6 訃報 ~歌の月 羽曜日~ ①茶会の余韻
「昨日は、本当に楽しい一時だったわ」
少し遅めの朝餉後のお茶の時間――
セレンディーナは、昨日のミスティーナの恋の作戦達を思い浮かべ、うっとりとしていた。
「本当に面白いお方でしたねぇ」
おかわりのお茶を入れながら、マユーラも楽しそうに頷く。
「えぇ、明るくて快活で、知識も豊富で、元王女さまとしての気品もあって、素敵な方でした」
自分では成しえない考え方、他者をも巻き込んで目標へ向かう行動力。彼女は、今までセレンディーナが読んだ、どの物語の主人公よりも生き生きとした女性だった。
「作戦④のピクニックに行って、落とし穴の罠にディアロア宰相が嵌ってしまった時はどうなるのかとドキドキしました」
「あぁ、あれは本当によく嫌われなかったと、心配でわたしもドキドキしましたよ」
「姫さま? 普通は、それで助けた王女さまに惚れるなんて、ありませんからね?」
「そ、そうよね……」
「マルセイ、……ディアロア宰相もあれで惚れてはないでしょう?」
「い、一応勘違いしないように言っておかないと」
突飛過ぎる作戦なだけに、マルセイはセレンディーナへの悪影響が心配だったようだ。
「確かに、あの作戦にどんな意味があったのかしら?」
「……ん~? 他とは違う女をアピールした印象作戦だと思いますよ?」
マユーラは、ミスティーナの作戦行動の意図が理解出来るらしい。昨日も楽しそうに、給仕の合間に聴いていた。
「まぁ、そんな意図があったなんて、ミスティー様は本当におもちゃ箱をひっくり返したのように面白い方ね」
「ふふ……、そうですね」
「次の作戦を聞くのが楽しみだわ」
自由で快活。その姿に憧れを持ってしまうのは、今のセレンディーナには仕方がない事だった。けれど、これから正に数日後に政略結婚を挙げる皇女殿下には少々眩し過ぎる光ではある。
「姫さま、あのお方は稀! 稀な存在ですからね、憧れるのは良いですが、真似ようだなんてお考えにならないで下さいませ」
マルセイが本気で心配するのも無理はない。今から自由恋愛など出来るはずもないのだから。
「大丈夫よマルセイ、ちゃんと物語と現実の区別はついているわ」
セレンディーナは思いのほか明るく、真面目な笑顔で、マルセイを真っ直ぐに見ていた。
それは十三歳の少女には見えない。ガレジア帝国の和平をその身一つで背負った、責のある皇女の顔だった。
「姫さま……」
「物語は現実とは違って、自分には出来ない事を、幾つも実行してくれて体験させてくれるから楽しいの」
それは、満たされない現実を物語で満たしている事に他ならないが、それは今のセレンディーナに出来る、精一杯の娯楽なのだ。
「……っ、また本を仕入れないといけませんね」
「……次に宰相夫人とお会いする日を決めた方がいいかしら?」
侍女二人の気遣いが胸にしみる。この二人とて、自分に仕える為この国に一緒に来て、自由な恋愛など出来てはいないだろうに。
「ふふ……、どっちも早いと嬉しいわ」
思いがけず、元王女と言う良い友人が出来た。そして、わからなかった婚約者様が確定した。
アドルフィン王太子殿下――
英雄と言われるような武に秀でた方。まだ少し怖い、けれど……。
願わくば、アドルフィン王太子殿下と、男女の愛ではなくとも家族として慈しみ会えるような関係を持てればと、セレンディーナは思った。




