1 入城 ~緑の月 雨曜日~ ③騎士と翼竜の交代
所詮、数月前までは敵国、友好の度合いも手探りのようだ。
「セレンディーナ様、お手を」
「わかりました」
周りには聞こえない声で、マルセイと意思を交わし頷く。セレンディーナは手袋をした手が震えないように、注意して騎士の手をとった。
「私の膝の上に、御足を乗せてください」
「……っ!?」
段差の高低差の為か、トゥルクに言われてセレンディーナは躊躇した。降りる為とは言え、さすがに人の身体の上に足を乗せるだなんて出来ない。
困ってマルセイを仰ぐと、息を飲んでいたマルセイが、姫を見て頷いた。
「騎士様、さすがにそれは、致しかねます」
「では、皇女殿下失礼いたします」
「……っ!」
トゥルクは、コルセット当たりに手を添えて、セレンディーナの身体をふわりと持ち上げて、ゆっくりを地面に下した。
「皇女殿下、こちらへ」
エスコートされ、翼竜と護衛騎士から程よく離れた場所に、椅子とテーブルが置かれ、茶器の用意がなされていた。
「お気遣い感謝いたします」
話すなと、マルセイに言われていたが、自分付きの騎士に最低限のお礼をしたくて、セレンディーナは口を開いた。
「勿体なきお言葉、恐縮致します」
「早急に、翼竜と騎士の交代をいたしますので、こちらで御くつろぎください」
セレンディーナを椅子に座らせて、騎士の礼をとると、トゥルクはそのまま彼女の護衛についた。
アレイナに降ろしてもらった、マルセイとマユーラもあわててセレンディーナのもとへ行くと、ドルディアで用意された侍女たちが、くるくると動き、茶器にお茶を注いで皇女をもてなしていた。
「トゥルク殿、ここからどのくらいで城へ着きますか?」
セレンディーナの逆サイドに護衛に就いたアレイナが、新しく仲間になる騎士に問いかける。
「そうですね、……七の鐘までには、入城出来るかと」
やはり夕食も湯浴みもドロップスの効果もギリギリだなと、後ろに控えたマルセイは心の中で息をついた。
首尾良く翼竜の入れ替えが済み、更に高度を上げた籠が山岳の山々を抜けてゆく。
見たことのない景色に目を見張りながら、ガレジアの一行は沈みゆく夕日の美しさに一抹の不安を覚えていた。
「姫さま、本日の夕食は部屋でとなりましたので、ゆっくりと就寝まですごせるかと」
アレイナが、トゥルクと打ち合わせした内容を教えてくれる。
「トゥルクは本日から、姫様の部屋の外で警護についてくれるそうです」
「では、……ドロップスは朝食の後でも大丈夫かしら?」
「問題ないかと」
「良かった、魔法酔いが酷くて、少しでも間をあけたいから」
「そうですね……、姫さまのお身体を考えて、ドロップスを減らさなければ」
「公以外の文官への対応は、わたしとマルセイで行って、姫さまがどうしてもの時はヴェールと衝立てにすれば、謁見までは元のお姿でも問題ないかと」
マユーラの提案に頷きつつ、アレイナとセレンディーナを交互に見やり、マルセイが思案する。
バレてしまえば元もこもないが、第一に考えたいのは、もちろん姫の体調だ。
本番で倒れてしまえば、本当に束の間の和平で終わる。こちらが多めに立ち回れば、何とか繕えるだろう。
「……帝国式と思わせれば、出来なくはないわね……」
ほどなくして日が沈み、夜目に窓の外の景色もままならなくなって来て、室内も表情が判別しにくくなってきた。
「真っ暗で、何も見えなくなってしまったわね……」
「仕方ありませんね、マユーラ灯りをお願い」
「はい」
室内は、マユーラの出した魔石で灯りをとった。窓の外は、セレンディーナが見たいと思っていた城の外観を、見る事が叶わない夜闇に包まれてしまった。




