儂の名は。
「ヴォルディガーン様! 奴らが、騎士団が攻めてきます!」
儂の部下たち、黒の教団の者たちが声を揃えて叫ぶ。
騎士団、おまわりさんみたいな物じゃな。それが一体何じゃと言うのか。
やれやれ、若いもんは落ち着きが無いのう。
「国内での黒魔術は全面禁止されてるんですよ!? ここでの研究がバレたら我らは一貫の終わりです!」
あぁ、そんな決まりもあったかのう。
……やばくね? 儂、やばくね?
禁術使って若返っちゃったけどヤバイのぅ。
けどせっかく転生して記憶も取り戻したのに年寄りの体は……。それに生涯掛けた研究も無駄にはしたくなかったし……。
なれば……。
「解散じゃ」
そう告げる。これしかあるまい。顔が割れてるのは儂だけじゃ。その儂も今は若返って子供の姿。
見つかる心配もあるまいて。こいつらも、黒装束脱げばそこらの人間と変わらんし。
「あの、ヴォルディガーン様? 今何と?」
「ええい! 儂をヴォルディガーンと呼ぶな! これから身を隠すんじゃぞ!」
他に誰もいないから良かったが、儂の素性が割れてしまうでは無いか。
「では……、何とお呼びすれば……?」
ふむ。儂は思案する。折角じゃし前世の名前……、はダサいし嫌じゃな。
そうじゃ! 儂の脳裏に閃く妙案。
「†黒き終焉の炎†じゃ」
儂のゲーム名なら良いじゃろう。カッコ良いのぅ。
「え……、今何と?」
「くろ……、くろ?」
「クロス黒き終焉の炎クロスって言ったか?」
馬鹿者どもめ。
「そこのクロスは発音せんで良い。黒き終焉の炎じゃ」
不思議がり、戸惑っておるのう。このカッコ良さが伝わらんのか……。
「もう良い、儂のことはクロスと呼ぶが良い」
「はい! ではクロス様、我らはこの先どうすれば?」
な……!? そんな事もわからぬのか? 指示待ち人間じゃのう……。呆れてしまうわい。
はて? どうするか……?
「とりあえず様付けは止せ、子供にそんな態度怪しまれるわい。とりあえずその恰好も着替えよ。
あとは何食わぬ顔で生活するなり国を出るなりで、ほとぼりが冷めるのを待つかのう」
「お言葉ですがクロス様! いえクロス、君……! 貴方の喋り方も十分に怪しいのでは……」
ふむ、それもそうじゃ。
「じゃあ姉ちゃん達、誰か一人で良い。変装用の服を買ってきてくれ。オレの分もな」
子供用の服なんて無いからのう。あ、いかんいかん。やはり慣れしたんだ口調は変わらんのう。
儂はオレ、儂はオレじゃ。
意識を新たにする。
見ると此奴ら、オレがいきなり口調変えて驚いておるな。ククッ、可愛い奴らよ。
数十分後、家に入りティータイムを楽しんどる所に服を買ってきた奴が戻ってくる。
着替えてみるが……、何てセンスの無さじゃ。カッコ良さのカケラも無いではないか。
これではそこらにいる子供と変わらん。
「イマイチじゃな」
思わず呟いてしまう。
「申し訳ありません! ですがもう時間がありません! 逃げましょう!」
おぉ、そうじゃったのう。
「のう、考えたんじゃが。オレは単独で国を出る」
その言葉に一同が驚愕する。
じゃがオレの意思は変わらん。
「何を仰いますか!? ヴォル……、クロス君! 貴方が居なければ我々はどうすれば!」
何でも儂の言う通りにしとけば良いと思うなよ。
「ほら、あれじゃ。通信用の魔道具があったろ? 丸っこい水晶の。困ったらアレで連絡せい」
「いえ、ですがーー」
うるさいのう。
「儂はな、冒険者になりたいんじゃ」
「何を言っておいでですか! その様なお姿でーー」
納得せぬか? じゃが儂の、オレの意思は変わらん!
「儂はな、冒険者になりたいんじゃ」
再度、同じ言葉を告げる。魔力を高め、闇のオーラを出し威圧する。
押し黙る一同。どうやらわかって貰えた様じゃな。
「儂はのう、幼き頃より。いや、この世界に誕生するより前から冒険者に憧れておった。
圧倒的な力を振るい、周囲に賞賛され、一獲千金も地位向上も思うがまま。何もせずとも女が寄ってくる。
そんな冒険者にのう」
オレの言葉を聞いて皆が言葉を発しない。わかって貰えて何よりじゃ。
「ではオレは行く。じゃあの」
「お! お待ちください! ヴォルディガーン様!」
一人の男が立ち上がる。儂を止めるつもりか? ふふ、そうはさせんよ。
儂は闇の魔力と体内の気を高める。
右腕に闇の力、左に生命の波動を込めて練り上げる。
そして後ろを見ずに振り返り様、それを放つ。
「闇功波砲!!」
拳から放たれるエネルギーの塊、その衝撃の反動が身体にビリビリと伝わる快感。
儂の脚が地へと軽く埋もれる。
生気と闇のオーラ。それらが混ざりあった混沌のエネルギーが収束され、男を吹き飛ばす。
エネルギー砲はそれだけで収まらず儂の家を木っ端微塵に爆散させる。
「ほほ、ちょっとやり過ぎたかの。じゃがまあ、オレの冒険の旅が! 今! 始まる!!」
儂はすっかり晴れた青空を見上げ、駆け出した。




