2 謁見 ~緑の月 風曜日~ ②国王からのドレス
「皇女殿下、苦しくはないですか?」
「えぇ、大丈夫です」
四の鐘半時過ぎ、ドルディア国王からの贈り物として部屋に運びこまれたドレス一式を、昨日から夕食と朝餉を持って来てくれているリラが、一緒に着付けを手伝ってくれていた。
「マルセイさん、そちらの袖をこのように巻いて付けてくださいませ」
「はい」
「マユーラさん、この布を肩から掛けてこのように美しいひだをつけて行ってください」
「はい」
見たこともない複雑な着方のドレスに、戸惑いながらもマルセイとマユーラは、リラに教わりながら着付けてゆく。
「これで完成です」
「わぁ、綺麗な色ね……」
セレンディーナは、鏡の前でドレスを確認するようにゆっくりと回ってみた。
鏡に映るセレンディーナが着ているのは、ドルディアの色である青い鮮やかな光沢のあるドレスだった。
それは始めに、白い光沢のある肩出しのロングドレスを着せて、一枚一枚少しずつずらしながら淡い水色の布を重ねていき。
四枚目から鮮やかな青色を重ねて行き次第に色味が深くなり。腰布を巻いて布を固定させ、最後に長い子腰布でウエストを絞り美しいひだを作る。
光沢のある白からグラデーションで少しずつ色が鮮やかな青へ変わるドレスが、動くたびにサラサラと、ひだが揺れて光を含み艶めいて見えた。
「なんて美しいのかしら……」
くるくると回ってドレスの光沢を確かめるセレンディーナ。初めて着る異国のドレスの軽さと美しさについ、リラがいるのも忘れてはしゃいでしまった。
「セレンディーナさま? ……まぁ、この色の重なりの美しさは、わたしでもはしゃいでしまいそうで仕方ありませんが……」
一つ咳をして、マルセイは窘めつつも、セレンディーナに同意してしまう。それほどまでにこのドレスは美しかった。
「ドルディアのドレスは、こんなに布を重ねて着るのね? 驚いたわ」
「実は、亡き王妃様のお輿入れ時に着て来られたドレスなのです」
「……レチアーノ王妃様の?」
ドルディア王国の王妃は、情報の精度は定ではないが、十年以上前に病で身罷られたと、聞かされた事がある。
お輿入れの時に着て来たとすれば……。
「確かレチアーノ王妃は、神大陸のブランシェ王国の出身でしたよね? このドレスは、ドルディアの物ではないのでしょうか?」
「はい、大国ブランシェ王国のドレスなのです」
「お輿入れの時の……、そんなに前のドレスには見えないわ、特殊なデザインだからかしら?」
無邪気に鏡の前で、くるくるとドレスを楽しむセレンディーナ。
「ふふ……、セレンディーナ様の蜂蜜色の御髪が映える青さですね」
マユーラが自分の主を誇らしそうに見て言った。真っ直ぐに褒められて、セレンディーナは、頬を染めてうつむいてしまう。
確かに、姫の蜂蜜色の豊かなウェーブの輪郭が際立って目に映る。
「このドレス、着付けを覚えるのが大変でした、複雑さ故に、ブランシェ王国でもこのタイプのドレスはもう作成しなくなったらしく、今では大変貴重なんだそうですよ?」
「確かに、これは複雑ですね」
「侍女泣かせのドレスです」
三人の侍女たちは、今着付けたドレスの手間のかかりように、各々頷き合った。
「でも、とても美しいわ、こんな大切なドレスを頂けるなんて……」
今は亡き王妃のドレス。ドルディアの国王は、セレンディーナを歓迎してくれているのだろうか?
そう思ってしまうほど、このドレスには大切と思える縁が有り過ぎて。勘違いしてしまいたくなる。
「まるで、歓迎されているようで嬉しいわ」
ついこぼれてしまったセレンディーナの言葉に、部屋にいたガレジアの侍女と騎士は、思わず息を飲んだ。
「もちろんです、皇女殿下のお輿入れは、国をあげて大歓迎でございますよ」
なんの曇りもないリラの笑顔と言葉に、ガレジア側の全員がホッと息をついた。
「ふふ……、それは良かったわ」
願わくば、そうあって欲しい。
例え『飽くる事なく、独り愛でられん、赤き花となれ』と自国を旅立ったのだとしても。




