はあるかもじゃな。


 助けるのはやめておこう、その方が面白そうじゃ。


 まあ流石に悪魔じゃし、困ったら自分で何とかするじゃろ。


 儂は! 冒険者登録じゃ!


 受付カウンターへと向かう。中も市役所風だが冒険者達がクエスト報告やらで賑わっておる。飲食厳禁でも無い様じゃ。


「のう、若いの。冒険者登録がしたいんじゃが」


 儂が受付のお姉ちゃんに言うや否や、背後から野太い声。


「おいおい! お前みたいなガキが冒険者だと?」

「怪我する前に辞めときな。お前だって命は惜しいだろ?」


 絡んで来る二人組の大男。

 うわ、出たぁー。出たのぉ、儂は子供の姿じゃから仕方ないが本当に来るとは思わなかったわい。しかし。


「命は惜しいのう」


「ならとっとと回れ右して帰んな! 長生きしたかったらな」


 男が儂の肩を掴む。儂は魔力を込める。

 周囲が儂らに注目してるが、止める気は無いみたいじゃのう。見て見ぬフリか? 悲しい世の中じゃ。


「儂は長く生きたがのう。まだ足りんのじゃ」


 男が、周囲の人間が呆気に取られ沈黙する。そして笑い声。

 言葉が悪かったかのう。この外見で長生きは無理があるか。儂は続ける。


「儂はやりたい事の半分、いや十分の一も出来ておらん。じゃから例え危険でも冒険者になる。その上で長生きしたいんじゃ」


 英雄としてチヤホヤされたいし、伝説の武器を手にしてスリスリしたい。

 出来れば可愛い女の子とイチャイチャもしたいのう。

 儂が言うと同時に、肩を掴んでいた男が倒れる。


 生命吸収(ライフアブゾーブ)。少し吸いすぎたかのぅ。


 闇の力が男の命を限界まで搾り尽くす。


「おいガキ! 兄貴に何しやがった!」


 言うと同時に殴り掛かってくる男。


 うわ、短気じゃのう。しかしマズイ、この体は鍛えておっても子供じゃぞ?


 こんな大男のパンチを喰らう訳にはいかん!


 くっ、拳では防御の構えが精一杯じゃ!


 いかん……、やられるっ……!


闇龍脚(ドラグフォールレグス)!!」


 おおお……、蹴りじゃああぁーー!!


 急ぎ闇の魔力を脚に込め、男の顎に向け上段蹴りを放つ。


 さながら闇の龍が、男の身体をズタズタに引き裂くが如し一撃。


 顎から流れる闇は胴を通り、脚先までの筋繊維を破壊しながら駆け抜ける。


「兄貴とやらは数日で目が覚めるが、お主はちょっと大変そうじゃなぁ」


 男二人が地面へと崩れ落ち、静まり返る室内。いや、静まって貰っては困る。


「のう、お姉さんや。儂は冒険者になりたいんじゃが」


 儂はさっきも言った言葉を再び告げる。受付の女が一拍遅れ、慌てた反応を見せる。


「全く、若いと言うのに痴呆かの? 若返る前の儂の方がまだマシじゃわい。仕事なんじゃからキッチリしてくれんと〜〜」


 その後も登録が終わるまで儂の話は続いた。

 だんだんお姉さんや周囲の者の元気が無くなっていったが、まあ反省したんじゃろうな。


 何やら冒険者の証明証の他に黄色いカードを貰ったが、よくわからんのう。


 儂に絡んだ男どもは大怪我だとかで、何処かへ連れ去られたし。謝罪も無いとは、嘆かわしい……。


「おい……! クロス、何をしていた!!」


 後方から聞こえる悪魔の声。


「おぉメフィストか。冒険者の登録は終わったぞい」


 振り返り告げるが、奴の様子がおかしい。


 目に涙を浮かべ、表情は怒りに染まっている。

 服装は乱れ、元々扇情的だったのが更に刺激的な物になっている。

 それを隠す様に手足を縮こませてーー。


 そこまで考えて気付く。


「あぁ! お主襲われておったのか! マヌケじゃのう」


「クロス、貴様あぁぁぁ!!」


 静寂に包まれるギルド内にメフィストの絶叫が響き渡った。


 やれやれ、うるさい奴じゃ。せっかく儂が穏便に事を済ませたと言うのに。

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