これが……儂の力……!?
戸を叩く音が聞こえる。肌に触れる冷たく硬い、床の感触。
何かが儂の名を呼ぶ。
この声は……、奴らか……。
何故儂は床なんぞで寝転がっておるのか、ボケたかの?
雨音がしない。止んだのかの。
眼鏡……、眼鏡は何処じゃ?
日頃から掛けている眼鏡、もはやアレ無くしてはマトモな生活を送れない。
儂は目を閉じたまま周囲を探り、眼鏡をかける。
「な!? なんじゃ……!? ボヤけて全く見えんぞい!」
慌てて眼鏡を外す。儂は……、儂の目はそこまで耄碌してしまったのか!?
だが眼鏡を外した儂に映るのは鮮明な、クリアな視界。
思わず声が漏れる。
儂は歓喜と驚愕。その二つに打ち震えて重たい腰を……。いや、軽くなった腰を上げ、立ち上がる!
「体が! 羽の様に軽い!!」
叫び。喜びの叫び。狂喜乱舞……!
若返りの禁術は成功した。思わず羽が生え、飛び立ってしまいそうな感覚。
「おい! 今の声は何だ!?」
「ここはヴォルディガーン様のお屋敷……、あのお方は何者もココに立ち入らせない筈」
「まさか……、国の刺客!?」
「ヴォルディガーン様の命が危険だ! 急いで扉を開けろォ!!」
屋敷の外から奴らの声が聞こえ、それを聞き心臓が飛び上がる。
待て待て待て待て。待つのじゃ!
扉を無理やり開けるでない!
儂は扉に向けて駆け出す。
駆け出す、とは言っても爺の体力ではそれほど早くはーー。
そう思った瞬間。儂の体は扉に向けてぶっ飛んで行き、扉を破壊してしまった。
扉の向こうに立つ奴らを吹き飛ばしながら。
目の前の光景に唖然とする。
何が……、何が起きたのかのう?
「敵だ! やはり敵が侵入しているぞ!」
「うおおお!! ヴォルディガーン様をお救いしろお!」
一拍の間を置き、我に返った奴らが叫ぶ。
奴らの生き残りが家の中へと詰め寄ってくる。いかん、弁解せねば……!
「待て待て! 儂じゃ、ヴォルディガーンじゃ!」
「おのれ小童! 貴様の如き子供がヴォルディガーン様を名乗るとは!!」
「我ら闇の教団の創始者、ヴォルディガーン様を何処へやった!?」
「貴様ただの子供では無いな! やはり国の回し者か!」
「気を付けろ! このガキ、勇者かも知れねえ!」
此奴らの目は節穴なのかの? こんな奴らが儂の部下とは……。悲しいのぅ。この歳で独りぼっちよりはマシじゃが。
それにしても子供とは、ちと若返り過ぎたかのう?
「本当に儂はヴォルディガーンなのじゃ! 若返りの禁術が成功してーー」
「問答無用!!」
儂の言い分も聞かずに、襲ってくる闇の教団の幹部メンバー達。此奴ら……、前から思っとったがアホじゃのう。
そこを利用して儂の研究の手伝いをさせとったから何とも言えんが。
迫り来る無数の、杖による打撃。
魔術師なのに物理って何じゃ……。何故距離を取らんのじゃ。
儂は短く呼吸し、魔力を腕へと込める。そして人数分の掌底を放つ。
相手は五人、儂の拳は二つ。だが一瞬の攻撃はさながら儂の腕が増えたかの様。
「おおぉ! 千手暗黒掌!!」
千手観音の如く、掌底の連打を叩き込むモンクのスキル、をそれっぽく再現した物。
それに黒魔術師、ウォーロックの生命吸収のスキル、をそれっぽくした物を合わせた連撃。
その攻撃は奴らの体を吹き飛ばし、生命吸収の効果も合わさって奴らは立ち上がる力を失う。
加えて儂は吸収した分で、今使った体力魔力の消費はチャラ!
「これじゃ!! コレがやりたかったんじゃあ!!!!」
儂は絶叫する。
自分の前世からの天才ぶりに、今世で努力が大成した奇跡に感動する。
この歳になっても毎日のジョギングと筋トレ、三食栄養の取れた食事を積み重ねてきた甲斐があると言うものよ。
若返りの薬ではなく、禁術なのがそれを後押しする。
鍛え抜かれた肉体を劣化させる事なく、ただ全盛期の若さを取り戻させてくれた!
「いやぁ〜、儂ってばスキルの組み合わせ方とか全然わかってなかったんじゃなぁ」
儂も若い頃は冒険者なんぞに憧れていた。
じゃがスキルだの組み合わせだの発想のカケラも無かった儂は全く才能が開花しなかった。
まあ今が良いから結果オーライかのう。
両の手を合わせ合掌する。ありがとう千手観音……。
「そ、その攻撃の構え……。ヴォルディガーン様?」
倒れていた黒魔術師(笑)が、驚愕に目を見開き切れ切れに声を上げる。
「何じゃ? まだ聴こえておらんかったのか? お主らも歳じゃのう」
儂は未だ暗雲立ち込める空を見上げ、高らかに笑った。




